<rainy day>
生温い空気と独特の香に目が覚めた。
<rainy day>
雨だ………。
隣で眠っていた彼女はいない。ふ、と言いようのない寂しさを感じて身体を起こした。
雨は、嫌と言う程に記憶を刔る。薄れて行こうとする記憶を鮮やかに思い起こさせるのだ。
俺は再び横たわり、目を閉じた。目を閉じると更に、雨の気配が濃厚になる。瞼の裏に、まざまざと
あの日の記憶が蘇りそうになり、眉間を寄せた。
かちゃり、と控え目な音を立てドアが開いた。
ふわり……と柔らかな気配と香が漂う。
ひやりとした手が俺の頬に触れた。
俺は微かに目を開いた。
「……クラウド…。起きれる?」
緩慢に首を振る。
「……お仕事、キャンセルしといたから…」
ゆっくりしててね、そう言って上掛けをかけ直した手首を捕まえた。そのままベットに引きずり込む。
「きゃ!?」
小さく悲鳴を上げてティファは俺の腕の中に倒れ込んだ。
「…デンゼルとマリンは……?」
「…学校行っちゃったけど?」
「…ならいい」
「…?何が??」
首を傾げるティファを抱きしめた。
「…え!?……ちょっ……」
人差し指を口唇の前に立てると、ティファは抵抗をやめた。キョトンと俺を見つめる目に可能な限り優し
い笑みを浮かべて見せた。
「………」
ティファの紅茶色の目が少し潤むのを確認したら、顔を寄せ、額を付けた。
温かい体温と、抱きしめた身体から直接伝わってくる鼓動に安堵した。雨に感じた不安や焦燥がゆるやか
に溶けていくのを感じる。
ほぅ……と、俺は溜息を付いた。
閉じていた目を開けると、ティファが心配そうに見つめていた。
額を離し、腕の中にティファを閉じ込めた……。
「……大丈夫……?」
「…ん」
恐る恐る、と言った風情で俺の首に腕を回して来た。静かな声で、囁く。
「……私は、どこにも行かないわ。貴方を独りにはしない……」
俺は君を独りにしたと言うのに……?
少し滲んだ涙を隠すために抱きしめる腕に力を込めた。
少ししてから、抱きしめる力を少し弱めると、ティファはぴくり、と震えた。
「……クラウド…?」
闇を恐れる子供のような声。本当は、ティファも独りになるのを恐れているのだ。案の定、顔を覗き込む
とやはり不安そうな顔をしていたのを見て、俺は苦笑した。そのまま、柔らかな口唇を奪う。
「…大丈夫だよ。ティファ」
俺もティファを独りに、しないよ。
みるみる内に涙を零すティファを抱きしめた。
「……あ」
ティファが小さな声をあげた。
「……?」
視線の先は窓の外。雨上がりの日差しが雲を割り、輝いていた。
ベットからもそもそ身体を起こしティファは笑顔を浮かべた。
「…やんだね……」
俺は寝そべったまま、ティファを見上げた。
「……残念」
「どうして??クラウド、雨嫌いじゃない?」
「雨がやんだら、ティファ、洗濯をするだろ?」
身体を起こし、ティファに視線を合わせた。
ティファは、キョトンとした顔のまま頷いた。
不意を付くように、キスする。そして耳たぶまで紅く染まった耳に囁いた。
「俺としては、キスの続きをしようと思ったからさ…」
そのまま、ティファを押し倒し先程とは比べものにならない位の深い口付けをする。
「…ま、雨が降ってなくてもいいか…」
口唇を離して、くすりと笑った。ティファは顔を真っ赤にして「……でも……洗濯物……っ?!」と起き
上がろうとするから、手首を捕らえて口唇を塞いだ。
「……昼干せばいいさ」
午後の天気予報は晴れだったし。
ティファは紅い顔を反らして「……バカ」と呟いた。
end
2006.7月辺りか…??
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