<WAKE UP!>


その日は朝から大騒ぎだった。夏休みが終わり、学校が始まると言うのに朝からデンゼルと
マリンが大喧嘩を始めたのだ。



<WAKE UP!>




普段聞き分けが良すぎる位のマリンも、ヘソを曲げると梃子でも動かない。


………なんだかんだで、マリンには甘いデンゼルも今回の件では譲る気はないらしい。


―――時間ないのに……。ティファは眉を八の字にした。

「……あの……きっかけはなんなの??」

「デンゼルが!」

「マリンが!」

「「「…………」」」



ティファは時計に目をやり息を飲んだ。

―――いけない!クラウドを起こさないと!

今日のクラウドの仕事はかなり遠方で飛空挺に乗らねばならなかった筈だ。そのためシドに頼ん
でおいたのだ。

遅刻は許されない…!

とりあえず。クラウドを起こそう――――
そう思ってティファが立ち上がると、マリンが火がついたように泣き出した。

「……ま……マリン!?」

マリンが泣くとはよっぽどのことだ。これは……顔を見ようとしゃがみ込むと、マリンが抱き着いて
来た。

―――普段から気丈なマリンがこんな態度を取るのは珍しいが、少し子供らしくなさすぎる
のを気にしてもいたため、少しだけ安堵した。

マリンを抱きしめて、優しく髪を撫でてやる。

―――だが、時間は刻一刻と過ぎて行く。


―――ど……どうしよう?



思案に暮れるティファの視界に見慣れた細い人影が映った。

「ティファ〜!お腹すいたぁー!ご飯まだー!?」


―――そっか。ユフィがいたんだわ。

昨日から、ユフィが遊びに来ていたのをすっかり失念していた。
しなやかな身体で伸びをしながら入ってきたユフィも部屋の様子に凍り付く。

「…な……?!どーしたの!?」

「……こっちは大丈夫。悪いんだけどクラウドを起こして来てくれないかな?」

「……えー?クラウドー?」

ユフィは眉をひそめた。

―――確かクラウドってめちゃくちゃ寝起き悪かったよねぇ??

旅の間はティファが起こしていた。確か1回、レッドが代わり『2度とやだからね!』と言っていたのを
覚えている。

「……ごめんね。こっちが少し手が離せなそうなの。お願い」

マリンはと言えばまだ泣き続けているし、デンゼルはムスっとしている。



――確かにこれじゃあ、無理か。

ただで手伝いもせず美味しいご飯もご馳走になっているわけで………。

「しょーがないなー。ユフィちゃんの朝ご飯大盛にしてよねー」

そう言って、部屋を出た。



「おーい!クラウドー!!」

部屋のドアをとりあえず叩く。………返事はない。

――まぁこの程度で起きるとは思ってないけどさぁ……。

ユフィは部屋のドアを開けた。

クラウドはシーツの中ですやすやと眠っていた。

その邪気のない寝顔は、普段の彼とは違い過ぎて息を飲む。

―――あー!カメラ持って来ればよかったぁ!!

そんな後悔をしながら、クラウドに近付く。

「おいっ!クラウド!!」

クラウドは全く起きる気配を見せない。

「………」

………やはり相当手強いようだ。

仕方なくクラウドのシーツを剥ぎ取った。

「えっ!?」

クラウドは上半身に何も纏っていなかった。
彼の鍛えられた身体に驚きユフィは、出来るだけ見ないようにしながら肩を揺する。

「クラウド!!時間だよ!!今日仕事なんだ……っ!?」

ユフィは息を飲んだ。
クラウドに抱き寄せられたのだ。

「……ティファ」

明らかに寝ぼけユフィを抱きしめながらクラウドはティファを、呼んだ。

「ティファじゃなーい!!バカバカバカバカっ!!!」

「……………ユフィ」

半覚醒の極めて据わった目でクラウドはユフィを睨んだ。

「ユフィじゃないよっ!あんた仕事なんだろ!!」

「………なんでユフィなんだ?」

「……は??」

予想外の質問にユフィは目を丸くした。

「……俺を起こすのはティファだけだ。やり直しを要求する」

「はぁっ?!」

ユフィの素っ頓狂な声を無視し、クラウドはシーツを再び被ってしまった。

「クラウドのアホっ!!遅刻したって知らないからねっ!!」





ユフィがリビングに戻ると、マリンとデンゼルの喧嘩は終わったらしく和やかな空気が戻っていた。

ティファがキッチンの中で慌ただしく朝食の用意をしている。ユフィに気付いたティファは振り向いた。

「ユフィ。ありがとう!クラウド起きた?」

その言葉にユフィは疲れた顔で首を横に振った。

「ティファじゃないと起きないって。やり直しを要求するとか言って二度寝してる」

「…………」

ティファは絶句した。

「ティファが起こしに行った方がいいよ。絶対クラウドはティファじゃないと起きないからさ」

「そうだね。ティファ、朝ご飯あとはあたしがやるから、クラウドを起こしてきて!」

「………そうね。急がないと遅刻しちゃう!じゃマリンお願いね」

深く溜息をつきながらティファはリビングを出た。



「ったくもぉー!!」

「……ユフィ姉ちゃん、クラウドに抱き着かれた??」

―――何故それを??ユフィがぎょっとしながらデンゼルを見るとデンゼルはおよそ歳には不似合い
なシニカルな笑みを浮かべていた。

「俺もマリンもやられたんだ」

こくこくと頷くマリン。

「それで結局、いつもティファが起こすの!」

「……クラウド、子供みたいだよな」

「ティファが甘やかすからいけないのよ!」

大人のような顔で言う二人にがっくりと疲れながらユフィは苦笑いした。





ティファは階段を勢いよく駆け上がった。

「クラウド!バカなこと言ってないで起きて……あれっ!?」

そこにはシーツに包まり寝息を立てるクラウド。

―――本当に寝ちゃったの……?!

クラウドの寝顔はいつ見てもドキドキする程綺麗で―――本当は誰にも見せたくない…。だってこんな
クラウドを見たら……。

寝顔を眺めながら陥る思考にティファは首を振った。

――違う違う!起こさないと!!

「クラウド!」

クラウドの肩に手をかけ叫ぶと、手を捕えられた。

「!?」

あっという間に身体も捕らえられ、抱きしめられていた。

「クラウド!ふざけてるばあ……!」

ティファの台詞は最後まで発されることなくクラウドの口唇の中に消えた…。

長い長い接吻の後で、甘やかな目でティファを見ながらクラウドは言った。

「……やっぱりこうじゃなきゃ起きる気がしないな」

「…………////」

―――そんな顔されたら何も言えないじゃない。

あぁつくづく甘すぎる…………この人に。。

ティファは嘆息した。



end


2006.9.3up