<今、幸せ?>






「エッジは…春……か」


いいな。わたし…春が一番好きだった。




<今、幸せ?>



「……行きたそうだな。エアリス」


ザックスの言葉にわたしは微笑んだ。


「……うん。そだね」


温かい日差しを浴びたい。花の匂い嗅ぎたい。ティファやユフィと遊びに行きたいし…
皆と飲んだりもしたい。

マリンも大きくなったみたいだし、デンゼルって子とも話してみたいな。







でも…一番したいことは……クラウド……あなたに会いたいよ。



ここは、時間の流れのない場所だから、そっちの世界でどれくらい時間が経ったのか分か
らないけど………やっぱり、わたし、今でもあなたに…会いたいよ。


「……エアリス。あいつのこと考えてる、だろ?」

ザックスがわたしの、顔覗き込んで言った。

「……うん。ごめんね?」

ザックスは優しく微笑みながら首を振った。

「しょうがねぇよ。…俺はさ、複雑だけど、さ。気持ちってどうにもならないもんだろ?」


そう…わかってる。わたしの気持ち。ウソつけないの。




………今でも、ね。クラウドを愛してる。



きっと……昔から約束されていた、わたしの運命の人。
 最初は…ザックスに似てたから気になった。

……でも不思議…ね?

今は……ザックスよりもずっと、ずっと好きよ。今、一緒にいてくれるザックスには悪い、けど。


「……エアリス。行ってみたらどーだ?」

「え?」

「カダージュたちの時みたいに、行ってみろよ」

「……でも……」

クラウドには、今の生活がある。ティファだっているし、マリンやデンゼルだっている。わたしが行って
クラウドに会うことは、クラウドの今の生活を、もしかしたら壊しちゃうんじゃないかな……。


「こら」


ぴんっとザックスが、わたしのおでこを突いた。それは優しくて、全然痛くなんてなかった。けどわた
しは頬を膨らませた。


「なにするのよ?」

「俺の惚れたエアリス・ゲインズブールはいっつも明るくて前向きで笑顔がトビキリかわいいんだ。そ
んな顔するのはエアリスらしくないぜ?」

微笑みながら言うザックスの蒼い目は優しくて…あの人と同じ……。



不思議ね。前はクラウドにザックスを重ねてたのに、今はわたし、ザックスにクラウドを重ねちゃう。


「わたし、行ってみる」


クラウドに会いたい。


その気持ちに、ウソ、つけないから。


ニカッとザックスは白い歯を見せて笑った。


「それでこそ俺の惚れた女だぜ」


ザックスと別れて、わたしは一人ライフストリームの中、歩いてた。


目を閉じて心を静かにする。あの時、みたいにうまく行くと……いいな。

あなたに呼び掛ける。

「クラウド……会いたいよ」


お願い。この思い、クラウドに届けて……。



「…エアリス……?」




あなたの懐かしい声。その声でわたしの名を呼んで?わたしを呼んで。

あなたの思いなしには、わたしは行けないから。

「エアリス!!!」

想像もしない強い力でわたしは、引っ張られた。





わたしは泉の浅瀬に立っていた。優しくて……穏やかな光り。

………あぁ。ここは……。失われたセトラの都――――忘らるる都………。

わたしが短い時間、この世界にやってくるにはここしかないのだろう。ここは……今もセトラの力が
残ってるから…。

ザブザブ水を切る音にわたしの考えは中断された…。

ぎゅっと、抱きしめられる。

「……クラ…ウ…ド」

「……エアリス…」

クラウドの背中に、腕を回した。前よりちょっと、たくましくなった、かな?

クラウドは腕をほどくと、わたしの顔をじっと見つめた。蒼い瞳は少し潤んでてキラキラ、輝いてた。


………あぁ。クラウドだ……。


どこから溢れてくるのか分からない位、深くて温かい気持ちが溢れ出してくる。クラウドが顔、寄せて
きた。わたしは目を閉じる。優しいキス………。



あぁ…やっぱり、わたし、この人を愛してる…。


徐々に深くなってくる口付けを受けながらわたしはクラウドにぎゅっとしがみついた。

クラウドはいっぱいいっぱいわたしに跡を残した。首筋。胸元。……他にもいっぱい。

きっとこれは戻ってしまえば消えてしまうだろう。でも……今は、今だけはわたしをあなたでいっぱいに
してほしい……。


「……クラウド………好きよ」

「………俺も。愛してるよ。エアリス」

「……ね?クラウド……今、幸せ?」

「…? 幸せ……だよ?エアリスにまた会えて。エアリスをこうやって抱きしめられて」


わたしはくすっと笑った。

照れ屋のあなたがそんなこと言うなんて、それって成長?………でもあなたは、わたしがいなくなった
ら、またいつもの日常に戻るの。あなたの日常の中に、わたしがいないのはほんとに……ほんとに悔し
いし悲しいけど……。


「……エアリス?なんで泣くんだ…?」


わたしは首を振った。


「ね?クラウド?これからもずっと……わたしのこと……好き?」

それは彼の未来を縛り付ける言葉。でも、ね。クラウド……わたし、女神様じゃないから、クラウドが他の
人…好きになったら嫌だよ……。ひどい、よね。分かってる。ずっと一緒にいられないって分かってるのに……。


「当たり前だろ……?俺が愛してるのはエアリスだけだ」


はっきり言ってくれた言葉が嬉しくてお礼のキスを、彼に送る。

「……ね?クラウド…。いつかわたしがライフストリームに溶けて、貴方も星に還ったら……今度は永遠に離
れないようにしようね?」


「あぁ……約束だ」


「クラウド……愛してるわ」

「……エアリス?」

消え行くわたしを見てあなたは目を見開く。

もう一度、彼に最後のキスを送る。

「笑って?クラウド……クラウドの笑顔、見たいよ」

クラウドは涙の滲んだ目で精一杯の笑顔を浮かべてくれた。

「……愛してる…エアリス………………―――





「……戻って来ちゃった」

もっともっと、あなたのそば、いたかったけど。


「……おかえり」


ザックスがわたしに声をかけた。

「……あいつ、激しかったんだな」

ザックスの言葉に思い切り眉をひそめる。

「……見てたの?」

「まさか!」

ザックスは言うと自分の首筋を指差した。わたしは自分の首筋を見遣る。そこにはクラウドの残した花びらが
散っていた。

「…あ。消えなかった…んだ」

言葉と一緒に幸せな記憶が甦り思わずにやけちゃった。

「あーぁ…。妬けるなー…。俺じゃぜってぇエアリスにそんな顔、させられねぇもんな…」

「ふふっ……ごめんね?わたしの運命の人はやっぱりクラウド、だから」

いつか星が巡る頃、必ずわたしたちは会えるだろう。もう一度、クラウドと会える場所……それがわたしの約
の地なんだ……。


end