<Cherish>
その姿を見たら止められなかった。
「ユフィ…!?」
――――誰かが遠くでアタシの名前を呼んだ。
でもそんなの知らない。
アタシは思い切りヴィンセントに抱き着いた。
「――っ…!」
ヴィンセントは突然のことにびっくりしたみたいだけど、それでもアタシを受け止めてくれた。
「……ユフィ…?」
アタシの顔を覗き込むヴィンセントの真紅の眼―――――涙が止まらなくなった……。
「――今日は、驚いたな」
クラウドの声にティファは顔を上げた。
「ユフィのこと?」
―――あの騒ぎの中、行方知れずになっていたヴィンセント。けれど……と言うべきかやはり……と言うべきか。
ヴィンセントは生きていた。そして戻って来た。
皆、ヴィンセントの帰りを待ち侘びていた。
そして、相変わらずのボロボロのマントを目にした時、走り出したのはユフィだった。
人前だと言うのにユフィはヴィンセントに飛び付き、ヴィンセントの名前を呼びながら号泣した。ユフィはなかなか泣
き止まず、その間、ヴィンセントはずっとユフィを優しく抱きしめてユフィが泣き疲れて眠ってしまうまで傍にいたのだった。
「……ティファは大して驚いてないのか?」
クラウドの問いにティファは淡く笑った。
「……私…知ってたから」
「……知ってた……って??」
ティファはゆるゆると首を振った。
―――???マークを浮かべるクラウド。
―――鈍感なクラウドに気付けと言うのは無理があるかもしれない……。
「…ユフィはね、ヴィンセントのこと好きなんだよ」
ティファの言葉にクラウドが目を丸くする。
「…で……でもすごい年齢差だぞ?それにヴィンセントは……」
――死ねない身体だから。――まだルクレツィアを愛しているから―――。
クラウドの言葉をティファは首を振ることで遮った。
「――そんなの……関係ないよ?……クラウドよく知ってる……でしょう…?」
「……」
――好きになってしまったら……もうその気持ちに歯止めなんてきかない。
それは男でも女でも大人でも子供でも………。
「……そうか……ユフィが……」
「……なーに?クラウド…ショックなの〜?」
からかうような口調のティファにクラウドは微笑んだ。
「…まだまだ子供だと思ってたんだけどな…」
「……ユフィもう19歳だよ?」
「……分かってるけど………人を好きになることって……いいことばかりじゃないだろ?……辛いこともたくさんある」
………言葉を選びながらゆっくりと言うクラウド。クラウドはティファをそっと抱き寄せた。
「……そんな想いをユフィがすると思うと……少しやる瀬ない…」
クラウドの優しくて儚い笑顔は少し切なくて、ティファはクラウドの肩に頬をつけた。
「……ティファは?」
「え?」
「…ティファはどう思ったんだ?あの二人のこと」
「……羨ましい……かな」
ユフィの眩しい程の真っ直ぐさも、もどかしいようなヴィンセントの優しさも……。
「なんだ?」
クラウドはティファを離した。突如なくなった腕の温もりにティファは驚きクラウドを見上げる。
クラウドは先程とは違う笑顔を浮かべている―――少し悪戯っぽい笑顔。
「ティファ。俺に抱き着きたかったのか?」
「――……もう!どーしてそんな解釈に…!」
ティファの言葉が終わる前に温もりは戻って来た。
「――もしも、ティファが抱き着いて来たら……俺、受け止めるから」
「……」
耳元で囁かれた甘い声――――クラウドの瞳の甘やかな色――――その色に誰より魅せられているけれど――
――ティファの口から零れたのは。
「本当かしら?」
――そんな憎まれ口。
「……信用ないな…」
「……だって……」
クラウドはティファを抱き上げた。
「大丈夫。ヴィンセントよりは頼りになる」
「なんで?」
「……俺はティファのヒーローだから」
言ってクラウドはティファの額にKissを落とした。
セブンスヘヴンに来たユフィはいつもの様子と打って変わり無口だ。
「……」
「………ユフィ。何か飲む?」
ティファは沈黙を打ち破るべくユフィに尋ねた。
「……ジントニック」
「………」
ティファはユフィの前に烏龍茶を出した。
「ジントニックって言ったじゃん!!」
「未成年の飲酒はセブンスヘヴンではお断りしています!!」
「いーじゃん〜!!アタシもう19だよ!?来年は20だ!!」
「じゃあ来年ジントニック出してあげる!来年まで我慢しなさい!」
「……うー……」
唸るユフィの前に料理を出しながらティファはユフィを眺めた。
―――この前会ったのは1ヶ月も経たない内だと言うのに、ユフィは明らかに変わっていた。
―――天真爛漫な筈のユフィに刻まれた翳り―――――それはドキリとする程で。
少女から女へと変化する瞬間―――それがこんな感じなのだろうか?……そんなことを考えてしまう。
―――私の時は自覚なんてなかったけど………どんなだったのかしら??
