<RING>




「ゼロスってさ〜あまり独占欲なさそうだよね」

ジーニアスの唐突な発言に俺は目を剥いた。

「なーにを根拠に〜?」

「ゼロスを独占したいって人は多そうだけどさぁ…ゼロスって本当は大して興味ないでしょ??」

――流石、リフィルの弟。観察眼の鋭さはロイド、しいなの倍程度か?

俺は考え込む。独占………それはなんだ?俺は俺のもので誰のものにもならない。それは当然のことで俺が他の誰か
を自分のものにするって………奇妙な話だ。



<RING>



「僕なんかいっつもプレセアを独り占めしたいって思うけどな〜」

――――なんだ。それが言いたかったのか。

少し考え込んでいた俺は少し安堵した。自分の話をしたいだけならそれを聞けばいいだけのことだから。


「プレセアちゃんは誰にでも笑顔振り撒くタイプじゃねーじゃねーの」

「……そりゃそーだけどさぁ……大体ゼロスがプレセアちゃんってゆーのもムカつくんだよね〜」

「じゃあ、プレセア??」

「…!」

「やっぱりなんか変だわ。プレセアちゃんはやっぱりプレセアちゃんだわ」

こくこくジーニアスは頷いた。

「――ゼロスって……呼び捨ての方が特別感あるね……」

「そーか〜?……って俺さまが呼び捨てにするのは……セバスチャンとセレス…それ位か」

――いずれも関係は異なるものの俺の中で特別、と言えば特別な人間ばかりだ。

「……あとしいなもじゃない」

「―――あぁ。確かに」

言われて頷く。本当はそれには気付かないで欲しいと思っていた自分がいた。

本当の本当に‘特別’だから。

……相変わらず鋭いガキだ。

「まぁしいなも昔から知ってっからな〜俺さまからすっと妹みたいなもんだし」

「……へぇ〜…」

ジーニアスは目を見開いた。

「しいなは分かってたけど、ゼロスも意外に意地っ張りなんだね〜」

「……おい。なんだそりゃ?」

「だってゼロス、しいなのこと好きでしょ」

「………」

図星をずばり指されて俺は絶句する。


「そんなこと、しいな以外知ってるよ〜。あ、ロイドは知らないかもね」

「……え〜?コレットちゃんも??」

「コレットは気付いてるね」

「…………………………………………………………………………………………」

まぁ、いっか。
気をとりなそうと軽口をきこうとした俺にガキがとどめの一言を放った。

「でもしいなと付き合ってはいないみたいだし、しいなにロイドを薦めてみたり……変な人だよね。
その辺りから独占欲ないのかなーって」

「ま〜その辺はお前が仮に名前通り天才だとしても、12歳じゃ理解できねーよなぁ」

「なんだよ、それ?!」

頬を膨らますジーニアスに笑いかけ、俺は一人で先を歩くしいなの肩を叩いた。

「しいな〜。ガキンチョが生意気にも色気づいてんぜー」

しいなは邪険に俺の手を振り払ってジーニアスに言う。

「ジーニアス、こいつに近付くと色魔になっちまうよ!」

「わ〜ひでぇ!」




サイバック。

じろじろと見てくる男―――――なんだ。こいつは。

しかも、しいなだけを見ている気がする………。

さりげなく、俺はしいなの前に立つ。

「こらっ!ゼロス!無駄にでかい図体であたしの前に立つな!!」

「……無駄って……あのな〜俺さまはバランスよく長身なの!リーガル程ではなくロイド君より高い!うーん。絶妙なバ
ランス。流石ナムコ!」

「何訳わかんないこと言ってんの??」

「まーまー。……ってかさ、しいな、リーガルが前に立っても怒らねーじゃねーか」

「リーガルはいーんだよ。あんたは最後尾!!オープニングでも態度悪く最後尾だっただろ!」

「お前も訳わからねーこと言ってんじゃねーか!俺さまはあのオープニングのためにメンズエステで脱毛したんだぞ!?」

「だ…だからつるつるだったの?!あんた……あとは流し目とかろくなもんじゃないのにねー」

「なにゆーか!俺さまの剣くるくる(?)見たか?!あれ見たら惚れるだろ〜」

「生憎あたしはモンスターと闘ったり、ロイドとコレットとクラトスに会ったり忙しかったんだよ!大体あのオープニングのあん
たを見てここの管理人の感想は、『うあ〜マリーさんよりごっつい女が出て来た〜』だからね!」

「おいおいおいおい!!いくらなんでもごつすぎだろ!」

「おーい。二人とも漫才してないで来ないと置いてくぞー」

「「はーい」」




「そこの綺麗なおねえさん!」

俺はさっとしいなの前に立った。

声をかけて来たのは案の定、サイバックでじろじろ見て来た男だ。

「おや〜。お呼びですよ〜。コレットちゃ〜んにリフィルさま〜〜〜ん」

「ど……どーせあたしは綺麗じゃないよっ!!」

しいなの鉄拳が背中に落ちたが、無視。

だが、男は俺を通り越して、真っすぐにぷんすか怒っているしいなを見る――――――――――そんなわけでしいなの左
手の薬指にはピンクパールの指輪が光っているのだった。


*******

「ってかさ〜なんで薬指なわけ??」

無邪気に指輪を眺めるしいなに俺は訊ねた。

「え?この指に合ったから」

「なんで左手なんだよ!?」

「左の方が動きが少ないから、傷付かないな〜って思って………」

「それはダメだろ!いいか?しいな!?」

「ん?」

「指輪にはいろーんな意味あるんだぜ?」

ふんふん、としいなは聞いている。

「結婚指輪とか婚約指輪とか、意味ありげなもんは大体指輪だろーがよ」

「確かに、結婚首輪とか聞かないねぇ。あんたは結婚する時は指輪より首輪の方がいーよ。浮気したら奥さんが首締め
られるように」

「………参考にするよ……ってそーゆー話じゃねぇ!」

「もーじれったいね〜。言いたいことがあるならさっさといいな」

真っ直ぐにきつい目で見上げられて俺は言葉に詰まった。

言いたいこと……?

