<white christmas>






「………なぁ」

ゼロスの呼び掛けにしいなはけだるげに顔を上げた。

「……後悔、とかしちゃったりしてる?」

「……なんでさ?あんたこそ後悔してんじゃないかい?……面倒くさいことになった……とか思って
んじゃないの?」

「あはは…」

乾いた笑い声を上げるゼロスを軽く小突いて、しいなはシーツを引き寄せた。

「……心配なんかしなくていいよ。あたしだってそこまでバカじゃない。…………誰にも言わない。
そんでもって………あたしはやっぱりバカだから……さ。すぐに忘れちまうよ。今日あったことなん
て――――……






<white christmas>






夜のメルトキオにイルミネーションの光がさんざめいた…。

「………綺麗……」

お金の余っている貴族らしいバカらしい楽しみだと思う――――けれどその圧倒的な光の洪水は
そんなことを打ち消す程に美しくて―――しいなは目を細めた。


―――クリスマスから新年にかけて主に貴族の住まう上級層でイルミネーションの飾り立てはされ
ていた。室内は室内でもみの木を綺麗なオーナメントで飾っているらしい。


「……クリスマス……かぁ」


―――ミズホにはない風習。マーテル教会にとっての聖人の生誕を祈る行事らしいが今やその宗教
的意味合いは失われつつあり、どちらかと言うとこんな飾り付けの中パーティーをしたり、家族内でプ
レゼントを交換したり…と言ったイベントに成り代わっていた。

最近のメルトキオでは特に恋人同士でクリスマスの前日―――つまり今日だ―――を過ごすのが大
流行だと言う。

アクセサリーの交換なども盛んらしくこの前、仕事でオゼットに立ち寄ると復興途中のオゼットでプレセ
アがトンガリマダラトビネズミのブローチをせっせと作っていた。



――――どっかのアホ神子もきっとこの手のイベントは大好きだから大騒ぎするんだろうねぇ……。

「……ま。あたしには関係ないけど…」

―――とは言えこの美しい景色は確かに一見の価値がある。急いでミズホに戻らないといけない立場
ではあるが…少しだけゆっくりこの辺を歩いてから帰ろう――。

しいなは冷えた自分の手に息をかけすりあわせた。





――――この景色をレアバードに乗って上から見たら綺麗だろうな…。

ふ…とそんなことを思った。レアバードは貴重なものだ。本来そんな私的な理由で使われるものではない。


―――でも……どっかのアホ神子位はやっちゃうんだよねぇ……。



―――旅の途中二人でレアバードに乗って夜のアルタミラを上から見たことを思い出した。

何故かペアルックでゼロスがやたら目立つため、周りにもじろじろ見られ、とても不愉快だった―――け
れどアルタミラの夜景はそんな感情を吹き飛ばす程の美しさで――――。