「……大体どうしたの?ユフィ、コーヒーも飲めない位苦いの嫌いだったじゃない。甘いのならともかく……苦いのよ?」
「知ってるよ!そのくらい!!」
「……」
大声に目を丸くするティファに……ユフィは俯きながら呟いた。
「……この前さぁ…WROの仕事でヴィンセントと一緒だったんだ………
――任務は思いの外、容易に終えることが出来た。しかし、遠方故エッジへは帰れず仕方なくその日は野営となった。
「……私が火の番をしていよう。……お前は眠れ」
ヴィンセントの素っ気ない言葉。――ユフィはヴィンセントを見上げた。焚火を指差す。
「コスモキャニオンを…思い出さない?」
「………コスモキャニオン……コスモキャンドルか」
―――星の巡りを眺め燃え続ける赤い焔。
「……人の命なんて、星からしてみればほんの一瞬なんだろ?……アタシだって一晩位起きてられるよ」
「……ユフィ」
困ったようなヴィンセントの声。
「……寝なければ明日に差し障る…」
―――子供扱いしないでよ!!
叫びたかった。けれど叫べばより子供扱いされること位分かっている。
「……眠れないよ」
「……」
やはり困惑に揺れるヴィンセントの瞳。
「……話してよ。ヴィンセント」
胡座をかいていたヴィンセントの膝に、ユフィは頭を乗せた。
「…」
戸惑うヴィンセントを膝の上からヴィンセントを見上げた。
「……話、聞きたい。眠れるまで話してて…?ヴィンセントが話してくれたら……アタシきっと眠れるから」
「………話…と言われても…私は……」
「……ヴィンセントのこと、話して?」
―――ヴィンセントのこと、アタシもっと知りたいよ?
―――――ヴィンセントはユフィの髪を撫でながらぽつぽつと、語りだした。
その低くて優しい響きに、いつしかユフィは眠りに誘われて行ったのだった。
「……良かったじゃない」
「良くないよ!!」
「…え??」
ユフィの剣幕にティファは後ずさった。
「ど…どうして??」
「一晩中一緒にいたんだよ?なーんにもないって異常じゃない?!」
「なんにも…??」
意味が理解出来ず首を傾げるティファ。
「あ〜!!キスとかさぁ!!」
―――あぁ。そういうことか…。
大人びたことを言うから、遠くへ行ってしまったような気がしたけれど。やはりユフィはユフィでしかなく――――。
「……だから……ジントニック??」
こくりとユフィは頷いた。
「……近付きたいんだ。ヴィンセントにもっと」
―――叶うことならば。
ヴィンセントの1番近くへ
―――叶うことならば、あの紅い瞳に自分だけを映して。
「……焦らなくてもいーじゃない。ユフィはまだまだ若いし…ヴィンセントは……」
「だから焦るんじゃん!ヴィンセントは歳、とんないんだよ!?
あの人もとらないけど…!アタシがどんだけ望ん
でもヴィンセントの傍にいられるのはヴィンセントにとってもほんのちょっとの時間なんだよ!?」
「……!」
息を飲んだ。ティファの考えるより遥かに深く、ユフィはヴィンセントを思っているのだ…。
「大体ティファはどう思ってるわけ!?クラウドだってわかんないよ?
ジェノバ細胞あるんだから!!……それに
……ティファはいいの!? クラウドは…!」
カシャン……。
―――グラスが割れた。
「――…………」
気まずい沈黙が二人を覆う。
「……ごめん…。言い過ぎた……」
ユフィの言葉にティファはゆるゆると首を振った。
「……アタシ…帰るね?」
―――『もっと、ゆっくりしていけば?』―――いつも約束のように口にしている言葉―――どうしても言うことが出来
なかった――。
ただ「気を付けて」と口にして、店にCLOSEDの札を下げた――――。
―――どれだけそうしていたのだろう?
