<Surprise for You...>


最近、ティファはよく携帯をいじっている。
どうもユフィ辺りを相手に話したり、メールをしているらしいが……面白くない。



<Surprise For You...>



……今もティファは電話をしている。結構楽しげに。

「……あ。クラウドが帰って来た。……うん。じゃあまた電話するね。……ふふっ……んな
わけないでしょ?じゃあ…」

「………」

(クラウドの妄想をお送りします)


「……あ。クラウドが帰って来た。『えー?まじかよ?じゃ暇になったら電話しろよ?』……う
ん。じゃあまた電話するね。『浮気すんなよ!』……ふふっ……んなわけないでしょ?じゃあ…」

「………」

ティファはにっこり笑うと俺を迎えた。

「おかえりなさい!クラウド…怪我はない?」

その可愛い笑顔に思わず俺の口角も上がりそうになる…が。

――今の電話の相手、誰?問い詰めたいが、さすがに無理だ。自分でも言うのは何だが俺は
ティファの前だけはカッコイイ自分でいたいのだ。

「……お腹すいてるならご飯にするし、お風呂も用意できるけど、どうする?」

「とりあえず」

「とりあえず?」

俺の言葉を待ち、真剣な目を向けるティファは正に餌を待つヒナドリのようだ。すい…と顔を近付
け、その甘い果実のような口唇を奪った。

「……?…!……っ!」

非難の言葉ごと、口唇で掠め取り徐々に力の抜けて来た身体を抱きしめた。口唇を離すと、ティ
ファは真っ赤な顔を俯けた。その鼻先にもキスを落とし俺は笑った。

「ごちそうさま。次はシャワー浴びて来るから」

耳元に口唇を寄せ、熱い息を吹き込んだ。びくっとティファが身をすくませて俺から離れようとする
が、抱きしめているのでそれは敵わない。

「待ってられないなら一緒に入る?」

甘い声で耳元に囁くとティファは耳先まで朱い色を散らせた。その白い肌が朱く染まるのを俺は、
目を細めて眺めた。

「もう!バカ!!」

ティファが振り上げた拳を避け(元よりあてる気なんかなかっただろうが)俺は浴室へと向かった。

あんなに可愛くて、妖艶なティファを見ていいのは俺だけだ。


俺以外には、絶対に、許さない。


――誰なんだ?

電話の相手は?

君がそんなに親しげに笑いかける相手は?

―――ティファ。君は。

俺だけに笑いかければいい。


「………なんか」

もぞもぞと俺の腕の中で身じろぎしてちょうど落ち着ける場所を探すティファはまるで猫みたい
だ。俺の腕の下あたりにそれを見つけたらしくティファは、ほぅ…と溜息をついた。俺の胸に頬
をつけ、目を閉じる。おそらくこのままだと眠ってしまう。

「……ティファ。なんか、何?」

半分眠っていたティファは怠そうに目を開いた。

「…ん…。今日のクラウド…なんか変…って思ったの。気のせいだよね……?」

答を聞くまでに、ティファは睡魔に抗えなかったようで、すやすやと安らかな寝息を立て始めた。

ティファの長い黒髪をすいていると俺にも抗いがたい睡魔が訪れた。とろとろと眠りに吸い込ま
れて行く。

だが。

その浅い眠りは携帯のバイブレータが振動する音で遮られた。

俺の携帯じゃない。
…………と言うことは。俺は枕元に無造作に置かれていた携帯に手を伸ばした。

―――…一瞬の躊躇。

ティファは俺のことを軽蔑するだろうか………?

だが、でも、もしも…………。俺の中でたくさんのifが現れては消え…結局俺は携帯を開いた。俺
とデンゼルとマリンが3人で写っている写真が待受画面になっている。

「不在着信」

の文字が左端に出ていた。着信履歴を確認すべく、携帯のボタンを押した。

「…!」

ダイヤルロックがかかっている………。

ティファの生年月日、マリン、デンゼルの誕生日を入力。無情に現れる

『暗証番号が違います』の文字。

ティファの親父さんの誕生日?いやもしかするとお袋さんかも…。大体誕生日にこだわらなくてもい
いよな。俺は思い付く限りの4桁の数字を入力してみた。




……………… ピチュピチュ、鳥の鳴く声に俺は顔を上げた。気付けば辺りは白み始め、朝が訪れ
ようとしていた…。



「おはよう!……?」
ティファはいつも通りの挨拶をした後、不思議そうに俺の顔を見つめた。

「何?」

「クラウド。隈出来てる。昨日眠れなかったの?」

「……少し暑かったからな」

ティファの顔がさぁと朱くなる。

「?」

「……やっぱり今日から別々に寝る……?」

「!?」

「だ…だってこれからもっと暑くなるし眠れなかったら仕事に響くでしょ…?」

「ダメだ!それはぜっっったいダメ!!」

今更、別々に寝るなんて不可能だ!!

