<Timeless Love>





※※このSSは『beauty & beast...?』の流れを汲んでいます。よろしければそちらからお読み下さい※※




「んじゃ。あとよろしく〜」

――― 立ち去って行く二人―――――周りは口々に言いたいことを言っている。

『田舎者がゼロス様を惑わせて…!』

『……ゼロス様も火遊びが過ぎますわ…』

――――露骨な敵意と悪意――――以前は何とも思わなかったし感じもしなかったけど………その思い
の強さが今は怖くて、私は自分の肩を抱いた。

「プレセア?寒いの?」

「……ジーニアス…」

心配そうな顔をするジーニアスに私は微笑んだ――――笑ってくれるジーニアス。上手くいったんだろうか。
私の笑顔は―――――。

止められてしまった時のままに、私の全ては止まってしまった。身体の成長はもちろん、心も―――だから
私は表情を作り出すこともまだ少し苦手で―――。

私はジーニアスに言った。

「……寒くは…ないです。ただ……少し驚いただけ…」

「……っとに人騒がせなんだから!あの二人は!!」




<Timeless Love>




―――ゼロス君としいなさん。

二人は、旅の時から喧嘩ばかりしていた。二人共互いが嫌いではなさそうなのに、私から見たらくだらない
ことでしょっちゅう怒鳴り合っていた――――不思議で、しいなさんに聞いてみた。

『……しいなさんは……ゼロス君が嫌いなんですか…?』

『大っ嫌いだよ!!あんなのいなくなればもー少し静かな旅になるのにー!!』

―――しいなさんと‘静かな旅’って……違和感あります。続いてゼロス君に聞いてみた。

『……ゼロス君は……しいなさんが大嫌いですか?』

『……は?』

『……いつも喧嘩ばかりしています……特にゼロス君はわざわざしいなさんを怒らせているようなので…し
いなさんのこと……嫌いなんですか?』

ゼロス君はしばらく驚いた顔をして……笑った。

―――不思議にそれは笑顔だったのに、私にはゼロス君が泣いているように見えた。何故だろう…。

『嫌いじゃないぜぇ〜?俺さまは女の子は皆大好きだからv』

『……じゃあ何故…怒らせるんですか…?』

『…………そうだよな。プレセアちゃんは……時が止まってた時期が長いもんな…。男はさぁ…好きな女の
子をわざとからかったり怒らせたりしちゃうわけよ』

『……何故ですか??』

『ん〜…やっぱりその娘のいろんな顔を見たいって思うとか……歪んだ愛情表現かねぇ…』

『………よく、わかりません』

『やっぱり?……俺さまもよくわからねぇ……ホントは笑ってて欲しいんだけどねぇ………ごめんね。ちゃん
と答えられなくて』

『いえ……もう一ついいですか?』

『どーぞ〜?俺さまに答えられる範囲なら』

『……ゼロス君は他の女の人を怒らせようとはしませんよね?コレットさんにもリフィルさんにも……私にも
とても……優しいです。しいなさんだけを怒らせるのは……しいなさんが特別だからですか?』

……くっ……とゼロス君は喉を鳴らした。

『あはは…!プレセアちゃんは鋭いねぇ!……それは確かにそうかもね。でもこれは俺さまとプレセアちゃ
んだけの秘密にしといてくれる〜?』

――――秘密にする理由がよく私には理解できなかったけど、ゼロス君がそう言うならそれは誰にも言って
はいけないんだろう。

『分かりました。秘密……ですね。誰にも言いません…』

『そ。秘密。よろしくね』

ゼロス君は人差し指を自分の口唇の前に立ててウィンクした―――――過去の記憶を辿って私は頷いた。






「……二人は変わったのでしょうか…」

―――2年経って喧嘩ばかりしているのは変わらないけど、しいなさんはゼロス君の‘特別’で、ゼロス君
はしいなさんの‘特別’―――それはもうゼロス君と私の‘秘密’なんかじゃなく、皆さんが知っていること……。

「変わんないよ!あの二人は!!……ちょっとは素直になったのかもしれないけどさ…」

「………でも少しは変わったんですね…」

―――私は2年の間に変わったんだろうか……。

私は目の前のジーニアスを見た。――――見る見る紅くなるジーニアス……違和感がある。

「……ジーニアス……背が縮みましたか?」

「ち……違うよっ!!プレセアが大きくなったんだよ!!」

「……私……大きくなったでしょうか?」

ジーニアスは少し不機嫌そうな顔で言った。

「……大きくなったよ!顔も大人っぽくなった」

「………」

「………」

――――そうなのだろうか?――私はガラスを見た――――そこに映る私は確かに2年前の私とは違う。


―――確かな時を刻んでいるんだ……。

俄かに不安になる。

―――身体は失った時を取り戻している―――じゃあ……心は?

