<優しい人>


恋したくなるお題
様より。
片恋のお題(1〜20)、5.

TOS Shihna→Lloyd






鳴咽を止めることが出来なかった。

あぁ。バカみたい。

いいや。あたしはバカだ。

ゼロスに突き付けられた現実を見るのが辛い。

でも現実とか真実とか事実とかは変わるわけもなくて、冷淡にそこにあるだけ―――――――――知ってるんだよ?あたしだって。

この想いに望みなんてない。

そんなことくらい。

でも――――好き。どうしようもない位、好きなの。

ロイドのちょっとした仕草、ふとした時の大人っぽい顔、子供みたいな顔、飽きっぽいとことか、ダメなとこも含めて全部、好き。

理由なんて知らない。解らない。

でもロイドは―――……。

コレットとじゃれあうロイドを思い出した。

もしも――――もしも……。

有り得ない‘もしも’を考えちまうあたしが、あたしは大嫌いだ。

もしもあたしがコレットより先にロイドに出会っていたら?

もしもコレットが、あのまんま心を失っていたなら……?

「………」

最低。最低。

あの時、ゼロスに向けた言葉はそのままあたしに跳ね返ってくる。



‘奪う’ことなんか出来ないくせに。



コレットにロイドが必要なように、ロイドにはコレットが必要なことをあたしは嫌って位知ってる。

でも――――最低なあたしの何かはあたしに告げる。

コレットも世界も救う……?

そんな都合がいい話、あるの?
もし―――もし、コレットがいなくなったら――………。

首を振った。

もう、消えてしまいたいくらい、自分が嫌だ。

「………しいな…?」

声に息が止まるかって思った。

「……ロ……ロイド?!」

「……し……しいなっ!?な……泣いてるのかっ?!」

「な……泣いてないよっ!!ちょ……ちょっとこっち来ないどくれっ!!!」

あたしの制止も聞かず、ロイドはあたしに寄ってくる。

「「…………」」

きっと―――きっとひどい顔してる。

ロイドは困ったように鼻の頭をかいた。

「……ケンカしたのか……?」

見当違いの質問にあたしは首を振る。

ロイドはただ膝を抱えて顔を隠すあたしの横に座った。

『あたしなら大丈夫だよ。だから……あっち行ってて』

そんな言葉は形にならなくてあたしはただ泣いた。
こんなに泣かれてもロイドは迷惑なだけなのに。


ロイドはふぅ、と溜息とも違うともとれない曖昧な息を吐き出すと、あたしの横に寝転ぶ。

「………オレさぁ……」

「…………」

「ゼロスみたいに器用じゃないから、うまいこと言ったり、したり出来ないけど……」

「…………」

「しいなが元気でるまでここにいるから」

「…………………」

もう、止められなかった。あたしは泣いた。声を上げて。

ロイドは何も言わずそこにいてくれて、その優しさをあたしは恨んだ。

夕闇は静かに、そして暖かく、あたしを包んで行く。




end





2008.8.4.up


img FOG.