<Perfect sky> side Z
雲一つない青い空。
ここは常夏の楽園アルタミラ―――。
せっかく久しぶりに皆で集まったってゆーのに……。
俺はちらっと斜め前に座った女を見た。パラソルの下だろーが、バスタオルを被ってよーが、そのナイスバデー
は隠しようもない。
―――目立ってる……なんて知るわけないよなぁ。
だってしいなだもんな。
ロイドといい勝負で鈍い+お子様思考回路のしいながんなことに気付くわけもない。
本人は多数の男(……まぁ俺も含まれるわけだが…)の注目を浴びていることに気付きもせず、我らがリー
ダー、ロイド君を熱心に見ていた。
―――分かりやすい奴………。
ロイドを見ているしいなを眺める気分ったら……ねぇよな。
――――片思いってこれか〜。
………ちなみにこれはしいなに対して感じているわけじゃない。俺自身に、だ。
俺の熱視線、感じねーかなぁ……。。
しいながこくり、と唾を飲んだ。しいなの視線の先には―――驚くことに木陰でちゅうしようとするロイド君とコレッ
トちゃん。
ロイド〜?!いつの間にそんな高度なスキル(?)を?!
―――とりあえず。
俺は、しいなの前に顔を突き出した。
「なんなんだい!あんたはっ!?」
と、叫びと同時にしいなのビンタ。
―――っつーか世界が一つに統合されたとは言え、この元テセアラの神子ゼロス様をポカポカ殴るのはしいな
(+遺跡モードのリフィル様………)くらいなんですが〜。しかも今のは力入れ過ぎじゃねーか??
「ぅおっ?! いきなりビンタはないでしょーよ〜?しいな〜」
「あんたがいきなり暑苦しい顔突き出すからだろっ!!」
……暑苦しいって………。
しいなは視線をロイドとコレットがいたところに戻した。……そこにはもう誰もいない。
あの二人は俺としいなが騒いでるのを見てそそくさとどっかいっちまったよ。
しいなはじぃ…とそちらを見ていた。
……そんな顔を見ると………つらい。
きっとお前が考えてんのと大して変わんねーんだろーけど……こっち、見ろよ?
「……だってさぁ、しいな。せっかくアルタミラ来てずっとパラソルの下はないっしょ〜?リフィル様じゃあるまい
しさ〜」
「あーもー、やかましいね!あんたはいつも通りナンパでもしてな」
しいなは、掌をひらひらと振った。
―――分かりやすい『あっち行け』『一人にしろ』というサイン。
昔の俺なら女の子にそんな態度をとられたら(……とられたことがないが……)「あっそ」と言ってホントにどっ
か行っちゃうんだが……そーゆーわけには行かないんだな。
それはきっと……お前だからなんだけど……自覚なんてねーよな。
俺はしいなの横に座った。その行動が意外だったらしくしいなは目を丸くする。
「……何座り込んでんだい?」
素直に答えるのは癪に障るからいかにもな答えを言った。
「ナンパする娘、物色してんの」
「あ、そ」
いつもだったら『じゃああっちでやりな!』とか怒号が飛びそうなものだが、しいなの返事は素っ気なかった。
……これは凹んでるな………。
「あ、そ………ってもーちょっと絡めよ!」
はぁ……しいなは溜息をついた。
「くらーい!!暗いぞ!!せっかくアルタミラ来たんだから、ちったぁ楽しそうにしろ!!」
「うるさいねっ!あんたがいなきゃそれなりに楽しいんだよ!」
売り言葉に買い言葉、って奴なんだろーけど……流石にその発言は俺のグラスハートに突き刺さった。
―――だから、だろうか。ほんとはあんなこと、言うつもりはなかった。だけど、言ってしまった。
「心にもないことゆーなよぉ。大体、あんなん見たって目の保養になるわけじゃねーし」
……しいなが息を吸い込む気配を感じた。
……きっと、傷付いた顔をしているのだろう。それを見たくなくて視線は海に固定したまま―――――。
「………あんたって………ムカつく」
その言葉と同時にバスタオルが飛んで来た。
目が点になったのは突然の行動に驚いたからだけじゃない――しいなの見事なナイスバデーが青空に映え過ぎてたからだ。
―――そんな俺を置いてしいなは走り出した。ビーチの高台へと走って行く―――。
「しいな!」
って……止まるわきゃないか。すごいスピードで走って行くしいなを俺は追い掛けた。
ナイスバデーなしいなと自分で言うのもなんだけど、ハデな俺。その追い掛けっこが目立たない筈がない。
ほとんど崖、と言ったところでしいなは止まった。
「なんなんだよ!早く戻ろうぜ!」
くるり、と振り向きしいなは確かに、俺を見て、笑った。
正直、みとれた………次の瞬間、しいなは海に飛び込んだ!
