<謹賀新年>




新春の澄んでいてかつ冷たい空気―――――気持ち良い。


しいなは思い切り背伸びをしようとして晴れ着を着ていることに気付き伸びをやめた。

――――藤色の振袖。

綺麗なことは綺麗なのだが、いかんせん動き難い。

「……面倒くさいねぇ…」

しかし、これからしなければならないことも沢山あるのだ―――早くやろ。


しいなは振袖の袖を襷で上げると台所に入った。

前日から用意していたお節料理を出し、雑煮の用意を始める。

「しいな〜。タイガが年始の挨拶に来たぞ〜」

イガグリの言葉に襷を外し、居間に向かった。

「おぉ。しいな……見違えたぞ」

笑う叔父に笑顔を返し、改めて挨拶をする。


「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします…」

「こちらこそよろしくな……しいな。午後の民への挨拶は考えたか?」

「……え…えぇ…。一応。おろちにも見てもらったし」

「……ならば安心だな。明日のメルトキオ王家への挨拶は?」

「あた……私とおろちの二人で」

「そうか」

「今、お酒とお節用意しますね。お雑煮も作るから待ってて下さい」

雑煮を用意し、居間に運ぶ頃には宴もたけなわ……と言ったところでイガグリとタイガの楽し
げな笑い声が聞こえて来た。

――――その中に混じる聞き覚えある高い笑い声―――。

「……んん??」

しいなは居間の襖を開けた。

「えぇ〜?!」

――――そこにいたのは笑い声の持ち主だけではない。かつての旅の仲間が当然のように
いるのだった。

「うわ〜!しいな綺麗〜!」

「本当だな!」

「……コレットちゃんにロイドくーんv こーゆーのミズホの言葉でなんてゆーか知ってっか〜?」

「「わかんない」〜」

「『馬子にも衣装』ってんだぜ〜♪」

しいなは雑煮を置いた後の盆でゼロスの頭をなぐった。

「いって…!新春早々何しやがる!!この妖怪暴力鬼女〜!大体武器の使用は反則だろ!!」

「やかましい!!あんたこそ新春早々あたしに喧嘩売りに来たのかい!?」

「まさか〜。俺さまそれほど暇じゃねーぜ〜? お前が俺さまのニューイヤーパーティーを断るから
さ〜ミズホの伝統的なニューイヤーパーティーの見学にハニーたちを連れて来たってわけよ……
で、はい」

ゼロスはしいなの前に掌を出した。

「……なんだい??」

「俺さまにお年玉くれよ〜」

ゼロスの掌に盆を叩き付け、しいなは他の仲間に笑いかけた。

「今、お雑煮すぐ用意するから待ってておくれ。あとお箸だよね」

「お雑煮か〜」

「初めて〜」

「……この料理はなんと言う?この黒い豆は何で煮込んだのだ?」

「………この栗……甘いです…」

「ぷ…プレセア〜!手で食べちゃダメだよ〜!」

「……画期的な料理ね…。私も練習したいわ…」

「「………ι」」(※イガグリとタイガ)

口々に言いたいことを言うメンバーを置いてしいなは立ち上がった。

人数分の箸を用意して、網の上には餅を用意した。

かつて餅は正月となればついた餅のみで、その日の内に食べないと傷んでしまったが最近はメルト
キオなどの食文化の流入でパック入りの餅が売り出された。味は多少落ちるが保存はきくし、調理
も楽なのでしいなも愛用していた。


――――でも、ロイドやジーニアス、コレット、プレセアなんかは餅つきを見たいかもしれない……。

午後民への挨拶を終えたら誰かが必ずやるだろうから頼んで参加させて貰おうか………。


―――あとは凧上げとかこままわしとか??他、なんかあったっけか?

