<恋花>
ゆっくりと。
回されていた腕から力が抜けた。
………だからと言って離すつもりはないらしくしっかりと男の腕は華奢なエアリスの身体を抱きしめている。エアリス
は何も纏っていない細い腕をクラウドの首に回した。
「……クラウド……」
「………?」
甘やかな蒼い瞳で、クラウドはエアリスを見つめる。
その色に吸い込まれてしまいそうになる。
「……エアリス…?」
「………クラウド…」
「…なに……?」
「貴方に……会いたい…」
「…??」
クラウドはきょとんとエアリスの顔を見た。
「………俺はここにいる」
「分かってる……」
伝えたい言葉は、言葉にならずそのもどかしさにエアリスは眉を歪めた。
抱き合って、互いの体温を確認して―――……………それでも貴方が見えないの。
――……貴方は、誰?
心の底から思う。
アナタニアイタイ。
見つめてくるエアリスにクラウドはくすり…と笑った。
「……エアリス?今、きっとこの世界で1番、俺の近くにいるのは間違いなくあんただ」
その言葉に思わず笑みが零れる。額を付けて、クラウドはエアリスの翠の瞳を覗いた。
「……こんなに……好きになったのは初めて……だ」
「……ホント?」
「……ホント」
「……ティファ、より?」
エアリスの言葉にクラウドはきょとんと目を見開いた。
「……ティファ?…ティファはただの幼馴染だぞ」
「………そう思ってるのはクラウドだけよ」
「………それはともかく」
「あ〜。ごまかしたぁ〜」
「……俺が好きなのはあんただけだ」
さらりと、言う言葉にふいに恥ずかしくなってエアリスは目を伏せた。
人一倍シャイなのに、ふいにこちらが恥ずかしくなるような台詞を言う――――しかも無自覚に。
そんなクラウドって――――――
「ズルい!」
エアリスは思ったままを口にした。
エアリスからの突然の言葉にクラウドは目を点にする。
「………どこがどうなってそーゆー結論にたどり着くんだ???」
「……だって……きっと、クラウドの好き、より、わたしの好きの方が大きいと思うの。……それなのに、ズルい!」
「それは聞き捨てならないな。俺の方がずっと好きだ」
「そんなことない!……だってわたし、クラウドのこと知らなすぎだと思うの。……子供の時、どんな子供だったのか、
とか。どうしてソルジャーになった、とか。ソルジャーの時、どんなだったか…とか知りたい!」
一瞬、曇るクラウドの表情を見逃すエアリスでは、ない。
「……そんなこと言ったら俺だってエアリスの子供の時のことなんか知らないぞ?……きっとツォンとかの方が知ってるだろ?」
珍しくクラウドに走る嫉妬の色にエアリスは口角を上げた。
「……でも…」
―――わたしの言いたいことは、そゆことじゃなくって………。
触れれば壊れてしまいそうな不安定な貴方……。
その『核』に触れたいのに、貴方自身が『核』の存在に気付いていないような…………。
それを伝えたいのに、うまい言葉が見つからない。
解って欲しいのに、彼は特別鈍い。
その歯痒さに、エアリスはクラウドにぎゅっとしがみついた。
口唇を重ねても、肌を重ねても『彼』が見つからないのは解っていたが、そうせずにはいられなかった……。
「……会いたいよ。……クラウド……」
たまらなく。
アナタニアイタイ。
もう…どうしようもないの。
『本当の貴方』は何処にいるの?
「…ここにいる」
いくらか、眉を歪めてクラウドが言う。困ったように。
「……俺はここにいる。エアリスの傍に…」
その言葉に、涙が零れた。
―――違うの。やっぱり、クラウド…解ってない、のね……?
知れば知るほどに…知りたいと思う。涙に濡れた眼でクラウドを見つめた。
「……なにがあっても、わたし、クラウドの傍に…いるからね?」
それはなにかの予感……なのかもしれない。セトラとして生れ落ちた自身への――――――。
貴方が自分を見失っても………わたし、傍にいるから。忘れないで…?
どんなことになっても、貴方の傍にいる自由をわたしに―――。
心の中で呟き、クラウドを再び見上げた。
……クラウドはやはりきょとん…としている。
―――困った人…ね。
エアリスは苦笑し、クラウドに触れるだけのキスを贈った…。
end
2006.8.28up
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