<どこで泣けばいい?>


恋したくなるお題
様より。
片恋のお題(1〜20)、4.

TOS Zelos→Shina







肩を震わせて――――雫がぽたり、と零れ落ちた。零れ落ちたそれは最早、止める術さえないようで次から次へと流れて行く。

まるで堤防が決壊したようだ。

激しく動揺してしかるべきなのに、嫌になるくらい冷静な俺は、そんなことを思っている。

「最低だよ」

しいなの言葉。
しいなは俺など見たくもない、と言った風に走って行く。


――――さいてい。

その通り。俺は最低だ。


「………あーぁ………」

傷付けるつもりなんて、なかった―――――本当に?

ただ、不器用過ぎるあいつがなんか歯痒くて――………――――――。

もっと、うまく立ち回れば、お前にもチャンスがないわけじゃない―――だから。


『好きならさ、奪っちまえよ?』

その俺なりの忠告は、迷惑を通り越して、まっとう、と言うよりは堅すぎる倫理感のしいなには‘最低’だったらしい。

奪ってしまえばいい―――それでも。俺はそれが無理なことを知ってる。

だから更に余計な言葉を付け足した。

『そんな度胸もねーだろーけど』


はぁ………俺は思わず溜息をつく。

「……俺さま、なにやってんだろー……」


あの瞬間のしいなの瞳が忘れられない。




「ゼーロースー♪」

「!!」

ひらひらとその桃色の羽根をひらめかせて、コレットが俺の横に飛んでくる。

「あ〜!」

バランスを崩してこけそうになるコレットを俺は、受け止めた。

「ありがとう〜」

眉を少し下げて笑うコレット――――この笑顔にやられないヤローはいないだろう。ガキん時から見慣れてる幼なじみ以外は。

「コレットちゃーん、もーちょい気ぃ付けなよ〜……」

「しいな、泣いてたね」

様々な意味を込めた俺の発言をまるっきり無視して、コレットは言う。

「………見てたの?」

「うん」

「……いつから?」

「最初、から?」

「…………」

ニコニコした表情から怒りが読み取れるような気がして俺は肩をすくめた。



「……それで、怒ってんの?」

俺の発言の意味が分からない、と言った風にコレットはそれはかわいらしく首を傾げた。

「怒ってないよ?ただ……あのね?」

「ん?」

「ロイドはわたしの……じゃないよ?」

……ってとこで顔を赤らめて明言出来ない辺り、本気で可愛いと思う。

「……あとね、………」

少し息を吸って、コレットは言った。

「……ゼロス、泣いてる?」

「………は?」

突拍子ない言葉に、俺は目を見開いた。

「コレットちゃん?………なんの話、してるのかな〜?」

ふ、と漏らしたコレットの溜息は俺もびっくりするくらい大人びていて、俺は動きを止めた。

コレットは蒼い目で俺を見る、

動けない――――動くことが出来ない。

コレットは、静かに俺の頬に触れた。

「……涙」

「?!」

俺は自分の手で頬に触れた――――そこは乾いていた。かさかさ―――そんな音がしそうな程に。

「……泣いてねーよ…」

「………」

コレットはまた泣き笑いのような、顔。そのまま俺の首に腕を回す。

「………え…」

またも、俺は動けない。

「………ゼロス、泣いてるよ?」

ぎゅっ、と抱きしめられて、余計に俺は意味が分からなくなる。

泣いてない。
俺は泣いてなんかいない。

見透かされたような瞳。

「…………もっと、自分勝手に生きれたら、いいのに……」

囁きに似た声。

「………」

目を閉じて、小さい筈のコレットの背中にしがみついた。

何かが俺の頬を濡らしていた。










2008.8.4up


img FOG.