<Trick or Treat?>




<Trick or Treat?>






城では順調にパーティーの用意が進んでいた。

なーんでこうしょっちゅうパーティーやるんだか……。

はぁー……と俺は溜息を……「姉さん!!足!!」

「げっ!?」

パブロフの犬のように、俺はその声で足を閉じる。

「もう!姉さんたら……」

「…だってさー……こんな長いスカートはいてんだから見えやしねーよ……」

そう言って俺は、ドレスの裾をつまんだ。

「そういう問題じゃないわ!」

「………」

これじゃどっちが姉だかわからねぇ……。

思いつつ、俺は足を閉じ可能な限りおしとやかに両手を膝の上に置いた。

レナはにっこりと笑った。

「姉さん、今度のパーティーはね、クルルも来れるそうよ」

「え!本当か!?」

「えぇ。最近のパーティーは貴族ばかりで姉さんには気詰まりなものばかりだったでしょう?久しぶりに楽しんでもらおうと思って招待し
たの」

「……」

この聡い妹は、全てお見通しだ……。俺がパーティーで気詰まりな思いをしていることも、なにもかも……それで気を遣わせている
俺……。なさけねーな……。

「……ありがと」

ううん、と首を振ってドレスを翻し颯爽と部屋を去って行くレナは姉の俺から見ても最高にいい女だった……。





「Trick or Treat!!」

「ひゃっ!!?」

ぱんぱん!とクラッカーが弾ける。いつもは城には出入りの少ない子供がわらわらとどっから出て来たのかきゃいきゃいと
騒いでいる。どいつもこいつもキテレツな格好をしていて―――。

「!??!!」

目を白黒させる俺とは対称的にレナはにこにことガキ共にキャンディーを振る舞っている。

「サリサ様もお菓子ちょーだいよー!」

「おっ……お菓子!?」

「くれなきゃ悪戯しちゃうんだからー!」

「……」

悪戯できるもんならしてみやがれー!とガキをからかいたくなったがおおよそこのガキも貴族のガキなので踏み止まる。

きゃいきゃいと群てきたガキに俺はレナを振り返った。レナは菓子の入った籠を俺に手渡す。



「これが今度のパーティー??」

「そう。ハロウィンよ。姉さんやっぱり知らないのね」

「仮装してねーお菓子貰うのー」

ガキが拙い言葉で教えてくれた……。

「こ……これを渡しゃいーんだな……」

俺はガキに籠の中のチョコレートを振る舞った。

きゃいきゃいとガキが更に群がってくる……。



「今日はこれで終わりか?? あれ?クルルは?」

ガキは大体いなくなって俺は首を傾げた。貴族とは言えガキはまだまだ扱いやすい。これで終わりならちょろいな……。

「終わりじゃないわよ。夜には私たちが仮装する舞踏会があります。クルルはそっちに来るから」

「……あ…。そっか……」

仮装ねぇ……仮装かぁ………仮装?!!

「俺も!?」

「そうよ。姉さんはぴったりの用意してるから楽しみにしてて」

楽しみって……。


呆然とする俺を置いてレナはるんるんと歩いて行った……。





「なんなんだよ〜?!この格好ー!!」

「姉さん……似合うわ……」

いつものひらひらとは違う短い丈のスカートに、露出度の高いトップス―――――拙い胸の谷間は無論、臍まで覗いている!!

頭には黒魔導士みたいなとんがり帽子。


「……なにこれ…」

「あら。知らない?魔女なんだけど。はい。ロッド」

「に……似合わねぇ〜〜!!」

「そんなことないわ」

そういうレナはいつもの可憐な格好から一転、凛々しい軍服姿だ……。

「……俺、そっちのがいい…」

「ダメよ。意外性ないと!クルルはどんな格好で来るか……楽しみね」

本当に楽しそうだ……。



*******




「……」

遠くで、音楽が響いていた。結局俺はパーティーの喧騒から離れたバルコニーに一人立っている。

久しぶりにクルルには会えたけど……。

妖精の格好をしたクルルは『ほ〜…』とか親父よろしく俺の身体にぺたぺた触りその後は極自然に貴族たちの中に溶け込ん
で行ったのだった……。

久しぶりに会えたからもーちょっと話でもしたかったんだけどな……。

「……まぁしょーがねーか……」

「何が?」

間近に聞こえた男の声に俺は身を固くした。

貴族連中に見つかったら何を言われるか知れたもんじゃない。

不自然な笑顔を張り付け、俺は男を振り返った。





「………あ……」

「よ♪久しぶり」

飄々とそう言ってのけたのはかつての旅の仲間―――――バッツだった。

「……えーっ?!なんでっ!?」

「……なんでって……レナが招待してくれたんだ。ファリスが退屈してるからって」

「……バカ……」

正直過ぎるバッツの物言いと―――そこまでもレナに察しられていることにようやく気が付き俺は思わず呟いていた……。


「え?」

「なんでもねーよ!……」

俺はようやく冷静にバッツの格好を見た。

大きな耳に……ふさふさの尻尾……。咄嗟に掌を出す。

「お手!!」

「犬じゃねぇっ!!」

凄い勢いで否定され、俺は戸惑う。

「………犬……じゃねーのか………??ぴったりだと思ったんだが……」

「どの辺をもってしてぴったりなんだっ?!!狼だよ!狼男!……ったく気合い入れてたのに……」

「狼……そんな恐ろしいものとは程遠い……」

「うっせー。ファリスは似合ってんじゃん」

「え?あ……あ……」

急に自分の格好が恥ずかしくなって俺は身体を縮こませる。

「レッ……レナとクルル、似合ってたよなっ!!」

話を変えようとしたけれど―――バッツは手招きする。

いつになく、強引にバッツは俺を抱き寄せて来た。

「えっ!?」

『やめろよ!』『誰か来たらどーすんだっ!』――――そんな言葉はいつもは澄んだ青空のような色の目に浮かぶ妖しい色に掻き消えた。

照明のせいか――?いつもはただ真っ直ぐな光を宿しているバッツの目が―――妖しく見えるなんて……。

なのに、俺は魅入られたように目が離せないでいた。

「……」

「Trick or Treat……?」

低く囁かれたバッツの声に俺はびくりと身震いした。

「……どっちでも同じくせに……」

悪戯だろーとお菓子だろーと、この男にとっちゃ同じようなもの――――しかも、嫌じゃない自分にムカついて俺は悔し紛れに言ってやった。

「……違いない」

バッツはにやりと相好を崩した。

「んじゃ遠慮なく♪」

そういってバッツは俺にキスをする―――俺は目を閉じた。

ぱさり、と乾いた音をたてて帽子が落ちた―――。




end


2007.10.29up