「……それとも、ティファ?俺と一緒に寝たくない理由でもあるのか…?」

低い声で言うとティファは一歩後ずさった。
………まさか、図星…?

しかしティファは頬を染めたまま言った。

「……変な誤解しないで。私だって………その……クラウドと一緒がいい……けど……」
愚かだと思いつつも、俺の心は満足感で満たされて行く。

ティファの右手を取り薬指のクラウディウルフの指輪に口付けた。






しかし、問題は解決していない。

「……と言うわけだ。人生の先達として思うところを聞かせてくれ」

ヴィンセントは黙ったまま俺の話しを聞いていたが、俺が意見を求めると真紅の瞳を彷徨わせた。

「………私は以前から思っていたのだが……」

例の低音ボイスでぼそぼそ喋るので、俺は飲み屋の喧騒にその声を聞き漏らさぬ様耳を澄ませた。

「……そんなことをやってるからユフィにストーカーと言われるのではないか……?」

「…………」

「……大体、お前は………」


はぁ、俺は溜息をついた。ヴィンセントは散々、愚痴なんだが説教なんだかをした揚句、眠ってしまっ
たのだ。俺が恥を忍んで悩みを相談したのに……なんて奴だ。


「ヴィンセントが酔うなんて珍しいね…」

眠りこけるヴィンセントに毛布をかけながらティファが笑った。

「……酔うと説教魔になるとは思わなかった」

「やだ。クラウド、お説教されたの?」

くすくす笑いながらティファがカウンターの中に入る。

「もう少し飲む?」

「あぁ。いつもの。ティファも飲むだろ?」

「うん」

手慣れた様子でティファは俺の酒を作るとしなやかに俺の横に腰掛けた。

「…で、なんて説教されちゃったの??」

「内緒」

「えー?聞きたいー!」

俺はそんなことより、君の暗証番号を知りたい。ちらり、と思う俺の気持ちなんか知らずティファは楽
しげだ。


が、携帯が鳴ったらしく携帯を開く。

「……最近、多いよな…?」

「そう?」

ティファはメールを打ちながら答えた。

「……誰から?」

「………」

ティファは携帯をぱちん、と閉じると笑った。

「マリンよ。今日は油田に連れて行ってもらったんだって。働いてるバレットかっこよかったって」

……本当に……?

かたかたとティファの携帯が震えた。

「あ。今度はシドだわ」

ごめんね、と俺に一言言うとティファは席を立った。屋外に出る。

「うん。うん…。大丈夫。………」

ティファはちらっと俺を見た。俺と目が合うと慌てて目を逸らす。
「………」

「ん。じゃあよろしくお願いします。じゃ当日ね。ふふ……楽しみだな。じゃ。シエラさんにもよろしく…」

「なぁ、ティファ」

「はい?」

……今の、本当にシド?

その言葉が出かかったがそれは喉の奥に飲み込んだ。………きゅっと口唇を噛む。




………結局今日もティファの暗証番号は判らなかった…。地道に1111から始めて、2000代まではいっ
たのだが……あと何通り残っているか考えただけでげっそりする……。

「……クラウド…。最近、疲れてるみたいね…」

心配そうに見つめてくるティファに笑顔とキスを返し俺はフェンリルに跨がった。

「クラウド。今日は何時位になりそう?」

「……7時には」

「分かった。帰る前に電話くれる?」

「…分かった。…ん」

「…ん……?」

「行って来ますのちゅう」

「……さっきしたじゃない!」

「さっきはここだったろ」

自分の頬を指して、言葉を続ける。

「だから、次はこっち」

自分の口唇を指した。

「…や…っ…!やだ!」

顔を赤くして後ずさるティファの頭を捕まえて、口付けた。

「じゃ、行って来る」

「…もう!…気をつけてね!」

ティファの声を背に俺はフェンリルを走らせた。






思ったよりもスムーズに仕事を終わらせることが出来た。しかも午後の仕事は配達先の天候不良で
延期だ。………だいぶ、早いが帰るか。

俺は携帯を開き、ティファにかけた。


…………繰り返されるコール音。

『ただいま、電話に出ることが出来ません。ぴーっと鳴った後にメッセージをお入れ下さい』と言う無機
質なメッセージ。

「………」

―――何故、出ない?