――――なんか景色があんまり綺麗だから妙なこと思い出しちまったね……。

しいなは立ち止まった。上級層の一際高い部分の広い屋敷。派手好きな主人のまま派手に飾り立てら
れたそれを見て、しいなは溜息をついた。

―――いない……よねぇ。クリスマスイヴと言われる今日、ゼロスが家にいるとはとても思えなかった。

不在だろうと思いはしたが何も言わずに帰るのもなんとも薄情な気もする。

あとから『薄情だ』とかなんとか言われるのも癪だ。

セバスチャンに一言挨拶だけでもしていくか………。

しいながドアを開けようとした途端ドアが開いた。あまりに予想外なことに受け身をとることすら忘れ尻餅
をついてしまう。



――――見上げれば見たこともない位、機嫌の悪そうなゼロスが立っていた。



端正な顔は蒼白で眉間には皺が刻まれていて―――――。

あまりに驚いてその表情に見入ってしまったけれどそれはほんの一瞬だったのかもしれない――すぐに
ゼロスはへらりといつもの笑みを顔に貼付けた。

「よー!しいな!俺さまに会いに来てくれちゃったりなんかしちゃったわけ〜!?」

―――その豹変ぶりは相変わらず…と言うべきか驚異的……と言うべきか。

「…んなわけないだろ。仕事の報告に城によってあんまりイルミネーションが綺麗だからさ…見てただけ」

「おいおい。見てるだけでなんで俺さまん家のドアの前にいんだよ?」

「……それはっ…!」

「まーいーや。ほれ」

ゼロスはしいなに手を差し延べた。

「……」

しいなの顔に一瞬刻まれた迷い―――ゼロスの眉間に皺が寄る。しいなはとっさにゼロスの手を掴んだ。
少し……ほんの少しだけ緩むゼロスの表情。

「うわ!お前手ぇつめてーな!早く家入れよ」

「大丈夫だよ!」

「まーまーまーまー…。セバスチャン! なんかテケトーに食うもん用意して〜。あと暖かい茶、出してやっ
てくれ」

ゼロスはしいなの手を掴んだままさっさと屋敷の中に入って行く。

「いいってば!」

離そうと手をふるがゼロスの手は離れない。

むしろ、しっかりと握って来て、強引にソファーに座らされた。

「まーまー…せっかく来たんだからゆっくりしてってくれや」

「ゆっくりってあんたね〜!大体どっか行くつもりだったんじゃないのかい?イヴだし……ハニーのとこと
か?」

上目つかいで聞くしいなに笑いながらゼロスは言った。

「いや〜。べっつに〜?

ただあの料理のまずーい場末の酒場で飲もうかな〜と思ってだけだし?」

「ふーん……珍しいね。ハニーのとこに行かないんだ?」

「……あの酒場に行きゃハニーなんてくっさる程いるからな〜」

「なるほどね……まーたあんたのことだから明日のクリスマスは派手なパーティーするんだろ?」

ゼロスは眉をひそめた。けれどそれはほんの一瞬でしいなは気付かない……。

「さ〜?どーだろーな〜?しいなはどこか行ったりすんのか?」

「あたし?あたしは仕事だよ。元々ミズホにはない習慣だし」

「へ〜。さっびしーの〜!田舎にはやっぱりクリスマスなんてねーんだなぁ」

うんうん。と頷くゼロスにげんこつを一つ落としてしいなは口唇を尖らせた。

「ミズホにはクリスマスはないけど、七夕とか独特のイベントがあるだろ!」

「あ〜。そーねー…今度、七夕パーティーとかしたらハニーたちが喜ぶかも!?」

「……はいはい。好きにして〜」

「…ちぇーつっまんねーのー…」

「………あ!そうだ!ツリー見たいな。あるんだろ?見せとくれよ?」

唐突なしいなの言葉にゼロスは目を丸くした。

「ツリー?」

「うん。貴族の飾るツリーって見てみたい!ミズホにはツリーなんてないしさ」

「そりゃそーだよな〜…クリスマスがなきゃツリーも飾らねーよな〜。わ〜。かわいそ〜」

「うるっさいね!」

「はいはい。こっち」

ゼロスの後に着いて行った部屋には大きなツリーが1本置いてある。それはゴールドのオーナメントを中心
に豪奢に飾り付けられていた。

「わ〜!!綺麗だね〜!」

「俺さまのツリーらしくゴージャスだろ〜?」

「あんたのツリーがどうの、ってのは置いといてゴージャスなことはゴージャスだね」

―――綺麗なゴールドの球体のオーナメント、透ける羽根を持つ蝶のオーナメント、頂には硝子細工のハー
トのオーナメント。ブロンズゴールドのリボンがゆるやかに巻かれ、ツリーの下の方には大きな薔薇があしら
われている。

