<永遠の友達>


恋したくなるお題
様より。
片恋のお題(1〜20)、1.

FF5 Butz*Faris







「うぅ〜……」

唸り声とも、寝言ともつかない声を発しながら、彼女はテーブルに突っ伏したまま眠る。

不自然な体勢故か、眉間に皺が寄っていた。テーブルの上には無造作にワインの瓶が二つ、転がっている。

「………」

見境なく飲んで、この様だ。

「………ファリス…」

呼びかけても、反応は全くない。

「…………」

「お客さん、看板です」

店員がそれだけを告げにやって来た。

無表情に、それでいて平淡な言葉に店員の不機嫌さを感じる。

「あ……すいません。ファリス!ファリスってば」

「うぅ〜……」

眉間に皺を寄せていた表情から一変、ファリスはふにゃり、と笑った。

「へへぇ〜……レナァ〜もう飲めないよぉ〜……」

飲まんでいいから!

頭を叩きたくなる衝動を感じるが、店員の白い目を感じ俺はファリスを抱えて店をそそくさと後にした。





「………………」

ファリスは平和な顔でアルコール臭い寝息を立てながら眠っている。俺の腕の中で。

あまりに近い距離に、どうにかなってしまいそうだ。

―――愛おしい。

そう、思う。

―――憎い。

そうも、思う。

思っても、想っても、お前は――――。

『お前、いい奴だなっ!』

『シルドラの次の親友だよ。お前は』

「…………」

トモダチ、シンユウ、ユウジン。

ファリスは無邪気にそんな言葉で俺を縛りつける。だけど――…………。

なぁ……知ってるか?

俺はお前を友人だなんて、思ったことがない、ってこと。

その証拠に、お前を抱えてるだけで、俺の鼓動はいつもの5割増し位やかましい。

「………」

だから、そんな無防備な顔、見せるんじゃねーよ……。

「………」

そんな俺の不埒な心が伝わったのか、ファリスの目が開く。

しぱしぱ、と音のしそうな瞬きを数回して、ファリスは俺に焦点を合わせた。

「……ここ、どこ?」

「ウォルスだろっ!起きたら降りろよ。重いっ!!」

「え〜??やだー!!」

降ろそうとする俺に、よりによってファリスはしがみついてくる。

「ここまで来たなら俺を運んでけ〜!!」

「ふざけんな!!」

よっぽど振り落としてやろうか、そう思ったが、ぎゅっとしがみつくファリスにそんなことが出来る筈もなく、俺はとぼとぼ歩きだした。

「ん〜……楽チン♪」

「ぜってー落とす……」

ぽふ、と俺の肩にファリスは頭を置く。

長い髪がさらさらと俺の頬を擽って、俺はそれにさえ興奮するのに。

「……居心地、いーなぁ……ここ……」

なんて暢気なことを、お前は言う。

「お前、本当にいい奴だよな〜」

「…………」

「シルドラの次の親友はお前だよ」




「……親友、ねぇ……」

俺の微妙な表情にファリスは小首を傾げた。

「ダメか?」

「ダメじゃ……ないけど」

――――ずっと、ずっと、変わらないのか?

変わらないまま、友達?

「……もし旅が終わって……さ」

「うん?」

「それでも……」

俺たち、友達、なのか?

「俺たちの友情は変わらない、だろ?」

俺の気持ちを全く汲まず、ファリスは笑う。

「………」

「レナと、クルルと、お前と、俺。ずっと、友達だよ」

レナとクルル、友達でいれる。きっと大丈夫―――――――でも、俺と、お前は……………………。

「……どーだろーな……」

俺は呟く、だけど、ファリスは俺のそんな言葉も聞かず眠ってしまったようだ。

「…………」

どうだろう?

親友、でいたい。
傍にいられるなら。

親友、なんて真っ平だ。
俺はお前が好きなんだから。

‘永遠の友達’なんて、一種の死刑宣告。

………残酷だよ。お前は。

その残酷さにさえ、俺は惚れているわけなんだが。

ついた溜息は、ふわり……と夜の闇に溶けて消える。

あとは、静かにファリスの寝息が響いていくのみだ。






.

end

2008.8.4.up


img 戦場に猫