<せめて間接キスくらい>


恋したくなるお題
様より。
片恋のお題(1〜20)、15.

TOS Zelos→Shihna









「なぁ〜しいな〜」

「なにさ?」

「ちゅうしよ?」


<せめて間接キスくらい>

片恋のお題 15

TOS Zelos→Shihna



無言で振り下ろされた拳に、俺は呻く。

「殴るなよ〜」

「うるさい!この変態!!」

キス位で変態って……抗議しようかと思ったが湯気の上がるしいなに言ってもぶっ飛ばされるだけだか
ら、俺は黙った。

「…………」

しいなはガードが固い。固いなんてもんじゃねぇ。かちかちだ。付き合ってんのにキスはおろか肩さえ組
んだこともない。ささやかに手を繋ぐのが二人の唯一のスキンシップ。それもほんのちょっとくらい。腕な
んか組もうとしたら思いきり振り払われた。

「……なんの為に付き合ってるんだか……」

「なんか言ったかい?」

「いえいえ〜別に〜!!」

俺だって別にスキンシップが全て、なんて思ってるわけじゃねーし、それを期待してしいなと付き合って
るわけでは勿論、ない。

だけど、ちょっとは―――そう、少しは。

好きだから、キスしたい、とか、相手に触れたい……ってのは自然なことじゃねーのか?

「………」

しいなは違うのか〜……。

「………ったくこんな分が悪いのは初めてだぜ」

そよ、とも俺になびかない、女。女なんか俺の口先でどうにとでもなる、なんてのは甘い幻想だと初めて
解らせた女。

「……にしても、暑いね〜…」

初夏の日差しは眩しくて、しいなは軽く汗をかいているようだった。

「……」

しいなの目はカフェで、ぺちゃぺちゃと囀る女の子たちに向けられていた。

「入る?」―――と、言おうとして少し考える。

しいなは俺と店に入るのも極端に嫌がる。人に見られるのが嫌とか言っていたが――………………俺さ
まは誰に見せても恥ずかしくないカレシだと思うんだが。(←ずれてます)

「……ちっと待ってて」

「……え?あ……あんた何処に行くのさ?!」

呼び止められたが、聞こえないふりをして、走り出した。


*********



「ブラックと、オレンジジュース。テイクアウトで」

「はい。少々お待ち下さい」

にっこりと笑う女の子に負けない位の営業スマイルを浮かべ、一つ息をついた。

暑い中走ったせいで、俺も汗をかいてしまったようだ。

俺はブラック。しいなは甘いジュース―――しいなは苦いコーヒーは苦手。

『薬の味がするぅ〜』と渋い顔も何気に可愛かったような……。

「お待たせしましたv袋にお入れしますか?」

「入れないでいーよ。今度デートしようねv」(←ゼロス的挨拶)

言って俺は、コップを持って歩きだした。




********


外は日差しが西日に変わりよりその強さが増したようだった。

「あっちぃ〜……」

暑さと覚える、喉の渇き。

「………一口なら、いっか……」

俺はストローに口を付けた。口の中に広がる甘味に顔をしかめる。

どうも、しいなのオレンジジュースに口を付けてしまったらしい……。

「……あちゃ〜……」

しいな、キレそうだな〜……でも、一口だし……まぁいっか。

俺は何事もなかったように、それを持って行くことに決めた。




しいなは木陰で静かに涼を取っていた。俺を見たら、少しだけ表情が和んだ―――ような気がしたのは、
俺の希望か……?

「何してたのさ?」

「ほい」

ぱぁ、としいなの顔が明るくなる。

「ありがと」

「オレンジジュースでいいよな?」

「うん」

しいなはにこにこ笑いながら、ストローに迷わず口を付ける。

俺もコーヒーに口を付けながら、しいながジュースを飲む様を見ていた。

「………」

紅を塗らなくても、ほのかに色付いた口唇でジュースを吸いながら、白い喉がこくこく上下する――――ち
ょっと、色っぽい………。

しいなに俺がこんなこと考えてる―――そう知られた日には、殺されそうだが。

「………」

しかも―――そのストロー、俺がさっき使ったわけで……。

――――これって……もしかしてもしかして、間接キスって奴!?

「………」

我ながらアホかと思うが。

胸の動悸が止まらない。俺はじっとしいなの口唇を見つめていた。

あぁ………こんなんでドキドキするなんて、俺は一体どーしたってゆーんだ!!プレイボーイとかジゴロと
言われてた俺さまなのに……!

で……でもいーよな!?全然進展しねーんだから!間接キス位いいよな!?罪ねーよな!?俺さま悪
くねーよなっ!?

一人悶々としていると、流石のしいなもこっちを向いた。

「……あんた、何見てんの?」

……あ。やべ……。

「ど……どーしたんだい?!あんた!顔真っ赤だよ?!」

間接キスで顔が真っ赤になるなんて!!俺はガキか!!その事実がより恥ずかしくて、俺の顔はより赤
くなる。

「あ……暑い中走ったからかも〜……」

「大丈夫かい!?」

―――言った下手くそな言い訳にくらくらしながら、俺は強い西日を仰いだ。

――――俺たちがキス出来るのはいつなんだろーなぁ……。

心配そうなしいなの顔が可愛くて、俺は思う。

「……まぁ今はいっかー……」

「は?!」

「こっちのこと!さ、いこーぜ〜!」

手を出すと、しいなは逡巡して、俺の手を握った。

その手に力を込めて、俺は歩き出す。

こんな風に自然にキス出来る日が来ることを祈りながら。

きっと今、しいなの頬はさっきの俺の頬より、今俺たちを照らす夕焼けより赤いのだろう。




end



2008.8.4up




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