<気づいても引き返せない>


恋したくなるお題
様より。
片恋のお題(1〜20)、17.

FF5 Butz→Faris







「これが最後」の続編になります。

内容はかなり重いのでそういうものは苦手な方はご注意下さい。













街は祭の賑わいを見せていた。

「……?」

なんだろう?

タイクーンはこの時期祭はなかった筈だけど。

「……見てくるから、ボコ待ってろ」

ボコの首を撫でて、俺は街の中に入った。


<気づいても引き返せない>





「やぁ」

「バッツ!」

以前からちょこちょこ寄っていた宿に俺は入った。

「なんかお祭りみたいだけど、部屋あるかな?ボコもいるんだけど」

「あぁ、あんたの為なら用意するよ。ところでバッツ……」

おばさんは何故だか言いにくそうに、俺を見た。

「お城には行かなくっていいのかい?」

「…………」

レナとファリスには2ヶ月位前に会った。ファリスとは少し城を抜けて遠出をした。
そこでまたあった‘親友宣言’。ファリスはいつになく、神妙に『親友でいてくれる?』などと言われ、
俺は内心でかなり凹んだことを思いだした。

じょーだんじゃねーよ!

そう思ったから短く淡白な返事しか出来なったと言うのに、ファ
リスはやっぱりいつになくしおらしく、『ありがとう』、、なんて言われた。

俺の気持ちなんて、あいつは微塵も知らないで。

そんなことをふと思い出してしまって、俺は思わず押し黙る。

「いいんだ、後で寄れたら寄るよ」

「寄れたらって、あんた、明日にはサリサさまはいっちまうのにそんな悠長なこと言っ
てられるのかい?」

おばさんの言葉に、俺は首をようやく傾げた。

「あいつ、どっか行くのか?」

「…………」

絶句するおばさんに鈍いおれもようやく異変に気が付いた。

「……どうゆうことだ?」

「……知らないんだね?」

「さっぱり」

はぁ……とおばさんは重い溜息を一つ付いた。なんであたしがこんなこと………としばらくぶつぶつ
言っていたが、やがて俺をまっすぐに見据え、低い声で言った。

「サリサ様は遠方の国にお輿入れするんだよ」




「……は?」

おばさんの言葉が俺の脳に入ってその意味をきちんと消化するのは、無理そうだった。

「もー、おばさん久し振りだからってジョーダンやめてくれよー」

ふぅ、と零したおばさんの溜息は今まで聞いたことのない位、重いものだった。

「………そんな冗談、あんたに絶対言わないよ」




§§§§§§§§


感情をコントロールできなくなったのはあの時。

リックスの村が無に飲み込まれてしまった時。

もう、こんなことはないそう思っていた筈なのに、俺の身体は走り出していた。

行き慣れたタイクーンの城。当然門番に止められて、入ることは出来ない。

「ファリス!」

構わずに俺は叫んだ。

「なんだ」

呆気なく当たり前かのように現れたファリスに俺は拍子抜けした。

「なんなんだ。お前は夜中に城に特攻かけるたーいい度胸だ」

凛々しい男物の服をぱりっと着こなしたファリス。

下手な男―――少なくとも俺より男前だ。

「……」

それでいてファリスを形成する全てのパーツは間違いなく‘女’で、それが俺を混乱させる。

「……」

ファリスは俺を見て、言った。

「ま、立ち話もなんだ。入れよ」



*********



導かれたやたら広い部屋は、前も来たことのある部屋だった。

遠方から来た客に使ってもらう部屋だと言っていた。広すぎる部屋は肩凝るから、と言ったら仮にも
英雄と言われる男がしみったれたこと言うんじゃないと一蹴されたのをよく覚える。

「……飲むだろ?」

「………そんなことより……」

「……」

俺の話も聞かず、ファリスはグラスに氷を入れ始めた。

「……お前、結婚すんのか?」

からん……。

二人の間に響いた氷の音は、静かに鳴り響き、砕けた。

「……………」

ファリスの目はじっと氷を見つめている――――俺はその目が氷なんか見ていないことを知っている


「……ファリス」

祈りにも似た気持ちでその名前を、呼んだ。

「………………うん」

「…………」

「…………カルナックの貴族、なんだ。あっちに来たら遊びに来てくれよ……」

「………」

重い沈黙――――。

「……悪いけど、無理」

「………っ…」

「絶対無理」

「………なんでだよ?」

ファリスはようやく俺を正面から睨みつけた。

「なんででも……無理なものは無理」

「どーしてだよ!『親友』って言ったじゃねーか!!」

「嘘ついたんだ」

あぁ……。

「お前は俺の親友なんかじゃない!」

「!」

「……ずっと好きだったんだ」

俺はバカだ。

「お前のこと、好きだ」

そんな事言われても、ファリスには迷惑なだけなのに。

そんなことはとっくの昔にわかっていた筈なのに。

溢れ出した感情と言葉は行き場もなく止められはずもなかった。

ファリスは呆然と俺を見詰めている。


その目は戸惑いに溢れ、俺は激しく後悔する。

「……ごめん………」

困らせるつもりなんてなかったんだ。お前の傍にずっといれたら、って思っていた。
それだけでいい、って思っていた筈なのに。

ファリスは何も言わない。

殴る、とか、怒るとかのアクションがあれば、俺だってこの気まずい間をどうにだってするのに。

「…………」

何も言わないファリスの瞳からぽろり、と涙が零れて落ちる。

「………っ……」

その意味が解からなくて、俺は、息を止めた。

ぽろぽろと、零れ落ちる透明なファリスの涙。

どうしようもなく、俺はそれに触れようと手を翳した。

その手をファリスが止める。

「ダメ」

「……………」

「もうダメなんだ。もう引き返せないんだ……」

「…………」

どうして。

どうして?

混乱する。ファリスは涙を拭いて、まっすぐに俺を見て、言った。

「……さよなら」







end


2008.8up
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