統一感のある豪奢なツリー――――けれど違和感を覚えた。

「……なんか珍しいよね?」

「…ん〜?何がよ?」

「ツリーってさ、赤とか白とかの飾りが多いだろ?金色も多いけど……これは赤も白も全く使ってないんだね」

「………」

ゼロスの目が宙を彷徨う。

――――まずいことを言っちゃっただろうか……。

「うん〜。俺さま的には統一感のあるゴージャスさを目指したわけよ〜」

「……そっか…」

「さっ。ツリーはもーいーだろ〜? 飯、飯〜!」




セバスチャンの出してくれた料理は文句の付けようのない味だった。リーガルの腕にも勝るとも劣らないだろう。

――――それなのに。

「……あんた、全然食べてないじゃないか」

―――ゼロスの皿には殆どの料理が手付かずで残っていた。

「ん〜。ダイエットしてんのよ。実は」

「え?必要ないじゃないか?」

「じょ・う・だ・ん。俺さまのどこに無駄な肉があんのよ〜?」

――ばきっ。

「食べないならあたしが食べるよ」

「いって―!殴るなら事前に言えっつの!!大体そんなに喰うと太るぜ〜?ま、しいなは殆どの栄養が胸に……」

ゼロスのいつもの発言にしいなは微かに鼻を鳴らし、ひたりとゼロスを睨み付けた。

「―――あんた。誰かを待ってるのかい?」

「……は…?」

「ずっと…ずっと窓の外をちらちら見てる」

「…………」

「それに……いつになく余裕がないじゃないか?」

ゼロスの顔から表情が消えた。

「………あたしに遠慮しないで行くならさっさと行きなよ」

「………」

―――肝心なところでボケをかますしいなに笑い掛ける気力は既になく―――ゼロスは口唇を歪めた。

「………俺さま……何も待っちゃいねーよ。ただ……不安なんだ」

「………不安……?」

居間を出て、ゼロスは歩き出した。

少し逡巡してしいなも後を付いて行く。





辿り付いたのはやたらに広いゼロスの部屋――――夜だと言うのにカーテンは開け放たれていた。



「―――今年は寒いよな」

「……?うん。寒い……ね……」

――――その言葉に、ようやく理解する。

――――雪……!

ゼロスは雪を畏れているのだ。

「……今年はなんだかんだで忙しくてさぁ……逃げおおせられるか……あぶねーよなぁ?今にも降ってきそう」

「…………」

―――しいなは夜空を見上げた。暗い闇の中は―――何も見えない。

厚い雲が覆っているのかいないのか……それすら分からない――――。

けれど―――暗闇からひらひらと舞落ちる粉雪――――「ははっ。噂をすれば……って奴だなぁ…」

ゼロスは乾いた笑い声を上げた。

「……降ってきちまいやがった…。……フラノールで見る雪はな……まだ平気なんだけど……ここで……ここか
ら見る雪は…………」



―――ゼロスは遠くを見た。

ゼロスの瞳に映るのは―――雪なんかじゃない――――いたたまれない気分になって、しいなはゼロスの手を
掴んだ。


ゼロスの手は冷えていて――――しいなは自分の手でゼロスの手を包み込んだ。

「……」

「……クリスマスだったんだ」

「……え…」

「……かつてない大雪…ってのは有名だろーけど……クリスマス前日から降り出して当日は真っ白で……本当に
ホワイトクリスマス……って奴だった」



――――つまり今日と全く同じシチュエーションだったわけだ。

「……こっから、樅の木が見えるだろ…?」

―――ゼロスは窓の外を指した。しいなはゼロスの頬から手を離して窓の外を見た。

―――離れて行く距離に怯えるようにゼロスはしいなを後ろから抱きしめた。

「……あの人は……あの木から俺を狙ったんだ」



今も鮮やかに思い出す。



―――赤い雪。



「……樅の木は雪を孕んでいたから、よく見えなかったんだろうな」


―――故に魔法は的を外した。あまりにも寒くて集中力も途切れたのかもしれない―――――。

―――だから、ゼロスのツリーには赤も白も使われていなかったのだ……。



『……お前なんて……』



ミレーヌは神子を庇った聖母として祭り上げられた。その方がストーリーとして美しいし、残った幼い神子への民衆
の支持を集めるためにも都合が良かったからだろう。




『……産まなければ……良かった……』





「……いつも。思うんだ。……あの木からどんな気持ちで俺を狙ったのか……?」

―――狂気に蝕まれて死んでいったあのハーフエルフは……。

「―――もしも…」

死んだのが母ではなく―――自分自身なら。

―――母も。あのハーフエルフも――――そしてセレスも幸せになれたのではないだろうか……?

