初恋
当SSは同じく三つ葉さまに捧げたSS『Without you』の流れを汲んでいます。(単独でも読めますが…)
お暇な方はそちらもご覧下さいませ。これはちっっっとも暗くありませんので安心してご覧下さい。
「……ねぇ…?あんたの初恋っていつなんだい?」
―――しいなの言葉に俺は目を見開いた。
<初恋>
「……」
―――自慢にもならないが。付き合った女の数なら多い――――彼女たちの多くはやはり、昔の女の事を訊きたがった。
しいなもやはり女と言うことか……?
「それってさ〜?」
「ん?」
「……今訊くこと?」
つん……と、先程に首筋に付けたキスマークを突くとしいなはきょとん…として眦を上げた。
「あー!!!いつの間に!!このバカっ!!!」
――真っ赤になって殴りつけてくるしいな――――その反応が可愛いと思うからついつい。
――――そのことにしいなが気付くのはいつのことか……。
「まーまーまーまー。俺さまの愛のあ・か・し……って感じ〜?」
「ふざけんな!!」
――――思いきり殴られた………。
「………で?」
「……あ?」
「あんたの初恋の話だよ。……いつ?どんな人??」
「……なんでそんなこと訊くわけ?」
「あんたってー口ばっかであんまり女に惚れないだろ?だからあんたが初めて好きになった人は相当の魔性の女だと思って」
「………」
―――鋭いんだか、ピントがずれてんだか……。
「……魔性の女ぁ〜?」
「うん。もしかしてどーしよーもなくあんたが軽いのはその魔性の女のせい?!」
「…………まぁ間違っちゃいねーかもなぁ……」
「年上??」
「……年下」
「へー!意外〜」
………しいなの瞳には他の女とは違って嫉妬の色はない…………こいつ……ほんとーにただの好奇心で訊いてやがる……。
「…しいな〜?しいなは俺さまの初恋の君にどんなイメージがあるわけ〜?」
「んーと……年上だと思ってたからな〜。年下だとして……ちょっと背が高くて…でもかと言って高すぎず……」
「うん。当たってる」
「本当?でーあんたの言うところのナイスバデー!」
「うんうん。当たってる」
「へへーん♪で〜頭がいい?」
「ぶっぶー!外れ〜!頭はめちゃめちゃ悪かった〜!」
「……あれ〜?そっかぁ……頭が悪いとあんたを振り回すことなんて出来ないと思ったんだけどな〜」
「……いやいやいやいや。ってかしいなそろそろなんか気付かない?」
「ん?何を?」
「……まぁいいや。……片思いだったんだ」
俺の言葉にしいなは目を見張った。
「初めて好きになって……好きで好きでしょうがなかったけど……そいつは俺を見てくれなかった」
「……告白、とかしなかったのかい?」
「したした。ちょこーっとだけ付き合ったんだぜ?」
「…じゃ両思いじゃないか?」
シンプルな思考回路のしいなに苦笑した。
「………そいつはさ、俺さまが神子だから俺さまと付き合ったの。俺さまに惚れてたわけじゃないんだって」
「なにそれ?!サイテーじゃないか!!」
「だろ〜?……だから俺さまから振ってやった」
「……そんなひどい女に振り回されたからこんなんなっちゃったのかい……?」
心なしか目さえ潤ませて言うしいな……。
「こらこら。こんなんってなんだ?こんなんって!大体俺さまの初恋の君を悪く言うなよな〜!」
その言葉に、しいなは俯いた。
「……なんだよ?」
「………もしかして………」
「もしかして?」
「………なんでも……ない……」
―――俯いて、俺から距離をとるしいな。
―――もしかして……妬いてる…?
「しーいーなー♪」
呼びかけて無理矢理抱き寄せた。
「妬いてる?」
「妬いてないっ!!」
――言いつつもしいなは真っ赤になる。その反応が可愛くて……頬を寄せた。
「妬くな。妬くな。……もーちょい続きがあるんだけど?」
「……知るか!」
口で悪態を突きつつもも、しいなは俺の腕の中からは抜け出さない。
「………ひどい女だよな〜って思った。どうして俺さまの前にこいつは現れたんだよ――って憎んだりもした。いっそのこと記憶が消
えりゃいーのに…と願った位だ」
しいなが小さく息を飲んだ。
「………でも嫌いになったことは一度もないんだ」
「…………やっぱり……あんたまだ……」
しいなの問いに俺は頷いた。
「……おぅ。まだべた惚れよ〜?」
「………」
「……なにより感謝してるんだ。今は」
しいなは何も言わない。
―――もういくらなんでも気付くよな…?
「……俺の前に現れてくれてありがとう。そう思ってる……。あいつがいなけりゃ俺さまは人を好きになるなんてことなかった」
「……そうかい…」
ぽろり…としいなの目から涙が零れた。
「……ってしいな、何泣いてんのよ??」
「触るな!」
―――言われて今度は俺が息を飲んだ。こ……こいつここまで言って気付いてねぇ…!
