<上手に笑える>


恋したくなるお題
様より。
片恋のお題(1〜20)、8.

FF8 Quisitis→Squall









上手に笑える。

まだ、上手に笑える。

大丈夫。まだ、大丈夫。

私は、大丈夫。







「…………」

「……だいじょうぶ……」

弱々しく、リノアは言った。その様子は誰が見たって大丈夫そうには見えなくって―――スコールは
心配そうに彼女の肩を抱く。

やはり。

――――SeeDの特殊訓練を受けている私たちとは違って、この強行軍はリノアには厳しかったのだ。

「野営にしましょう」

私の言葉に異論を唱える者はいなかった。




*******



「………」

ぱちぱちと爆ぜる火に、無造作に乾いた小枝を入れた。 爆ぜる音が一際高くなり――鎮まる。

「………」

暗闇で見る火は落ち着く。 テントに入ったリノアは糸が切れたように眠り込んでしまった。 今は、
軽い食事を済ませた仲間も見張りの私以外は休んでいる。 火が爆ぜる音以外の静寂は、世界に
私しかいないような錯覚を覚えて、怖かった。

『――……あんたが怖いこと、なんてあるのか?』

「……ないわよ。そんなもの」

自分が作り出した幻の彼に、私は答える。

本当は、私にも言って欲しかった。

『大丈夫か?』って。

「……ううん……」

言葉なんかいらない。 あの、心配そうな優しそうな顔を向けてくれたら。 彼女に向ける、今まで見たこ
とのない優しい顔を、私に向けてくれることがあったら――………。

「無理ね。有り得ないわ」

リノアだから。

リノアだから、彼は今まで見せたことのない顔を見せるのだ。 私が幾度もノックしても頑なだった彼の心
のドアをたやすく開けてみせたリノア。

「……かないやしない……」

「……あんたにかなわないものなんてあるのか?」

「あるに決まってるじゃない」

「……なんだ?」

「………」

肉声を伴う幻を、私は見上げた。

「……スコール??」

「あぁ。何独り言言ってるんだ?」

答えたスコールを私はまじまじと見つめた。 こんな時間に起きてくるなんて、どうしたんだろう……。

「……リノアなら心配しないで。よく眠ってる」

「……ならいいんだが」

そう言ってもスコールは立ち去る様子を見せなかった。

「どうしたの?……眠れない?」

「……いや」

「なら眠りなさい。休息を取れる時には休息を―――SeeDの鉄則でしょう……?」

「…………」

スコールは答えない―――ただ、私の横に座って、火を見つめている。

「………火を見ると安心しない?」

「………しないな。火は、火だ」

相変わらず淡泊な答えを返すスコールに、私は火を見たまま言った。

「世界に、私しかいないような気がして怖かった。火がなかったら、怖くて怖くて仕方がなかった」

「………」

スコールは答えない。 ぱちぱち、と爆ぜる音だけ。

『――……あんたが怖いこと、なんてあるのか?』

そんな科白さえもない。

「………キスティス?」

「……ん?」

「……あんた、大丈夫か?」

「……え……?」

「……俺や、ゼルやアーヴァインに負けない位前線で戦って、仕切って―――リノアやらセルフィの
面倒みて………疲れてるんじゃないか?……少し、痩せた」

「………」

貴方は、残酷なひと。

救う気もないのに、手を差し延べられたなら、人は迷ってしまうのよ?

泣きたくなった。 ――――でも、涙は零れなかった。

代わりに、私は笑ってみせた。

上手に笑える。

まだ、上手に笑える。

大丈夫。まだ、大丈夫。

私は、大丈夫。

「……大丈夫」

「………」

スコールは何も言わずにテントに入って行った。

「………大丈夫……」

ただ、火は爆ぜ、美しい火の粉を散らした。



end


2008.8.4up


img Four seasons