身体には不思議な位、力が入らなくて。
―――マリンとデンゼルはバレットのところに遊びに行っている。
――――良かった。こんな情けない姿、子供たちには見せられない―――どこか冷静に思う自分が妙に滑稽だ。
笑ってしまおう。笑ってしまえば――――顔を上げて声を出そうと試みた。
―――出たのは笑い声などではなく鳴咽の声と涙。
―――分かっていた。
全て分かっていた―――けれど、彼は傍にいてくれるし、優しい。
寧ろ何も見ることなくこの幸せに溺れてしまえれば―――そう、思っていた。
JENOVA CELL―――彼に驚異的な力と生命力を与えたもの――そしてその代償に、彼から人間としての当然の
生活と心をも奪ったもの――――彼は通常の時の流れを過ごすことが出来るのだろうか?
彼と同じように宝条の実験の洗礼を受けたヴィンセントは時を刻まぬ肉体となった。
―――彼とヴィンセントが受けた実験は根本的に異なるものだ。ソルジャーと同じJENOVA
CELLを埋め込む実験
―――ソルジャーは数多いる。けれど、闘いの為に作り出された――そう言って構わないソルジャーが平和な生
活を送っている―――そんな話は聞いたことがない。誰もソルジャーの時の流れを知らないのだ。
―――クラウドは……。
どうなのだろう?再会して4年経つけれど彼は変わっただろうか――?
精神的な変化は大きい。
けれど身体は――?肉体は変わった……?
傍にいるから気付かないだけで―――もしも、クラウドが時を刻まぬ身体だったなら―――ずっと傍にいられるだ
ろうか?
自分は老いていくと言うのに変わらないクラウドを見ていられるだろうか―――?
そして。
『あの人』――ルクレツィア。ヴィンセントがあの人に未だ想いを寄せるように――――クラウドがエアリスを思って
いたのなら……。
自分の感情の在り処に途方に暮れた。
――――この感情は………なんなの…?
愛――それには穢れ過ぎている。
嫉妬―――それには近いのかもしれない……
けれど。 エアリスを慕う感情に嘘はないのだ――――。
「――ティファ?」
店のドアが開いた。クラウドが帰宅したのだ。
「今日店、閉店にしたのか…。ティファ…?」
―――来ないで。
こんな顔を貴方に見せたくはない。
そう思う気持ちと裏腹に身体は動かなくて――――――。
クラウドはカウンターの下でしゃがみ込むティファと、床に広がるガラスの破片に気が付いたようだった。
「……ティファ?怪我したのか?」
―――駆け寄って、ティファの顔を覗き込んで――――クラウドは言葉を失った。
「――ティファ…?!」
ティファはクラウドにしがみついた。強く強く、二人の間の隙間などなくなってしまうよう強く―――――。
クラウドは戸惑うように、ティファの背中に腕を回した。
「……どうした…?ティファ…」
―――顔を見られないように。
クラウドの胸に顔を押し付けて首を振った。
「クラウド…」
彼はここにいる―――今、ここに。今の姿で――――――。
手探りをするように彼に口付けた。
―――自分から彼に口付けるのは初めてだ――――彼はびくりと身体を竦ませたけれど黙って、ティファを受け入れた。
――――クラウド。
声にならない声で彼を求める。
―――クラウド…………。
―――クラウド…。私を連れて行って。お互い以外何もない世界へ――。
クラウドの優しい手―――――髪を撫でてくれている。
それさえ涙を誘うことをクラウドは知らないだろう……。
「……ごめんね…?クラウド……」
「謝ることはない…」
―――身体がいくら繋がったとしても心は違う――――それ位解っていても、求めずにはいられなかった。
――――その後に襲うのは後悔と罪悪感だけなのに――――。
「……ごめんね………」
――――ごめんね。クラウド……
――――ごめんね……エアリス……。
「……なぁ…ティファ…?」
ティファはクラウドの声に顔を上げた。
クラウドの蒼い瞳――苦しげな色――――私のせいだわ……。
そう思うとより、辛くなる……。
クラウドはティファの頬にそっと触れた―――。
「――ティファ……俺のこと好き?」
――――突然の質問に戸惑う。だからこそ、素直に首を縦に振った。
「……俺もティファを好きだ………それだけじゃ……ダメか…?」
涙が溢れた。
「……分からない…。解らないよ……クラウド…」
―――この気持ち……どうすればいい?