「……そんな好きな人がいてあたしに触るんじゃないよ…!」
「…………」
――――やっぱり。俺の惚れた女はめちゃめちゃ頭が悪い……。
「……やっぱさっき言った通りだわ…」
「…?」
俺は溜息を一つついて、しいなを引き寄せた。
「……彼女にはまだ感謝してんだぜ?」
「あたしに言うな!バカ!」
「最後まで聞けよな〜?今、俺の腕の中に居てくれて……ありがとう……」
「?????」
顔中を?マークでいっぱいにするしいなの頬にキスをした。
「……分かった?」
「…………分かんない」
「……こゆこと」
―――顔を引き寄せて、キス。
「……うそつき……」
「は〜?それってキスし終わってすぐ言う言葉か?」
「……だって……絶っ対嘘だ!あんたあたしがは……初恋なわけないだろっ!!あたしが単純だから騙そうとしてる!」
「……アホ。お前を騙すならもっと上手くやる。………ホントのことはいつも意外に泥臭くて垢抜けないもんなんだぜ?」
「……あんたが結構、シスコンとか?」
「そうそう。しいなが人一倍臆病とかね♪大体、この麗しのゼロス様の初恋の君がこんな察しの悪い女だなんて………俺さまちょーショック〜」
「うるさい!」
「……で?しいなは?」
「……は?」
「初恋はいつ?誰なわけ?まさかロイド君だったりしないよな〜?」
「んなわけないだろー!あたしの初恋は……」
「………初恋は??」
「おじいちゃんだよ」
「……………は?」
「聞こえなかったかい?おじいちゃん!」
「……」
「おっきくなったらおじいちゃんのお嫁さんになる〜!……って可愛くない??」
「………はぁ……まぁ…」
「そんでもってー次は…近所のやまとだろ〜、次はおろちで〜次はくちなわ!!」
「………は…???」
「あたしさ〜優しくされると好きになっちゃうみたいなんだよね〜」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
こいつだったら有り得る………。
「…………じょーだんだよ!」
「……え……」
「あたしがそんなに惚れっぽく見えるかい?」
「うそー?! お前俺さまを騙したなー!!!」
「別にいーじゃないか!あんただっていっつもあたしを騙してるくせに!!」
「ひでぇ!!騙された!!俺さまのグラスハートは粉々だ〜!!」
「……グラスハートが聞いて呆れるよ……」
本当に呆れた様子でしいなは立ち上がった。その手をすかさず掴む。
「………っでぇ〜誰よ?本当のしいなの初恋の君は?」
「……………………」
しいなは俺の手を振り払った。
「……あたしの初恋はね、あたしの初恋を初恋扱いもしないで自分が神子だからあたしがそいつとつきあった、なんて酷い勘違いしてるサイテーな
奴、だよ」
「………………」
「……あたしが本当に少しも好きじゃない男と付き合う程器用だと思うかね………ま、初恋なんて終わったことどーでもいーんだけどね」
―――鼻を鳴らし俺を見下ろすしいな―――その顔は無自覚な挑発に溢れている。
挑発には乗らないと。
強引にしいなの身体を引き寄せた。
「……んじゃ続きしよーぜぇ?」
「こらこらこら!なんのだい!!」
「勿論、初恋?」
「……バカ。初恋はこんないかがわしいことはしないだろ」
しいなは顔を赤くして俺の手を押さえた。
「…………確かに。んじゃ……とりあえず見つめ合ってみる?」
額を合わせ目を合わせた。
―――褐色の瞳は真っ直ぐに澄んでいて―――それでいて何かに怯えるような不安定な色もあって…………つまり、出会った時と変わらない。もっ
と、見ていたいと思った。
それなのに。
「……」
ぷいと顔を反らすしいな。
「こらこら」
「やだ!あんたってホンットーにそうゆうとこかわんないね!」
「は〜?どこがよ??」
「……あの………その………つまり………あんたの目は……だから」
「??」
「だからっ!! あんたの目を見てるとなんか………胸が苦しいって言うか……息がしにくくなる…って言うか…………あたしがあたしじゃなくなっちゃう
みたいでやなんだよ!」
「………ほっほ〜。俺さま原因知ってるぜ?」
「……な……なんだよ?」
「恋の病って奴ですか〜?」
「…ば……っ……バカっ!!」
「大丈夫。大丈夫。俺さま解決策を知ってるから」
「……!」
すかさずしいなをきつく抱きしめた。
「………好きだぜ? ずっと…」
「………」
――――初恋の女が自分の腕の中にいる。それはなんて素敵な奇跡だろう。ろくな人生送ってない俺でも明るい未来とかゆーものを信じてやってもい
い気すらする。
「……あたしも………だよ?」
「………聞こえね〜」
「…だっ……!だからっ!!」
顔を真っ赤にするしいな―――抱きしめた。
「はいはい。俺さまのステキさにめろめろなわけね?」
「………バカ」
―――とか言いつつも。俺たちはキスをした。
この奇跡が永遠に続くように祈りながら――――。
end
2007.2.19up
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