<ゆらゆらと>



ゆらゆらと



俺は揺れている。

こいつらに付くか?

――――クルシスに付くか?

全てから逃げおおせるか?

立ち向かうべきなのか?



だが、妹は………。

セレスの望みは……。



『お前なんて産まなければ良かった』



俺がいなくなって全てが円滑になるならそれもいいかもしれねーな………。

どうせクルシスの連中も、俺を使うだけ使って捨てる気だろうし……。

どうせ使われるのなら、妹のために――…………。



ゆらゆらと傾いていく俺の天秤。

思わず溜息が零れた。



「……あんた……さっきからどうしたんだい?」



ひょいと覗き込んでくる褐色の瞳に俺の思考は中断された。自分から目を合わせて来たくせに俯いて、小さな声で訊ねる。

――気配を感じさせねーのは流石ミズホの忍びってとこか??

「……どうした……って何が?」

「なんか……いつもと違うからさ…」

単純しいなに悟られるとは、俺はそんなに解りやすい態度をとっていただろうか??

「なんか……調子くるっちまうんだよ。あんたがいつもと違うと……」

素直じゃないしいなの、精一杯の心配の言葉。可愛いげは微塵もねぇのに、つい笑みが零れた。

打算ではなく、傍にいたい、そう思った自分に、心の中で舌打ちをする。



―――こんなことで、長年の願いを手放していいのかよ?

俺はそんなバカじゃなかった筈だ。

俺のゆらゆらと揺れ動く天秤は本当は動く方向を決めていた筈。



「なに〜?しいな、俺様の心配してくれてんの?これってラヴ?愛ってやつ〜?」

そうだったら、いいけどね。しいなは分かりやすいから、誰を見てるかなんて、よく分かってる。

俺の願いはガキの頃から叶えられることがなかった。


―――なら最期に命を賭けた願いを成就させてくれよ?

―――神子からの解放と、妹の自由を――――。



「ちがっ…!何バカなこと言ってんだい!」

しいなをからかうのも後どれ位だろう?

バカバカしいくらいに切なくなる。



―――なぁ……。しいな。俺がこんなこと言えた義理じゃねーから言わねーけどよ…。

お前には生き延びて欲しい。

生き延びて………。



不覚にも熱くなる目をごまかすために、俺は殊更ふざけた口調で続けた。

「なーに。メルトキオに置いてきたハニーたちのことを考えてただけ〜」

「……は?!こんな時に何考えてんだい!?やっぱりあんたはサイテーだよ!!」

あぁ。サイテーで結構だ。お前に近付き過ぎると、俺のゆらゆら揺れる天秤は故障してしまうから。

固い決意は揺らぐ筈もないのに。


どうしてこうも、ゆらゆらと………………。


立ち去って行く背中を抱きしめたかった。
許されないと分かっていても。

「はぁ……本当に俺さま、サイテー……」



end




2007.3.18up