<立ち止まらないで>




雪がずぅっと降り続けるアイシクルロッジ。アタシの故郷のウータイも時々降ったけど、
それは年に数回で、こんなに積もったりしなかった…。

アタシは鉛色をした空を見上げた。降り積もる雪は、まるでアタシたちの心境を表してる
みたいだ。

そう思いながら、アタシはぼぅ……と降り続ける雪を見ながら考えた。



雪合戦、したいな。雪だるまも作りたい。レッドじゃ無理だし。

「あーあ…」

エアリスがいたら付き合ってくれたのに…そんなこと考えて口唇を噛んだ。



エアリスは……もう、いないんだ。





エアリス……アタシ、エアリスがいなくなって初めて気付いたことがたくさんあるよ。

エアリスって……さ、時々アタシも驚くようなわがままいうことあったよね。

でも、それってさ……今思えばわがままなんかじゃなかったんだよね?

「………」

アタシは頭を振った。
エアリスがいない今、パーティーを盛り上げるのはアタシしかいないんだ!

「よし!!」

アタシは気合いをいれた。

「ティファー!!めちゃくちゃお腹すいたー!!なんか作ってーー!!」

とりあえず手始めにティファに声をかける。
ティファは紙みたいな顔色で微笑んだ。

「……ごめんね。ユフィ。今すぐ用意するね」

「皆に声かけたら、アタシも少し手伝うよ!」

アタシの言葉にティファは目を丸くした。

「珍しい!」

「…そんなこと言うなら手伝わないよ〜?」

「ごめん。だってユフィってエアリスの時は手伝ってたけど、私の時は手伝ってくれなかったじゃ
ない…?」

「………」

それはね…ティファ。ティファはすごく料理が上手だけど、エアリスは実は料理が大の苦手だった
んだ。だから…………アタシ、手伝ってたんだ。二人であーだこーだ言いながらする料理は大変
だったけどすごく楽しかった…。

黙り込んだアタシを見てティファはまた「ごめんね」って言った。
………それってなんで謝ってんのさ?少しイラッと来た。

「でも最近休みなしだし…ちゃんとご飯も皆食べてないから…今日はご馳走にしよっか」

「そう来なくちゃ!じゃあアタシ、シドとバレットになんか酒買ってくるように言っとくよ!あとは〜クラ
ウドに明日は休みにするように言っとかないとね!」

「そうだね。…じゃ…シドとバレットとクラウドに言っといてくれる?」

やることが出来たティファは久しぶりに活力が出た〜ってカンジで宿の簡易キッチンへと入って行った。

「よし……と」

アタシはシドとバレットに事の次第を話して、なんかテキトーに買ってくるように言った。

エアリスの件以来、ふさぎ込み勝ちで酒なんて飲む機会のなかったシドとバレットは喜んで買いに行っ
てくれた。

あとは、クラウドに言って明日を休みにしてもらえばカンペキ!

クラウドは一人部屋をとっていた。

勢いよくドアを開けるとちょうど外に出ようとしていたクラウドにぶつかった。

思い切りクラウドの胸に鼻先をぶつける。

「いったぁーー!! ちょっと気をつけてよー!!ユフィちゃんの可愛い鼻が曲がったらどうしてくれんのさ!」

「人の部屋にノックもせず入って来て、気をつけてもくそもあるか!」

クラウドは低い声で言った。

「……何。クラウド。どっか行くの?」

「……街を少し見てくる」

「あそっ。んなことよりさぁ、クラウド!ティファが今日はご馳走にするってさ。シドとバレットも酒買って来てく
れるし…明日は休みにして、ぱぁっと飲もうよ!」

「……休みはダメだ。一刻も早くセフィロスに追い付きたい。あとは好きにしろ」

「…あ。…ちょっ……!クラウド!!」

あたしを無視してクラウドは部屋を出る。

オートロックのドアがかちゃりと音をたて鳴った。

胸の中が………なんかもやもやする。エアリスがいなくなってしまったからだけじゃなくって……少し前から
感じる苛立ちに似た何か。それはエアリスがいなくなってからだんだん強くなっていくみたいで…ムカつく。



………エアリス?やっぱ、あいつ、あんたがいなきゃダメみたいだよ……。

エアリスがいたら……優しく笑ってクラウドを言いくるめたのに……さ。

今のパーティーはバラバラだ。アタシは頭を振った。


その日の飲み会は皆…久しぶりにたくさん飲んで、食べた。

バカな話をたくさんして前みたいに少し明るい雰囲気に戻ったみたいだった。

だけど…皆、不自然な位エアリスの名前は呼ばない。

まるでエアリスなんていなかったみたいに。
もやもやが大きくなっていく。



「違う!そうじゃない!!アタシは…エアリスを忘れたいわけじゃない!!」



突然叫び出したアタシを皆が目を見開いて見ている。

アタシは部屋を出た。感情のまま走り出す。

「クラウド!! いるんだろ!?」



クラウドの部屋のドアを力いっぱい叩く。

「……ユフィ?」

ドアを開けたクラウドにアタシはしがみついた。

「忘れちゃうよ……!忘れたくないのに……ずっと一緒だって思ってたのに…!」

アタシは叫んだ。あとはもう悲しくて苦しくて、言葉が出ない。

「……ユフィ…」

クラウドが、震える声で言った。



「エアリスは………」


……声にならないクラウドの叫び。

ねぇ?聞かせてよ?…
――――…クラウドの声を。

解ってる。

アタシだって、皆だってこのままじゃいけないことくらい。

………クラウドだってそうでしょ?

どんなにセフィロスに近付いたって、心がこのままじゃきっとアタシたちはダメなんだ。
エアリスを失って立ち止まってしまったままのアタシたち。こんなとき立ち止まらないで…ってさりげなく励ま
してくれるエアリスがいないなんてひどいよ…。

「ねぇ……どうすればいい? 答えてよ!クラウド!!」

アタシはクラウドの顔を見上げた。

「……っ…!」

そこにいたのは、親に捨てられた子供のような途方にくれた顔をしたクラウド。

………そうだよね……。

1番エアリスを失って辛いのはクラウドなんだ……。

いっつも無表情で、なに考えてるか分からないクラウドに………こんな顔、させてるのは……。



涙が溢れた。



どうすればいい?



どうにもならない。



この現状も……この心も。



クラウドは指でアタシの涙を拭った。そっと、アタシを抱きしめてくれる。

―――それは、クラウドがエアリスにしていたのとはあまりに違って、余計に涙が出た。

「……俺たちは、前に進むしかない…。立ち止まるわけにはいかないんだ…」

もう一度クラウドを見上げると―――いつもと同じ顔。

ねぇ………本当に――?

クラウドは本当に前に進めるの……?

もう離れてしまったクラウドの背中は全てを拒絶してて………。
エアリスと同じように、アイシクルロッジの雪に溶けて消えてしまうような気がした………。






end




2006.9.1up