<夏祭り>





遠くでお囃子の音が聞こえていた―――――――。

地図にも載らない位、小さな村。そこでは珍しい祭をしていた。

好奇心旺盛なカイルとハロルドは寄りたい!と騒ぎ立て、一晩の宿をこの村でとることにした。もちろん、
カイルとリアラ、ハロルドは祭に行くことにし、ジューダスは宿で休むと部屋に引きこもった。

「うわぁ!!すっごい人だな!!リアラ!あっち行って見ようよ!」

「うん!」

「なんか面白いもん売ってるかしら〜?」

仲間たちは思い思いの場所に散っていく。

「カイルっ!!迷子になるなよ!?」

ロニはカイルの背中に声をかけた。カイルは背中を向けたまま叫ぶ。

「大丈夫だよ!」

そこに残ったのは、ロニとナナリーの二人だけ。

「…………」

二人に気まずい沈黙が訪れた。

「お前、行かないのかよ?」

「あんたこそ!」

「祭に一人で行っても面白くねーもんな。しょーがねーな…、相手のいないお前に俺が付き合ってやるよ」

「なんだって!?あんただってナンパでもすりゃいーだろ!どーせ誰もひっかからないけど!!」

「なんだと!?」

人込みの中、喧嘩を始めたもののあまりの人に流される。

「…ぁっ!!」

離れ離れになりそうになって、ロニはナナリーの手を掴んだ。

ナナリーの肩がピクリと震えるがそれは一瞬で―――。

はぐれないように、ロニはぎゅっとナナリーの手を掴んだ。ナナリーも弱々しい力でロニの手を握り返す。





―――何かを言えば、憎まれ口しか出そうにないから、二人黙ったままで祭の喧騒の中を歩いた。




もうすぐ、この旅は終わってしまう。こうして手を繋げるのも最後かもしれない。

―――なんか…言わないと……。


お互いに同じ焦りを感じている。

暑さのせいなのか焦りのせいなのか互いの手が汗ばんでいる。

「……あのさ……」

「あ!ロニ!あれ見て!」

ナナリーは一際人だかりの出来ているところを指差した。

「……金魚掬い……?」

「……なにそれ???」

「この網で金魚を掬うんだ。お嬢ちゃん、やってみるかい?」

人の良さそうなおじさんがナナリーに網を渡してくれる。

「俺もやる!競争だ!!」

ロニは小銭をおじさんに渡して網を受け取った。

「負けないよ!!」







勝負はロニが1匹、ナナリーが3匹でナナリーの勝ち。何を賭けたわけでもないが盛り上がった。

「しょーがねーな…。俺の負けだからなんか買ってやるよ」

「ほんと?」

意外な位素直なナナリーの言葉にロニは口角を上げた。

「じゃあ、これ!」


ナナリーが指したのは子供用の花のあしらわれた髪飾り。

「……おいおい。そんな安物でいいのかよ?」

「いいんだよ。お祭りに来た記念なんだから」

言ってナナリーは髪に飾りを挿した。白い造花の付いたそれはナナリーの紅い髪によく映えて―――……。

ナナリーはくるり…と回ってみせた。

「……似合うかい?」

「………あぁ。似合うよ」

ロニが素直に答えると、ナナリーは目を見開いた。

その表情にふと我に帰る。

「正に馬子にも衣装だな」

「……あんたがモテないのがよく分かるよ」

「なんだ?!そりゃ!!」

「あ!」

ナナリーは道行く子供に目をやった。子供の持っている棒に綿を巻き付けているようなお菓子。

「あれなに?」

「知らん。この村の祭は独特だな……」

「食べてみよ!…ね?」

「あ……あぁ」

ナナリーに手を引かれて、祭の中を歩く。




―――楽しい………だからこそ、寂しさは増して行く。




フォルトゥナを倒したら、どうなってしまうんだろう……?





このままでいられない、それは解っている。






もう、会えないわけじゃない。





だけど、正しい時間の流れの中で出会ってもそれはもう、今の関係とは違うだろう……。







綿菓子の屋台に着くと、ハロルドがいた。
案の定、ハロルドは屋台を開いている若い男に絡んでいた。

「どうやってこの形態を作り出してるわけ?? ちょっと機械止めてよ〜!」

「無理言わないでくれよ!!」

「あら☆ お二人さん。珍しく手なんて繋いじゃって仲良しじゃない!さては綿菓子を買いに来たわね?」

目敏く二人が手を繋いでいることを指摘しハロルドは楽しげに笑った。

「ば…バカ!そんなんじゃねぇ!これはこのじゃじゃ馬がはぐれないようにだなぁ…!」

「誰が…あんたなんかとはぐれたって痛くも痒くもないよ!!」

「まあまあ、今日は特別に私が奢ってあげるから。仲良くしなさいよね〜」

そもそも誰のせいで……とは思わなくもないが、ハロルドの奢りの綿菓子を二人で頬張った。

「……甘い……」

「美味しいじゃないか?………あの子たちにも食べさせてあげたかったな……」

空を見上げて、ナナリーは言った。




―――お前、『あの子たち』のいる時代に帰るんだよな………。



いつかは、離れる運命。



―――告げるべきか? 告げないべきか?

思いが通じたなら、離れがたくなるし、告げなければ後悔するかもしれない――――。




「…ナナリー……」

「……なんだい……?」

ナナリーの瞳を見て、何かを言おうとした矢先――



ひゅー……どんっ!
パラパラ………




周りの歓声が上がった。

「うわぁ!花火!!」
ナナリーの歓声を合図にしたかのようにいくつもの大輪の花が空に咲く。

「………」

二人で花火を見られるのも、最後かもしれない。少なくとも『今の二人』では。


「……ナナリー……」


もう一度、ナナリーを呼んだ。不思議そうに見上げてくるナナリーにキスした。


―――花火の音も、周りの喧騒も遠ざかる。
口唇を離して、告げようとしていた言葉を口にした。




「           」




ひゅー……どんっ!
パラパラ………





先程の数倍の大きさの花火が夜空を彩る。

二人でじっと花火を見ていた。


それが最後の花火だったらしく、人々はざわざわと動き出した。



―――聞こえなかった………よなぁ。

さっきのは……。

「ロニ」

ロニは呼ばれて、振り返った。



「……あたし、忘れないから。あんたが、髪飾り買ってくれたこととか…綿菓子食べたこととか………キスしたこととか、
あと、さっきの言葉とか……」




顔を赤くして言うナナリーにロニも顔を赤くした。

―――なんだ、聞こえてたのかよ……。



「あたし…           」




ナナリーの言葉は再び花火の音で掻き消された。

あれは最後ではなかったらしく、もう一つ、花火が上がる。


―――だが、その音は、もう二人には届いていない。二人は再びキスをしていたから――……。





夜空にまた、大きな花火が上がった。



end





2006.9.9up