心は時を刻んでいるんだろうか……。

昔よりは‘感情’と言うものを理解出来るようになった……けどあの時、はっきりと理解出来た‘怒り’の感
情以外は……きっとこうなのかもしれない……といった曖昧な理解だ。

―――どうすればいいんだろう…………。

この気持ちに名前を付けることすら出来なくて、ただただ……私は戸惑った。

「……プレセア…?」

「………ジーニアス…………ジーニアスは私のこと、好きですか?」

「…え…ええええええ…っっっ?!」

――――どうして焦るのですか?ジーニアス…。

「……ジーニアスは私をからかったり怒らせたりしたいですか?」

「……えぇぇぇぇ……は?」

「……私のこと、怒らせたりからかったりしたいですか?」

「思わないよ!!思うわけないじゃないか!……なんでそんなこと言うの?」

「………ゼロス君が。ゼロス君は……しいなさんが‘特別’だからしいなさんを怒らせたり、からかったりし
てしまうそうです…………もしも」

何故だかその先を言うのは躊躇われた―――恥ずかしいような―――なんという感情なんだろう……。

「……もしも…ジーニアスが私のことを好きならそう思うのですか?」

「…………」

「……身体は大きくなっても……私……解らないんです……解るようになる日が来るんでしょうか…」

―――アリシアがリーガルさんを愛したように、私も人を愛することが出来るんだろうか………。

「………ボク…」

ジーニアスがまっすぐに私を見た。

「……ボクはきっと……プレセアが好きなんだと思う。……だから、プレセアの笑顔を見たいし、プレセア
の喜ぶことしてあげたい…って思うんだ」

「……私……」

―――薄々、ジーニアスは私に好意を持っている……そう思っていたけど……実際に面と向かって言
われると―――何を言えばいいのだろうか……?

そもそも『感情』をろくに解っていない私が……愛される資格なんてあるんだろうか……。

ジーニアスは首を振った。

「…いいんだ。答えてくれなくて」

「……でも……」

「ゆっくり……時間が流れてもしもいつかプレセアがそーゆーのが解るようになった時にボクを好きに
なってくれたら嬉しいけどさ!」

ジーニアスは私から目線をずらした。

「……ボクには時間なら腐る程あるから」

「……そうなんですか…?」

「……ボクたち、ハーフエルフは長命だからね」

ジーニアスは少し淋しげに笑った。

「ロイドやコレットと一緒に育ったけどさ、ボクらハーフエルフは成人したらもう老化しないんだ。だから
……姉さんみたいに大人になったらボクはもう、ロイドやコレットと同じ時間は生きられないんだ……」

そんな…………。

「仕方ないよ。ボクはハーフエルフだから。プレセアとも同じ時間をどれ位共有出来るのか考えると
ちょっと怖いけど……」

「……ジーニアス……」

「大人になったプレセアはきっと綺麗なんだろうね?」

―――貴方はそれを知っていて、言うんですか?

貴方は私が大人になって、年老いていっても変わらない宿命を背負っているのに――――要の紋を
付けても変わらない残酷な宿命。

――――貴方は、いつか、大好きな人たちを看取る日が来るんですね……。ロイドさんやコレットさん
…………そして私も……。

「……でもボクは幸せだよ? エルフだったら成長自体遅いから、プレセアと一緒に大人になることも
出来ないでしょ?……ボクがハーフエルフだから一緒に大人になれるんだ」

「………」

私はジーニアスの手を握った。

「……ぷ……ププププ…プレセアっ?!」

――――私の目から涙が溢れて出した。もう―――どれくらい前に流したのか忘れてしまっていた
涙が溢れて溢れて………止まらなかった。

ジーニアスは私の手を握って、一生懸命私を泣き止ませようとしてくれたけど……後から後から涙
は溢れて来て――――どうにもならなかった………。

「……ったく〜!あんたのせいだ〜!!」

「俺さまのせいにすんじゃねー!!」

広い廊下に、ゼロス君としいなさんの叫び声が響いた。見ると、ゼロス君がしいなさんを背負っていた。
しいなさんは、先程のドレスに何故かマフラーを首にぐるぐる巻きにしている。

「このアホ神子ー!!!」

「ぐぇっ!!アホしいなー!!首締めるなー!!お前、俺さまが死んだらどーすんだー!?振り落とし
てやるー!!」

「やめろ!バカ〜!!」

ゼロス君はしいなさんを背負ったままくるくる回り始めた。

―――振り落とす……とか言いながら、ゼロス君はしいなさんの足をしっかり掴んだままだから、しい
なさんが落ちる心配はない。

「………相変わらずうるさいなー……」

私の隣で呟くジーニアス。―――私とジーニアスに気付いたらしいゼロス君が、目が回ってしまってぐっ
たりしてしまったしいなさんを背負ったまま私たちに近付いて来た。

「……よっ!どーしたのよ〜?お二人さーん!仲いーじゃないの〜??」

私とジーニアスが手を繋いでいるのを見てゼロス君はにやにやと笑った。

「ち……ち……ち……違うよっ!!!」

顔を真っ赤にするジーニアス………私はジーニアスの手を握ったまま、ゼロス君を見た。

「……えぇ。ゼロス君としいなさんには負けますけど」

「…!」

ゼロス君はきょとんと私を見た―――すぐに笑い出す。

「うひゃひゃひゃひゃひゃ〜!」

「……」

私も笑った―――作り笑いなんかじゃなくて、心から。

「うんうん。俺さまとしいなの次にナイスカップルだぜ〜」

「アホなことゆーな〜!」

ぐったりした状態から回復したしいなさんの拳がゼロス君の後頭部を直撃した。

「いってー!!」

―――またやかましくぎゃあぎゃあと騒ぎながら遠ざかって行く二人……。

「……ホントにうるさい二人だね……」

げんなりと言うジーニアス。

「……でも……あんな風になりたい……です」

「えっ!?……あんなのに?!」

「……お互いを……大切にしてるから」

「………してるかなぁ??」

ジーニアスは首を傾げた。私は笑ってジーニアスを見た。

「……行きましょう?ジーニアス」

私には、‘愛する’という感情は解らない。だけど、私は、ジーニアスを大切にしたいし、ジーニアスと過ご
せる時間を大切にしていきたいと―――今は、そう思うから。




end









2007.1.14up