<ウソばっかり>




「ユウナー!こっち!!」

キミが呼んでる。

わたしは小走りにキミに近付いた。キミはわたしの肩をぎゅっと抱き寄せてくれる。

―――ねぇ?キミは知ってる?

わたし、ね、キミがこういう風にしてくれるのが大好きなんだ。

すごく、ドキドキする。

小さい時から大召喚士の娘で特別扱いだったわたし………誰かに恋をするなんて別次元の話しのような気が
してた。

きっとキミは知らないよね?

だってキミは召喚士なんていない世界から来たんだから。

「……ユウナ?」

「……ん?なに?」

「…泣きそうな顔、してるッス」

「……そんなことないよ。夕日がちょっと眩しかっただけ…」


わたし…キミにたくさん、たくさん嘘、付いてる。

スピラのためなら。

皆の笑顔のためなら。

人々の穏やかな生活のためなら。



自分の命と引き換えにしてもいいって思ってたのは嘘じゃない。



でも今は…キミと離れるのが怖い。

わたしは滲んだ涙を隠すためにキミの胸に顔を寄せた。

キミは少し驚いたみたいだけど、わたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
いつもは少しおしゃべりな位なのにこんな時は何も言わず抱きしめてくれる。

その優しさが嬉しくて……痛いよ。

好き。

離れたくない。


口にしたい。

言ってしまいたい。

だけど………それは出来ない。

「ユウナ…オレ…」

わたしは滲んだ涙を指でごまかし顔を上げた。


キミの顔、夕日に紅く照らされててとても綺麗だった。




―――ごめんね。わたし…シンを、キミのお父さんを倒すよ。

―――ごめんね。キミと一緒にキミのザナルカンドに行きたいけど…わたし、きっと行けないよ。

―――ごめんね。『シンも倒せてユウナも死なない方法を探す』って言ってくれて本当に嬉しかった。




でもそんなのきっとない。だって今まで父さんを含めた4人の大召喚士が出来なかったこと、きっとわたしには出来ない。

でもキミの気持ちが嬉しすぎて…言えなかったの。

―――ごめんね。勝手かもしれないけど…わたしがいなくなっても、わたしのこと、忘れないで欲しい。キミの心の片隅
でいいから、わたしを覚えていて欲しい……そうしたら、きっと。わたしは心だけでもキミとキミのザナルカンドに行ける気
がするんだ。

「……ユウナ」

キミは優しく笑った。
それだけで、わたし、涙が止まらなくなっちゃうよ。

「……大丈夫だ。ユウナ。オレが絶対、方法探すから」

言って、優しく抱きしめてくれる。わたしはキミの首に腕を回した。

……2人、そのまま、ただ抱き合ってた。

「……ユウナ……」

夕日が落ちて暗い闇が迫ってくる中、キミはわたしの名前を呼んだ。

「……お願いが、あるんだ…」

凄く緊張した顔でキミが改まって言うから、わたしも緊張しちゃう。

「……何?」

「……なんか照れるんだけど……」

「?」

わたしにできることなら、何でも叶えてあげたい。

キミはお日様の色をした髪をかきむしってすごく早口で言った。

「…オレの名前、呼んで欲しいッス」

暗くなってきてるから、よく分からなかったけど…きっとキミは赤くなってる。

「…名前……それだけで、いいの?」

「ユウナ…オレの名前、呼んでくれたことないだろ?…ユウナの声で、オレの名前を呼んで欲しいんだ」

言われてみればそうだったかもしれない。

キミの名前はなぜか特別で…いつもキミって言ってた。

「……え………と……」

じっとキミはわたしの方を向いて待ってる。…なんかすごく緊張してきた……。

でも………もしかすると、最後かもしれないから。わたしは唾を飲み込んだ。

「……ティーダ……」

わたしにとって特別な名前を口にする。

キミはまたギュッとわたしを抱きしめた。

「……ヤバイ。オレ…すっげぇ嬉しいッス」

「……うん。わたしも嬉しい」

キミの名前を呼べて。

腕の中にいれて。

キミはわたしにとって誰より特別な人だから。

そう………まるでお日様みたいな人だから。

「……ティーダ…」

「……なに?ユウナ……?」

言いたいことはたくさんあったけど、言葉にするのは難しくて…。
それにきっと言葉にしてしまえば、わたし、シンを倒せなくなってしまう。

我が儘かもしれないけど…でも今伝えたいことが一つだけ、ある。




「…好き…」




キミはびっくりしてわたしの身体を離した。

東の空から昇る白い月が驚いた顔をしたキミを照らし出す。

「……ユウナ…本当ッスか…?」

わたしは今度は自分からキミに抱き着いた。恥ずかしくてキミの顔が見られない…。

「…本当ッス」

「うわ……めちゃくちゃ……オレ…嬉しいッス…」

キミは涙ぐみながら言ってくれた。

「……ユウナ…」

キミはまた神妙な顔をする。

「……キスしていいッスか…?」

わたしは答えないで、キミにキスした。

キミの顔を見てわたしに出来る最高の笑顔を贈る。

キミも笑う。

わたしの大好きなお日様みたいな笑顔で――――わたしたちはどちらからともなくまた口唇を重ねた。

さっきよりずっと長いキス。月がわたしたちを白く照らしていた――――。




「…ね。ティーダ?」

「…ん?」

「……ずっと…傍にいてくれる……?」

わたしはキミの肩に頭を預け言った。

「…………………」

キミは黙り込む。そうだよね?

わたし、自分が分かってて無理な約束しようとしてる。

「違う。違うッス。ただ…オレ……がどれくらいユウナの傍にいれるかな…って」

どういう……意味…?
わたしは怪訝な顔をした。

「ずっと…ずっと傍にいるッス!」

キミはそう笑った………。









ビサイドの海は今日も青く澄み渡ってる。

――――この青い海も晴れた蒼い空もキミを思い出す。



わたしは海に向かって口笛を吹いた。

あんなに最初は音が出なかったのに、こんなに音が出るようになったんだよ。






………ウソつき。傍にいてくれるって言ったのに。

口笛吹いたら来てくれるって言ったのに…………。

ウソばっかり……。

涙が、滲んだ。


でもわたしもウソついてたからおあいこ…なのかな?


わたしは空に向かって叫んだ。


「ティーダー!!」


わたし、それでもキミのことを信じてる。

だって…キミはほんとはウソつくの苦手なの、私知ってるから。

だから……ここでキミを呼ぶ。口笛を吹くよ。




end

2006.10.4up