ぴー…と言う機械の音の後メッセージを入れようかと息を吸って、止めた。

俺の心の中にまた暗雲が立ち込める。一度広がってしまったそれは留まることなく俺を苛む。


−−−…………。


 いますぐに帰ろう。
帰ってティファを確かめれば、この暗雲は消え去るに違いない。





結局、予定の2時間も早く着いてしまった………。

フェンリルを手で引き、停めるとセブンスヘブンのドアに向かった。

「……?……」

『本日貸し切り』?


………ティファはこんなことは言っていなかった。セブンスヘブンは人気の店なので貸し切りたいと言
う客はしょっちゅうだが、ティファは滅多なことでは貸し切りにしないのだ。

最近、貸し切りにしたのはマリンの誕生日位だ。

………憮然としながら、ドアを開けた。気配を消して店に入り込む。



照明を落として、薄暗くした店内には二つの気配があった。一つはティファ。………もう一つは……?




「………クラウドは何時に帰るのだ?」


この低音の声………ヴィンセント……?!

「…うん。7時位って」

「……では後、2時間はあると言うわけだな」

「そうだね」

………まさか。

と、言う言葉が頭を回る。だが、この薄暗い部屋でこの2人は何をしている…?


そして、俺がいないことを確認して何をする気だ………?

頭の一部は燃え盛るように熱いのに、凍りつくように冷ややかだ。くらくらした。呼吸さえ苦しいような気
がする。



「……コスタ・デル・ソルとかでも良かったかもね」

「……そうだな」

「……いつか。いつかなんだけど…」

ティファが小さく呟いた。

「…ニブルヘイムでもいいなぁ……って思ってて」

「……それは」

「うん。解ってる。クラウドが納得してくれなきゃ……ね?」

「納得するわけないだろ!!」


俺は飛び出した。目を丸くしているティファを無理矢理抱きしめる。

「……クラウド!?」

「ティファは俺のだ!絶対に渡さない!!」

一方的に宣言して、目の前のヴィンセントを睨み付けた………………。



「「…………………………………………………………………………」」



呆れた顔をしているヴィンセントは、明らかにその身体に不似合いなエプロンを付けていた……。

「………何の冗談だ??」

思わず真顔で聞くと、腕の中のティファが暴れ出した。

「……/////……っもぉ〜!!クラウド、何やってるのよ!?」


腕を緩めてティファの顔を覗き込む。

「………何って……ティファたちこそ何を……??」

「………パーティーの用意だ」

「…パーティー??」

「………ふ……」

ヴィンセントに鼻で笑われた…。かなりムカつく…。

「やっぱり。忘れてた!」

「……え?」

今日は誰かの誕生日か?それとも何かの記念日??そもそも、今日は何日だ?

思わず、日めくりを見た。

「…8月…11日……」

「そっ。今日はクラウドの誕生日だよ」

「……だから、今日のパーティーの料理をティファと作っていたのだ」

「…………なんで、ヴィンなんだ?!」

「あら。ヴィンセントって上手なのよ。ユフィやマリンは違う準備で忙しいし……」

はぁ〜…俺は長い息を吐き出した。つまり、あの電話もメールもパーティーの打ち合わせだった…って
ことか…。……心配して損した……。

「…もう…。いったい何がどうなってるのよ〜?」

大体のことの次第を知っているヴィンセントは肩をすくめた。俺との話はもうない、と言った様子で背を向
けて料理を始める。その手際は確かにユフィなんかよりは大分良さそうだ…。

「…心配して損した…」

「何の心配??」

「…ティファ。今日は俺の誕生日だよな?」

「……うん。だから用意を……」

「HAPPY BIRTHDAYのキスは??」

小声で聞くとティファは顔を真っ赤にして「…バカっ!!」と怒鳴った。

「……仕方ない。ここで見てるか…」

呟いた俺に顔の赤みがひききっていない、ティファが言った。

「あのね、今日のパーティーはサプライズパーティーのつもりだったの。ユフィやマリンもそのつもりでか
なり前から準備してたんだ。……だからね、クラウド、外で待ってて7時になったら帰って来て、パーティ
ー驚いてあげてくれないかな?」