「……俺じゃなく……」

しいなは首を振った。

「……もしも……なんてきっと……意味ないよ…」

しいなは顔を歪めた。

「あたしだって……今も思う。あの時もっと頑張っていたら……勇気があったら……って」

―――幾度、願っただろう?自分の命と引き換えに里の失われた命を戻して欲しい―――と。

「……でも。ダメなんだ。あたしは過去には戻れないし。あの人たちを生き返らせることなんて出来ない………いっそ
忘れられたら……そう、思う」

―――もしもこれが彼女でなければ。
何も知らない人間が何を――と一笑に付していただろう。

「……でもあたしは忘れない。忘れちゃいけないから…」

「……強い…よなぁ…。俺もいつか乗り越えられるのか……?」

「……さぁ。あたしも乗り越えられてるのかどうかね…。ただ……あたしはあんたが生きててくれて嬉しいよ。……ひ
どい人間かもしれないけど。あんたのお母さんじゃなく、セレスじゃなく、あんたが生きてることがあたしは嬉しい」


ぎゅっと強く抱き合った。雪も何もかも消えて互い以外残らなければいい―――――そう、思った。







窓を見上げれば弱々しい朝の光の中、未だ雪が降り続いていた。


――――ホワイトクリスマスか……。

「………なぁ」

ゼロスの呼び掛けにしいなはけだるげに顔を上げた。

「……後悔、とかしちゃったりしてる?」

「……なんでさ?あんたこそ後悔してんじゃないかい?……面倒くさいことになった……とか思ってんじゃないの?」

「あはは…」

乾いた笑い声を上げるゼロスを軽く小突いて、しいなはシーツを引き寄せた。

「……心配なんかしなくていいよ。あたしだってそこまでバカじゃない。…………誰にも言わない。そんでもって……
…あたしはやっぱりバカだから……さ。すぐに忘れちまうよ。今日あったことなんて――――………………いたっ!
何すんだい!?」

額を指先で弾かれて……しいなは批判の目でゼロスを睨みつけた。

「……お前が興ざめするよーなこと言うからでしょーよ」

「暴力奮う男なんてサイテーだよっ!」

「……お……お前とゆー奴は自分のことを棚に上げてよくぬけぬけと……!」

「うるさいねっ!」

はぁ〜……とゼロスは溜息を付いた。

「……このシチュエーションでここまで甘い雰囲気になれねーのはおかしくねーか?? 普通、初めての朝ってゆーもん
はな〜もっと恥じらうとか〜甘えてくるとかだなー…」

「恥じらいも可愛いげもなくて悪かったね!」

ゼロスは容赦なくげんこつを落とそうとするしいなの手首を捕まえて、キスを鼻先に落とした。

「……別に可愛くないなんて言ってないぜ〜? むしろ照れちゃって可愛い〜vとか思っちゃったりして〜」

「ふっ……ふざけんじゃないよっ///!!」

首筋まで赤く染め上げて、しいなはゼロスから顔を背けた。身体ごと反対を向けたかったがゼロスが両手の手首を捕ら
えているのでそれは叶わない。

「ありゃりゃ。そっち向いちゃうわけ〜?」

ゼロスは捕らえた手首ごとしいなを引き寄せた。しいなの身体がピクリと強張る。

――――人の感情に誰より敏感なゼロスの表情も強張った。

しいなの目尻に光る物が更に心を掻き乱す。



怖ず怖ずと、目尻の涙を指先で拭い取りながらゼロスは静かに聞いた。

「……なぁ。ホントに後悔してねぇか……?」

「してないってば…!………あたしは……あたしはあんたの傍にいたかったからそうしただけ。昨日のあんたに冷静な
判断力がなかったことくらい解ってるから…」

「……あのなぁ……どんな状況だろーが俺さま、しいなよりは常に冷静だぜ…?大体……」

ゼロスの口唇をしいなは掌で塞いだ。

「――――あんたにとってはたくさんの内の一つにしか過ぎないだろーけど……あたしはホントに……どうすればいいか
分からないんだ。あたしは……あんたと違って人の考えてることとか読むのも苦手だし……」