ミズホの伝統を考えながらしいなは俯いた。




「……おーい。箸まだ〜?」

「……あ。ごめんよ。これ持ってってくれるかい………?」

しいなは入って来たゼロスに箸を手渡そうとして、首を傾げた。

「……あたしの顔になんか付いてるかい?」

「………アホ…」

ゼロスはしいなを抱きしめた。露出しているうなじに口唇を寄せる。

―――体温が急上昇するのが自分でも分かった。

「ん〜〜v いい匂いv」

「い…いきなり何すんだ!? このアホゼロス!!」

しいなは手足をばたつかせ腕の中からの脱出を図るが敵わない―――ゼロスが強く抱きしめている様
子はないからおそらくはこの動き難い振袖のせいだ。

「――いいよな〜。この着物v」

ゼロスは口唇を離しながら囁く。解放されたことに少し安堵しながらしいなは言った。

「―――振袖って言うんだよ。未婚の女しか着ちゃいけないんだ」

「マジ!?期間限定かぁ〜」

「……って何?! この手は!!!」

――――帯に手を掛けるゼロスの手をしいなは捻り上げた。

「いでででっ!いーじゃねーかよ〜。けちけちすんなよ〜。期間限定なんだろ〜?」

「うるさい!!そんな期間限定ないよっ!!―――ってあぁ〜〜〜〜!!!!」

―――――網の上の餅は膨らみ過ぎて弾けていた。

「………こうなると取れないんだよ……」

「また焼けばいいじゃん?」

「これじゃあ網が使えないんだよ!アホー!!」




「………この餅、一口サイズなんだな!」

「おいしいね〜」

「……なんかボクが聞いたのと違うなぁ」

「……歯に……付きます…」

「……うーん。醤油ベースなのね。レッドソディベースのお雑煮とか画期的ではないかしら??」

「……うむ。これは何をダシにしているんだ?個人的な意見だが餅は一口サイズよりある程度大きさの
ある固まりを入れた方がいいように思う」

「「…………」」

言葉なく目線を交わすゼロスとしいな。

しいなは強張った笑みをリーガルに向けた。

「うんv 後で餅つきがあるからその時、またお餅食べようねv」

「いやぁv 楽しみだなぁv」

「「……」」(※リーガルとリフィル)





――――頭領の挨拶の後、広場では餅つきが行われた。リズミカルな動きでつかれる餅に、ロイドを
始め、ジーニアス、コレットは大喜びだ。

「ロイド、やってみたら?コレットと一緒に」

「え!?いーのか?」

「あぁ。ちょっと重いよ。この子たちにやらせてあげてくれるかい?」

しいなが言うと、杵を持った男は杵をロイドに手渡した。

「うわ!本当に重いな…」

「わたしがお餅を掻き混ぜればいいんだよね〜?」

「うん。二人で息をよく合わせてね。お水を少し入れるんだ」

「よし!やってみよう!えい!!」

「はい〜」

「…えいっ!」

「はい〜」

「…………えいっ!」

「はい〜…」

「……………えい!」

「はい〜〜」

「…………しいな。なんか俺、これを持ち上げてる時間が長い気がするんだけど…」

「……あ〜…。コレットだからね……あたしもやってみよーかな。おい。そこのアホ神子!」

「なになに!? 俺さま剣より重い物は持ったことがないのよ〜?」

「大丈夫。大丈夫。…あたしがつくからあんたが餅掻き混ぜるの」

「お。成程。流石暴力女」

目にも留まらぬ早さでゼロスの頭をひったたきしいなは満面の笑顔を浮かべた。

「………さ。やってみようv」

恐ろしい程のスピードで杵を振り下ろすしいな。危うく手を潰されそうになりゼロスはしいなを見上げた。

「…………て……てめ…!この麗しの神子様の手を潰す気か!?」

「へーん?なんのことだい?さっさと餅を掻き混ぜな!」

「く……くそ…っ!!…はい!!」

「えい!」

「はい!」

「えい!」

「はい!」

「えい!」

「はい!」

「…うーん…。しいなとゼロス…息ピッタリだなぁ」

「お正月から仲良しだねv」



「………つ……疲れた…」

凧上げを楽しむロイドとジーニアス、コレットを眺めながらしいなは溜息をついた。

「そりゃあんだけ餅つきゃあなぁ…」

「肩が上がらないよ…」

「本当にバカだな…」

ゼロスは餅を頬張りながら呟いた。

―――蒼い空に広がる雲と凧。

「………平和だ〜」

背中合わせにしゃがみながらゼロスとしいなは空を見上げた。

「……本当に平和だね〜」

「おぅ。しいな〜」

「んー。なんだい?」

「今年もよろしくな〜」

「……こっちもそこそこによろしくねー」




end?















































































































































































































「……なぁなぁしいな〜。明日メルトキオに来るんだろ??」

「ん? あぁテセアラ王に新年の挨拶にね」

「じゃあ家来るよな? その時は〜振袖着ててくれよな〜?」

「は?動き難いからやだよ!」

「だってだって〜!俺さまお代官様ごっこしたい〜!!」

「あんた……そのビミョー過ぎる文化どこで学んで来た〜!!」



end


2007.1.1up