言いたいこと………自分でもよく分からない。だけどその指に俺以外の男から送られた指輪があるのは最高に気に食
わない!!

「しいな。俺さま金ならある」

「……はぁ。ボンボン全開な発言だねぇ」

「そんなピンクパールより高い指輪ならいくらでも買ってやる。だからそれ、外せ」

「はっ!相変わらずなに訳わかんないこと言ってんだか。このアホ神子は」

「……かーなーりーストレートに言ったぞ。今」

「あんた昼のやりとり見てただろ?これはあの人の思い出の詰まったもんなんだ。あたしが代わりに大切にする―――あ
たし、そう言っただろ?」

「お前はなんてバカ正直なんだ〜!?いつかリフィル様に怪しげな壷買わされるぞ〜?!」

「壷壊してキレさせたのはあんただろ!?」






―――――と。言う訳で。

すやすやと眠るしいな。

……ふ。俺さまを悪く思うな?

眠るしいなの左手に手を伸ばす。

「ん〜…」

しいなが身じろぎした。

………結構、寝顔可愛いな〜。ってか黙ってりゃそれなりにいい女なのによ〜。


再びしいなが寝返りをうった。タオルケットがはだける。

「……!?」

ノーブラ?!もしや…ノーブラ!?

「………?」

触ったりしねーぞ?!そんなことしたら殺される!!………でも見る位ならいーか(←おい!)

いやいやいやいや。まてまてまてまて。もしばれたらしいなに半殺しにされた上に、パーティーでは村八分の目に…!!
……あ、でもどーせ俺さま裏切るんだからいっか(←おい!!)

いや、待てよ?今好感度トップは誰だ?クラトスはどの位だ? 3番以下だと俺さま裏切る権利すら奪われるんだぞ?!
今すぐトリエットに行って確認だ!(←こら!!)


「………あなた。なにをしているの?」

背筋も凍るクールな声に俺は顔を上げた――――。

「え?」

「私のいる所で夜ばいなんてずいぶん大胆ね〜」

「り……リフィル様、違う!違うんだ!!俺は…!」

「言い訳なら明日聞きます!さっさと出て行きなさい!!」






俺はそれ位で懲りる男ではない!!


「しいな〜。俺さま昨日の戦闘で怪我しちゃった〜」

「あそ」

「料理当番変わって」

「……しょーがないねぇ…」

「おっと。パールは水に触れると変色しちゃうんだぜ?外して俺さまに預けとけよ」

「そーなんだ。じゃあ頼む……」

「ナース!!!」

「……………良かったね?怪我、治って」

「これでゼロスが料理当番のままでいいわね〜」

「……リフィル様………。俺さまになんか恨みがあるのか〜?!」

にっこりとリフィルは笑った。

「パラグラフ王朝の壷」

「………………」

「なんなら私が料理当番変わりましょうか?」

「……いえ。大丈夫です」



まだ俺は頑張る。(懲りないとも言う)



ざー………。

シャワーの音が響く。

「〜〜♪」

しいなの鼻歌も。

パールは水で変色することがある―――そう言ったからしいなはあの指輪を外してシャワーを浴びている筈だ。つまり着
替えの中に指輪がある筈だ。

着替えを漁る。

しいなの服ってどーなってんだ?脱がせる時のためによく見とこう(←おい)

……にしても藤島テイルズは女の子の露出が少ねーよな〜。いのまたテイルズくらい潔く……いや。それはそれで落ち
着かねーか?


ま〜。綺麗なおみあし位は拝ませてもらいてーよな〜リフィル様とか。まぁ日焼けが嫌なら無理か〜。……コレットちゃん
とプレセアちゃんはそーゆーの見せて欲しくねーな……ってことはやっぱりしいなか。唯一胸元が出てるしな……………
……なんかそれはそれで不愉快なもんだな…。なんで??


「……あ!いっけない!」

予想外の声と共にがらっと浴室のドアが開いた。

「………一応、聞くけど何してんの……?」

「……しいな。俺も今わの際に聞かせてくれ。お前、なんで開けた……?」

「………指輪外し忘れたから。マクスウェル〜〜!!」








すったもんだの末に―――――しいなはしんみりと言った。


「……指輪も本来の持ち主に戻れて幸せだよね?」

「いや〜……俺さまにはもう無機物の気持ちを察する余裕はありません……。ただゆっくり眠れる気だけはするぜ……」

しみじみ答える俺にしいなは呆れたように溜息をついた。

「もーあんたは最近病気だね。メルトキオ帰ってハニーに会って来たら少しは落ち着くかねぇ…」

「……落ち着かねーぞ!…ったくお前って奴は……!」

「……にしてもずっとしてたからなくなるとそれはそれで指がすーすーするねぇ」

言いながらしいなは手をひらひら振った。

俺はその指を見て安堵する。なんだ。俺にもあるじゃん。明確でわかりやすい‘独占欲’


「ま。俺さまが指輪買ってやる。だからこの指は空けとけよ?」

俺はぎゅっとしいなの左手の薬指をつまんだ。…………7号。うん。間違いないな。

「??……迷惑かけたお詫び??」

「まぁこの際、その解釈で構わねぇ。とにかく、空けとけよ?」

「分かった。分かった。立派なのにしてね」

「おぅ。任せとけ」

「メリケンサックとかやだよ?」

「……それは俺さまの身に危険がありそうだから却下」




end


2007.9.9up


special thanks!
for 美來様。