「…………」

つまり、それは俺に演技をしろと言うことで………………なかなか難しいような気がした。だが、それで
かけがえのない家族の笑顔が得られるなら……。

「……やってみる」






解ってはいたが、ドアを開けた。開ければきっと、クラッカーを構えたユフィあたりが…………。

「………え……?」



誰もいない。

店は空っぽだった。店だけでなく家も。

「……ティファ…?」

「……マリン??デンゼル……」



次第に不安になって来た。さっきのティファは幻だったのか…?
………そんな……。



外に出る。俄かな不安に駆られ、フェンリルを走らせた。

エアリスの教会に。

重いドアを開ける。途端にクラッカーの閃光と音に視界が弾けた。


「HAPPY BIRTHDAY!」

「おめでとう!!」

「おめでと!クラウド!!」


そこには各々、クラッカーを持ったティファ…そしてマリンにデンゼルに……仲間たちがいた。


クラッカーの紙吹雪にまみれ、呆気にとられる俺に、ユフィがにやにや笑う。

「あっれ〜?クラウド、ちょっと泣いてない??」

「……うるさい」

「うっそ。まじ、こっち向いて!?」

半ば本気でユフィを睨み付けようとした俺に、ティファが抱き着いた。

「…え?!ティファ??」

「……びっくりした??」

……それは皆がここにいたことに対してなのか、ティファが珍しく人前で抱き着いて来たことに対して
なのか………。俺は判然としないまま、頷いた。

ティファは笑うと続けた。

「おめでとう!クラウド!」


そのままティファを抱きしめる。

仲間たちのヤジが遠くに聞こえた。



………ふぅ。


俺は息を吐き出すと、空を見上げた。バレットとシドにだいぶ飲まされた…。

「……随分、飲んだね」

後ろからの声に、振り向く。

「はい。お水」

ティファは俺に水を手渡すと、俺の隣に座った。

「………今日は本当に…驚いた」

くすくす、ティファは笑う。

「本当はね、セブンスヘブンでやろうと思ったの。でも、どうしてもクラウドをびっくりさせたくて」

「……十分、びっくりした」

悪戯っぽく笑いながら、付け加える。

「…ティファが人前で抱き着いて来ただけでも十分だったけど?」

「…そ…それは…///」

真っ赤になるティファの頬にキスを落とし、俺はまた空を見上げた。ティファは静かに言葉を紡ぐ。

「……それにね、やっぱりエアリスにも一緒に祝って欲しかったから」

ティファの言葉に思わず、目が熱くなる。ティファの腰に手を回し、「ありがとう」と、言うのが精一杯
だ。ティファはゆるゆると首を横に振り、空を見上げた。


「……エッジはやっぱり星が少ないね」

「……………いつか」

「うん…?」

「…いや。いつかじゃなくて…来年はニブルヘイムに行こう。……ティファさえ良ければ」


ティファの目に涙が光った。

「………あれはもう偽物だけど……。給水塔で星を見よう……?」

「……うん…」

「あの日のように満天の星が見えたら、また約束をしよう」

「………ありがとう」

涙をこぼしながら、ティファは笑った。とても、綺麗な笑顔で―――。



end






(おまけ)

すやすやと、安らかな寝息を立てるティファ―――。 寝顔にそっとキス。

―――ごめん。疑ったりして。


ティファが浮気、なんて有り得ないのに。

―――だが……。

もしかしてあの暗証番号は……?

俺は枕元に置かれたティファの携帯に手を伸ばした。ゆっくりと、番号を押す。

………0811



……当たり、だ。

俺は再びダイヤルロックをかけ直し、携帯を元に戻した。

「……ごめん。もう、しない」

「………別に大丈夫よ?」

声に振り向くと、ティファが笑っていた。

「……起きてたのか?」

「…携帯、閉じる音で」

「…ごめん」

「あのね、クラウドの誕生日パーティーの件で皆と連絡とる機会が多くて、ユフィに言われたの」

「……ダイヤルロック?」

「…うん。携帯見られたら終わりだから…って。ごめんね?疑うようなことしたくなかったんだけど…」

「…実際に俺がティファの携帯見ようとしてむきになったのは事実だから何も言えない」

「……あの……私……」

「何?」

「……クラウドだけだから……///」

「…知ってる。それに…」

ティファを腕の中に閉じ込めて、囁いた。


「……俺もティファだけだから」


end