どうしたら……いいの…?
窓を開けるとひやりとした空気が流れ込んで来た。
泣き疲れて眠ってしまったティファが目を覚まさないか―――そう思いベットを見遣った。
ティファは静かな寝息を立てている――眉間に刻まれた苦悶の色―――――ティファにこんな表情をさせて
いるのが他ならぬ自分だと思うと―――やる方ない気持ちになった。
幼い頃からティファには笑顔を浮かべていて欲しい――――そう願っていた筈なのに。
はぁ……と溜息をついて、窓の外を見る。
「………」
窓の外の違和感に目を見開いた。
「……ヴィンセント」
ひらひらと闇に溶けるような緋色の外套を靡かせた男は―――着いてこい―――――そう言うように身体を
翻した。
「……ティファは?」
挨拶もなしに本題に入ってくるヴィンセント。
「……眠ってる」
―――よく解らないが、ティファが不安定な原因を彼は知っている。
根拠などないがそれは確信だった。
「………それで?」
―――言葉を促す。彼も自らも饒舌ではない。
だが付き合いの長さで彼にはそれで通じると、解っていた。
「……ユフィが……」
「……………」
「………私のせいだ」
低いヴィンセントの声。
「……ユフィは?」
「―――ふて寝だ」
――――こんなシンクロニティ、嬉しくもなんともない。
「……私の責任だ。ユフィに非はない」
「―――そんなこと分かってる。大体、誰が悪いとかそんな話じゃないだろ?」
「………」
「……大体、ヴィンセントどうするつもりだ?」
「…どうする、とは?」
「ユフィのことだよ!」
――――困惑に揺れるヴィンセント。まるで、あの時の俺を見るようだ。
―――お前と俺はやはり、よく似ている。
俯いたまま、ヴィンセントは低い声で呟いた。
「……私は……人とはもはや言えぬ身体だ…」
「――そんなの俺だって一緒だ。いつまたJENOVA細胞が悪影響を及ぼすか分からない」
―――恐ろしい星痕症候郡。思い出すのも忌ま忌ましい―――最も忌ま忌ましいのはそれから逃げ出した自分自身だが。
「……そんなことよりユフィをどうするんだ。…1番肝心なことを聞く。――ユフィをどう思っている?」
「………………」
「………………」
「……嫌い…ではない」
「………」
「…ユフィは私と違って生のパワーに満ち溢れていて―――共にいるのは楽しい」
「…ならいいじゃないか?」
「しかし……私は……ユフィを幸せには……」
「ルクレツィアを幸せに出来なかったから?」
「……それとこれとは別問題だ。ユフィはまだ若い……」
二人の間に訪れる静寂。元々無口な二人故、違和感は少ない。
――――だが、今は、言わなくては。かつての自分自身に言うようでそれは痛みを伴うが。
「……俺…最近思うんだ」
ぽつり…とクラウドは呟いた。
「――俺ってなんて自分勝手な人間なんだろう…って…」
「………」
「―星痕の時の話だけじゃなくて……俺はティファと付き合ってるだろう?」
「……」
ヴィンセントは何を今更…と思っているのか返事すらしない。
「……ティファを愛してるから…ティファにはいつも笑っていて欲しい…幸せでいて欲しい………今日泣かせちゃったけどな」
「………」
ヴィンセントの瞳が揺れた。
「……でもそう思うのは自分の自己満足じゃないか……そう思う」
「……何故だ?」
「……幸せなんて主観的なものだ。俺の思う幸せとティファの思う幸せは根本的に違う。……俺はあの時…家族から……テ
ィファから離れることがティファのためだと信じていた……今考えるとただのバカだけどな。でもあの時の俺は俺なりにティフ
ァを愛してそう考えたんだ。……でも、結果は解るだろ?」
「………」
「……俺はひどくティファを傷付けてしまった。……今でもティファは夢を見るんだ。俺がいなくなる夢………」
「……」
「……エアリスの影にも怯えるんだ。おかしいだろ?……ティファとエアリスはあんなに仲が良かったのに……」
淋しげにクラウドは笑った。
「……今でも思うよ。俺なんか傍にいない方がティファは幸せなんじゃないか……って」
「………」
――――クラウドの考えることは限りなく自分の考えに近い。
「……それに俺はヴィンセントと同じ、普通の人間じゃない。JENOVA細胞が俺のこれからの人生にどんな影響があるか……
