<嫌いだった>
あたしは本当にあんたのこと、嫌いだった。
ううん。嫌い…なんてもんじゃなくって……大嫌いだった。
なんかこう…ちゃらちゃらしてて見ててムカムカしたよ。あたしたちミズホの民は闇に生きると定められた民。
しかも、あたしは親に捨てられた子供だ。そんなあたしからは、あんたはつくづく恵まれてるように見えた。
神様から祝福を受けた神子。生まれた時から祝福された人間。存在すら否定されていたあたし。……本当
にあたしとあんたは正反対。
初めてあんたを見た時から、あんたはたくさん周りに人がいた。つくづくあたしとは本当に正反対………なの
に、何故だろう…?
あんたと初めて目が合った瞬間の感覚はすごくよく覚えてる。お互いに子供だったのに…………上手く言葉
に出来ないけど。
それにしてもあんたは、本当にちゃらちゃらしてて、綺麗な貴族のお嬢様たちをたくさん周りに侍らせてて、あ
たしはびっくりしたよ。これが世界を救う神子かって。……なのに、あんたは軽々しくあたしに声かけてきた。
その気さくさは子供にも好かれる『神子さま』の美点なんだろうね。でも、あたしは………その気さくさってゆ
うよりもその軽さにヘドが出そうだったよ。
シルヴァラントの神子を暗殺する――――
その指令がミズホの民に降りた時、『行く』と答えたあたしの気持ちは―――――あんたならきっと解るんだ
ろう…?
あたしは『場所』を探していた。
それは『居場所』だったかもしれないし、『死に場所』だったのかもしれない…。
シルヴァラントの神子……コレットはあんたとは正反対だった。
びっくりする位、真面目で健気で……。コレットがあんたみたいな人間だったら、きっとあたしは迷わず殺せた
のに………。
だけど、コレットは………ちょっとドジで抜けてるとこもあったけど、驚くような強い意志で……あたしなんか絶
対敵わないような健気さで生きていた。
あたしはコレットのことを殺さなきゃいけないのに、ロイドやコレットのこと大好きになって…殺せないままテセ
アラに帰って……。
あんたと一緒に旅をする羽目になったとき本当に嫌だった。
あんたは相変わらずちゃらちゃらしててコレットやらリフィルやらあんなちっちゃいプレセアにまで声かけて、あ
たしは本当に呆れちまった。
だけど…ずっと一緒にいたから気付いたこともある。
あんたが時々凄く暗い目をすること。
とても…とても暗い目で声なんてかけれる雰囲気じゃなかったよ。
にっぶいロイドは普通に声かけてたね。あんたは声をかけられるとまたちゃらちゃらした様子に戻ってたけ
ど……。
あと少しだけ…本当にちょっとだけだよ?見直したこともあるんだ。
あんたはちゃらちゃらしててもすごく周りをよく見てて…さりげなく気を遣ってて驚いてたんだ。
あと…さ。気付いてないかと思ってたと思うけど、あんたが時々いなくなること、あたし気付いてたよ。訊きた
いって思ってた。
……けどあんたのあの目を思い出したら聞けなかった………。
あたしがくちなわに殺されそうになった時、あんたが強引にあたしをシルヴァラントに連れてった時、本当に頭
にきた。
あんたはミズホの民のことなんて何も分かっちゃいないくせになんてなんて…ね。
ま…分かってなかったのはあたしの方さ。
神子として重い宿命を背負ってたのは……あんたもコレットと一緒だったんだね。
………気付けば良かった。
ううん。気付くべきだった。
あんたはそこかしこにサインを出していたのに…。
見ないふり、気付かないふり、して。
………あんたはあたしに似ている。
初めて会った時―――目が合った瞬間の閃くような直感に自分自身で蓋をして、嫌い、と言う言葉であんたへの
もやもやしたキモチを塗り潰したんだ……。
だから。
あんたが裏切った時、あんたがあたしたちにその暗闇の一欠片を見せ付けた時に感じたのは、憤りと、安堵。
やっぱり、あんたもあたしと同じ闇を抱えていたんだね。
でも、もっと早く見てれば…気付いてれば、こんな結末は迎えなかったかもしれない……。
あんたはきっとろくな死に方はしないだろう。
あたしは一息先に闇の中であんたを待っている。
もう一度会えたら、あたしは本当のあんたを見つめることが出来るだろうか…?
それとも、やっぱりあたしはあんたに怒鳴り付ける位しか出来ないんだろうか…?
あたしは、そっと目を閉じた。
不思議。こんなにも死に近い場所に在って、こんなにも思い出すのが、あんたのことだけだなんて。
あたしは、ロイドが好きだった筈なのに。
暗闇の中であんたは笑っていた。
重い身体は闇へと、墜ちて行く………………。
end
2006.8.21up
2008.5.11 ひそかに加筆。
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