<Perfect sky>
「………あんたって………ムカつく」
纏っていたバスタオルをゼロスの顔に投げ付けた。
―――なんでも、解ってるような顔、しないで。
「…あ!しいな!何処行くんだよ!?」
ゼロスの驚いたような顔がちょっとだけ、小気味良かった。
旅が終わって、久しぶりに皆で集まろうってことになった。
どうせだったらヴァカンスも…………そう言い出したのは誰だったか……あたしたちはアルタミラで集まることになった。
アルタミラには色んな娯楽があるけれど、暑いし、せっかくだから泳ごうって話になった。
―――そんなつもりはないんだけど………。
あたしはロイドを目で追っていたらしい。
だから、目に入ったのは偶然………と言えないの…かな?
とりあえず、見ちゃったんだ。
ロイドとコレットが木陰でキスしようとしてるのを――――。
だけど、次の瞬間、目に入ったのはキスシーンじゃあなくて………紅い髪のアホ神子の暑苦しい顔だった。
「なんなんだい!あんたはっ!?」
我ながら、ちょっと力を入れ過ぎた……かもしれない。
「ぅおっ?! いきなりビンタはないでしょーよ〜?しいな〜」
貴族らしく男の割に白いゼロスの頬にくっきりと、あたしの掌の跡がついて―――。
「あんたがいきなり暑苦しい顔突き出すからだろっ!!」
あたしは木陰に二人の影を探した―――いない。それは安堵だったのか………………?
「……だってさぁ、しいな。せっかくアルタミラ来てずっとパラソルの下はないっしょ〜?リフィル様じゃあるまいしさ〜」
「あーもー、やかましいね!あんたはいつも通りナンパでもしてな」
しっしっ…と手を振ると、ゼロスはちぇーとか言いながら、あたしの横に座った。
「……何座り込んでんだい?」
「ナンパする娘、物色してんの」
いかにもな答え。……いつもだったら『そんなのあっちでやりな!』と叫ぶところなんだけど……今は正直、そんな気に
もなれなかった。
「あ、そ」
「あ、そ………ってもーちょっと絡めよ!」
はぁ……あたしは溜息をついた。
「くらーい!!暗いぞ!!せっかくアルタミラ来たんだから、ちったぁ楽しそうにしろ!!」
「うるさいねっ!あんたがいなきゃそれなりに楽しいんだよ!」
「んな心にもないことゆーなよぉ。大体、あんなん見たって目の保養になるわけじゃねーし」
ゼロスの言葉が胸に刺さった。ゼロスは真っ直ぐ海を見ている……。
――やっぱり、こいつ、さっきの気付いてたんだ………。
湧き上がってくる憤り。
…………あたしの苛立ちは……そんなことで晴れるわけもないのに―――?
あたしは立ち上がった。
「………あんたって………ムカつく」
纏っていたバスタオルをゼロスの顔に投げ付けた。
―――なんでも、解ってるような顔、しないで。
「…あ!しいな!何処行くんだよ!?」
ゼロスの驚いたような顔がちょっとだけ、小気味良かった。
無視して、高台へ走っていく。
「しいな!」
世界一有名………と言っても過言ではない派手な男があたしみたいな地味な女の後を追って来るんだから目立たない
わけがない。
「なんなんだよ!早く戻ろうぜ!」
ご丁寧にかなりの高台にまで追って来て下さった『神子さま』に笑いかけてみた。
ゼロスが息を飲む。
それを尻目に、あたしは海にダイブした。
「しいな!?」
泳いで足の立つところまで、行くと――――ご自慢の紅い髪を濡らしたゼロスが立っていた。
「バカっ!!」
珍しく、本気な顔で睨み付けて来るゼロスに怯んだ。
「めちゃめちゃ……心配したっ!」
ゼロスは突然、あたしを抱きしめて来て………。
「…ちょっ…!!ゼロス!?」
その行動にめちゃくちゃ焦った。だってここは海の中とは言え、アルタミラ。人の目は多い上に、ゼロスは目立つ。
……しかも、ここは海だから、当然ゼロスは上半身に何も着てないわけで…あたしの頬にはゼロスの剥き出しの肌が触れ
ていて―――そんなシチュエーションに慣れている筈もないあたしは大暴れした。
だけど。
ゼロスのあたしを抱きしめる力は思ってるよりずっと、ずっと強くて――――。
―――それだけじゃ、ない。きっと、離れられないのは――――――。
ゼロスは、ようやくあたしを離すと、まじまじとあたしを見た。
「どこも打ってねーだろうな??」
「見りゃわかるだろ!」
ほぅ…とゼロスが溜息を付く。
「もーしいな!驚かすんじゃねーよ!寿命が10年は縮んだじゃねーか!」
「それはこっちの台詞だよ!!」
いつもの口喧嘩をしながら海を上がると、仲間たちが呆れた顔で待っててくれた。
「お前らなにやってるんだ??」
「ラブラブだね〜」
「……アルタミラの海では飛び込みは禁止なのだが………」
「……しいなさんの飛び込み……綺麗でした」
「どーしてゼロスがしいなに抱き着くのかがよくわかんないんだけど?」
「さ。皆揃ったのだから行きましょう? 今日は久しぶりに私が料理の腕を奮います」
「………………」
リフィルの爆弾発言に皆が凍り付く。
ぱっと、ゼロスがあたしの手をとった。
「…!」
蒼い目を見るとその目は笑っていて………一緒に走り出した。
「リフィル様の手料理はマジで勘弁〜!!」
「珍しく同意見だよ!!」
今度は二人で、海へと跳んだ…………。
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end
2006.9.13up

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