例えば…子供にどんな影響があるか分からないんだ」
「………」
「……だけど、俺はティファの傍から離れない。それはティファの為なんかじゃなく、きっと俺の為なんだ―――それがティファ
の為にもなって欲しい…とは思ってるけどな」
「…………」
「……恋愛なんて、究極の利己的なもんだろ?……お前の思う『ユフィのため』なんてのは…理由にならない」
ふっ……ヴィンセントは笑った。
「……珍しく饒舌だな」
「……ティファに関してはな。……それに……」
「……それに?」
「ユフィは俺にとってもティファにとっても、妹みたいなもんだ。…やっぱり妹には幸せになってもらいたいからな」
「……参考にしよう」
バサリ…とマントを翻すヴィンセント――――――――「あぁ…あと」
クラウドは付け加えた。
「ユフィの1番の姉さんはやっぱりエアリスだろ。ユフィを泣かせるとエアリスが怖いぞ?」
悪戯っぽいクラウドの笑顔。ヴィンセントも苦笑した。
「……結果は携帯で知らせてくれ。俺は出れないことも多いから、メールにしてくれると助かる」
「……め……めぇる…?」
「…ユフィに聞け」
「……努力する。あと、ティファに早く上着を。風邪をひくと良くない」
言ってヴィンセントは闇に溶けるように消えた。
「……?」
ヴィンセントの意味不明の発言に首を傾げながらクラウドは踵を返した。
「……!!」
そこに立っているティファに思わず絶句する。確かにティファは薄着で身体は寒さで冷え切っていた。
「……いつから…?」
「……ごめんなさい…。聞くつもりはなかったの………ただ目を覚ましたらクラウドがいなくて……いても立ってもいられなくて…」
上着はないので、自らの腕の中にティファを収めた。
「……あの……どのへんから聞いてた…??」
――冷え切ったティファに合わせるように上がる自らの体温――。
「……クラウドが…自分勝手…ってあたりかしら…」
「………ごめん……」
ティファはゆるゆると首を振った。
「…謝らないで?……私もそうだよ?…きっとクラウドのためなんかじゃなく私のためにクラウドと一緒にいたいの…」
―――どこまでも。どこまでも勝手な感情―――けれど……勝手ならどこまでも勝手なままで―――。
クラウドはティファを抱きしめた。
すやすやと。
―――安らかな寝息を立てるユフィ。
―――起こすのはやめておくか……―。
ヴィンセントがそう思った刹那、ユフィが目を開けた。焦点を結ばない瞳でヴィンセントを捕らえる。
「…ヴィンセント…?」
「………」
ユフィは不機嫌な表情を浮かべた。
「…何しに来たわけ?」
「……クラウドに会って来た」
「……あっそ。で?」
「…説教されて来た」
「あ〜!そーだよ!!アタシが全部悪いんだよ!!それでいいだろ!?」
「……ユフィ。人の話をよく聞け。私は説教しに来たわけでも、クラウドに説教しに行ったわけでもない。クラウドに説教されたのだ」
「………は?どーしてヴィンセントがクラウドに説教されるわけ?」
「――昔の自分に説教されているような気分だ」
「全っ然わかんない!!」
今にもつっかかってきそうなユフィをヴィンセントは腕の中に閉じ込めた。
「!!」
―――ユフィは目を見開いてフリーズ。正に鳩が豆鉄砲を喰らった時のような顔―――その顔に苦笑しながらヴィンセントは囁いた。
「――私はもっと自分勝手に生きることに決めた」
そして、驚いた顔のまま固まるユフィにキスをする。
「……ヴヴヴヴヴヴヴヴィンセンと〜〜〜!?」
「……嫌だったか?」
「嫌じゃない!!嫌じゃないけど……!」
「……恋愛は究極の利己的行為だそうだ。私はお前を幸せには出来ないかもしれないが…いいか?」
ユフィはきょとんとした表情から一転、いつもの勝ち気で不敵な表情を浮かべた。
「……悪いけどさ…アタシはあんたに幸せにしてもらおうだなんてこと1回も思ったことないよ」
再びキス。
――幸せなんて、誰にも分からない。それならどこまでも自分勝手にあなたを想わせて―――。
end
2006.11.12up
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