―――……一晩の戯れ。そう言われても、何も言わない。けれどゼロスの口からそれを聞くのは怖かった…。


「後悔なんてしない。後悔なんてしない……ここを出たら、またいつも通りだ」



――――また口喧しい喧嘩をして。

時々、ゼロスを殴って。

ゼロスは口を尖らせて―――――そんな日常に戻るだけ。



「あんましつこく後悔、後悔言うんじゃないよ!!」

――――出た声はごまかしようのない涙声になってしまった。ゼロスがそっとしいなを抱きしめて来る。

――――密着するわけでも、離れるわけでもない距離は昔のまま。
頭のどこかで自分とこの男は永遠に平行線を辿るような気がした。


「………いつも通り……か。それも悪かねーけどさぁ………」

しいなの掌を外しながらゼロスは呟いた。


――――ロイドを見ていたしいなを知っている。

自分の方を向いて欲しいと願いながら、彼女には幸せになって欲しいと思っていた。半端者だと言う自覚ははっきりとある
から、近付きたいのに近付けない自分がいた。



「………」

二人言葉なく窓を見上げた。

……ひらひらと舞う白い雪。

「………綺麗だね」

「………」

「……イルミネーションもすごく綺麗だけど雪の方がもっと、もっと綺麗だよね……」

「………」

ゼロスは何も言わない。しいなは窓を見上げたまま静かに笑った。

「………あんたは雪が嫌いだから綺麗だなんて思わないかもしれないけど……あたしはけっこう好きなんだ」

――――届かないことなんて解っていながら手を伸ばさずにはいられない。なんて愚かな性(さが)なのだろう――――そ
んなことを思いながら窓の外に手を伸ばす。

それは雪に届くわけもなく宙を掻くだけ。

「……白い雪は……古い傷も……汚いとこも……犯した罪も…………消してくれるから」

――――いつかこの日のことも忘れてしまうのだろう。白い雪に覆われて全てが消えてしまうように―――――。

「………忘れる、なんて思うな」

「……!」

――――自分の気持ちを正確に読み当てられたことに驚き、ゼロスの顔を見た。 ゼロスの灰蒼の眼にはいつものふざけ
た色はなく、戸惑う。

「……雪を見たら思い出せよ」

「………どっかの雪が苦手なヘタレのアホ神子を?」

「バ〜カ。俺は思い出すぜ?きっと。雪を見たら……お前のこと。照れてたとことか〜…傍にいてくれたこととか」

「………」

「………雪を見ても辛いだけじゃなくて、お前のことを思い出したらきっと――――平気だと思うんだ」

「……そう思ってくれるならそれほど嬉しいことはないよ」

するり……としいなはゼロスの腕の中から抜け出した。思いの外、華奢な背中が露になりその白さにゼロスは目を細め
た……。

「もうあたし行くね?今日も仕事だし」

「………しいな……」

『行くな』と言いたかった。言えない自分の狡さにも言わせないしいなの頑なさも―――泣きたくなる程で――――。





「じゃあね」








―――――窓の外を見た。

雪は―――止んでいた。ふと下を見るとしいなが真っ白な足跡のない雪の道を歩いて行く。



『後悔なんてしない。後悔なんてしない……ここを出たら、またいつも通りだ』――――そうなのか?


自問自答した。

―――それでいいのか?


――そんなのは……。




――――嫌だ!!




自分らしくもなく、大声を上げた。

「しいな!!」

―――きょとんとした顔で見上げて来るしいな――。

「仕事終わったら寄れよ!!」

「はぁ?」

「……あの時みたいにタンデムしよーぜー!この季節のメルトキオはアルタミラに負けない位絶景だぜ〜!」

息継ぎをして、叫んだ。


「あとお前に言いたいこともあるからよ!!」


自信など微塵もないが。元通りなんて真っ平だ。

―――進み始めたなら何処までも行ってみるしかない。

少しは自分もあの単純少年を見習って勢いで物事を進めてみようではないか。

―――うあ〜。こんなとこまであの熱血バカの病気がうつってやんの。

それはそれで悪くないかもしれない……。

「一緒にホワイトクリスマス過ごそうぜ〜!」

「………」

しいなはキョトン…とゼロスを見上げていたが…ふと微笑んだ。口唇が静かに『バカ…』と呟く。

「じゃあ、あたしにもプレゼント用意しといてよ!」

「………おう!任せとけ!」

――――シャンパンと花束を用意して………何より贈りたい言葉があるんだ。


「じゃあ!また後でね!」





end




2006.12.21up