「しいな!?」
叫んで手を伸ばしたけど………届くわけもなく。
しいなは雲一つない完璧な青空を切り裂いて海に消えた。
「………………」
「………………」
真っ白になった頭に訪れた次の感情は―――怒り。
「あのバカっ……!!」
俺は下まで走った。海の中へと入って行く。
アルタミラの海は飛び込むような海ではない。いくらしいなが運動神経抜群でも無事かどうかなんて分からない……。
そんな俺の気なんて微塵も知らない様子でしいなは、しなやかに泳ぎながらこちらへやってきた。
ぷはぁ……と息を吐きながら海から顔を出すしいな。
「バカっ!!」
俺らしくもなく、感情から言葉が零れ落ちた。本気で睨み付けたせいかしいなの肩がぴくりと強張る。
「めちゃめちゃ……心配したっ!」
思わずしいなを抱きしめていた。――――頭の片隅では『らしくねぇ』『カッコ悪い』………とは思う自分がいたが、それ
を無視してでも無事なしいなを確認したかった。
「…ちょっ…!!ゼロス!?」
しいなは腕の中で暴れたが、解放する気はさらさらない。次第にしいなからは力が抜けて行って―――ふと不安になっ
た。
しいなが普通だったらもっと暴れるような気がする。まさか……どこか怪我してるんじゃ…?!
俺はしいなから離れまじまじと観察した。
「どこも打ってねーだろうな??」
念のため、確認。
「見りゃわかるだろ!」
しいな呆れたように言った。自然と安堵の溜息が出る。
―――良かった…。
その瞬間、周りの人間の注目を浴びていることに気付いた。慌てていつもの調子で叫んだ。
「もーしいな!驚かすんじゃねーよ!寿命が10年は縮んだじゃねーか!」
「それはこっちの台詞だよ!!」
いつも通りのやりとり。
いつも通りの二人……。
すぐに戻れるのは楽なよーな残念なよーな………。
海から上がると仲間たちが呆れた顔で迎えてくれた。
「お前らなにやってるんだ??」
おいおい。ハニー?原因はお前なんだぜ?
「ラブラブだね〜」
コレットちゃーん…。君らに言われたくないんですけど……。
「……アルタミラの海では飛び込みは禁止なのだが………」
んなこた知ってるよ。
「……しいなさんの飛び込み……綺麗でした」
………それは認めるが。
「どーしてゼロスがしいなに抱き着くのかがよくわかんないんだけど?」
お前にもそのうち解るよ。ガキンチョ。
「さ。皆揃ったのだから行きましょう? 今日は久しぶりに私が料理の腕を奮います」
「………………」
リフィル様の発言に皆、凍り付いた。
なんでアルタミラ来てあの画期的かつ独創的な料理を…?!
―――冗談じゃね〜。
「…!」
呆然としているしいなの腕をとった。目が合って、二人で元来た道を走り出す。
「リフィル様の手料理はマジで勘弁〜!!」
「珍しく同意見だよ!!」
今度は、二人で完璧な空を切り裂いて海へ――――。
end
|
|