<good points!>




☆微パラレル風味です。





しいなは首を傾げた。視界の先には紙に何かを書いているゼロス―――。



<good points!>




「……」

『何してんだい?』と訊こうか迷っていると―――ゼロスがしいなを振り返った。

「……なぁ。俺さまの長所ってどこ??」

「……は?長所??」

「そう。長所」

ゼロスの唐突な質問にしいなは目をしばたかせた。

――――突然、そんなこと訊かれても………。

「……うーーーーん……………………………………………………顔??」

しいなの答にゼロスは目を見開いた。

「なんだそりゃ〜!?」

「だ…だって!!あんた自分で言ってるじゃないか!!」

「……ひどい!しいなは俺さまの美貌目的で俺さまと付き合ってたのか〜!?うわー!!
俺さまマジで傷つく〜!!」

テーブルに突っ伏し泣き真似をするゼロスの頭を軽く小突き、しいなは溜息をついた。

「んなわけないだろ。……ったくアホなんだから…」

「本当か〜?俺さまの目を見て言えるか〜?」

―――下から覗き込んで来るゼロスをしいなはただ見下ろした。

「……例えば、だ」

ゼロスはしいなを見上げたまま言った。

「……俺さまの顔がヴァーリだったら、お前俺さまと付き合ってた??」

「………………」

しいなは笑い出した。身体を小刻みに震わせて笑う。次第に奮えと笑いは大きくなってしい
なは爆笑し始めた。

「あはははは!!もー!!笑わせんじゃないよ!」

「………いやあの俺さま……結構真面目に例えたんですけど……」

ゼロスの低い呟きも無視し、しいなは笑い続けた。

―――ひとしきり笑ってしいなはゼロスを見た。呆れた顔のゼロス―――情けない声で呟いた。

「……ってか俺さまの長所真面目に考えてくれよ〜」

「…あんた自分でいろいろ言ってるじゃないか。顔はもちろん声も美しいとか……地位も名誉も…
…とか。あ。あとは女にモテるとか??」

「おいおいおいおい……。それじゃー履歴書に書けねーでしょーが」

「……履歴書??」

しいなはゼロスが何かを書いていた紙を見た。

―――履歴書。それには不似合いな程、端然とした字でゼロスの履歴が綴られている。一つだ
け空欄になった『長所』の欄―――。

「……どーしたのさ?これ??」

「ん〜?俺さまも就職しようと思ってさ〜」

「えー!?似合わない〜!」

「……あのな……。似合うとか似合わねーの問題じゃねーから!まー俺さまならどこも採用した
いってゆーだろーけど〜」

「……はいはい」

「……大体俺さまは顔も生まれも育ちも性格もいーだろ〜?」

「……最後のがどーにも納得いかないんだけど……」

「更にスタイル抜群で頭もめちゃめちゃ切れるだろ〜」

「……違う方向にね……」

「こんな素晴らしい俺さまの長所をこんなちっこい欄に書くなんて不可能だぁ〜!!」

「………」

しいなはゼロスから目を離し、盛大な溜息を零した。

「……あ。わかった。前向きとかどうだい?」

「…………いや。あのどっちかつーと俺さま、後ろ向きだから…」

「めんどくさいね〜。あ。嘘が上手いとか?」

「ダメだろ!!それは!!」

「……うーん……。思い付かない!」

「かぁ〜!!愛を感じねぇ〜!!…………ってかさ、お前さ、俺さまのどこが良くて付き合ってるわ
け??」

「……さぁ……??」

「さぁじゃねーだろ!さぁじゃ!!」

ゼロスはしいなの手首を掴んだ。

「????」

しいなはきょとんとゼロスを見た………続いて、手首を見る――――とりあえず、振ってみる。ゼロス
は手を離さない。

むしろ、しっかりと引き寄せられて焦った。

「こらこらこら!履歴書書くんだろ!?」

空いていた手で、履歴書を掴み、自分とゼロスの間にいれる。

――――が。

「俺さまにとってはそっちの方が重要!!……言えよ。俺さまのどこが好きなの――――?」

―――存外に低い声音にはっとして、ゼロスを見た。 ゼロスの瞳は―――真剣な色。ふざけた答は
許されそうにないし―――こうなったゼロスは本当に絶対にその手を解きはしないに違いない―――。

しいなはゼロスから目を逸らした―――。

――――本当に……どこが好きなんだろう……?

顔は確かに自分で堂々と言うだけあって、確かに綺麗な貌をしている―――だが、別に顔で付き合っ
ているわけじゃない……。増してや、財産やら地位やらには興味もない―――そりゃ……お金はない
よりあった方がいいけど……。

―――性格?

確かにゼロスは優しい……が、それは他の女性にも優しいし――――よく考えてみれば、自分には
やたら辛辣な時もある。コレットやリフィル、プレセアには言わないような厳しいことを言われることも
しばしばだ。

―――それは……まぁ……あたしが言いやすいのかもしれないけど……。

頭に来るのはその辛辣な発言の多くは事実なことだ………。

今、離してくれないのも考えようによっては意地悪だし――――なんか優しくないかも………。

―――じゃあ……どこがいいんだ……?

「………わかんない…………ただ……ね?」

俯いたまましいなは言った。

「……あたしは多分……あんたがあんただから好きなんだと思う」

―――こんな不器用な言葉で伝わるのか……?

不安になって、ゼロスの顔を見上げた。ゼロスは真っ直ぐにしいなを見つめたまま―――――直視出
来なくて、目をまた逸らす。

「……あの……その……あんたの顔とか……性格のどこ……とかじゃなくて……あんたの嫌な部分
ひっくるめて……あんただから……好き………なんだと思う……」

―――ゼロスが求めているのは、こんな答じゃない筈だ――――。
俄かに不安を感じて、またゼロスを見上げた―――息も出来ない位、強く抱きしめられる。くしゃり、と
紙の潰れる音が響いた。

「……な……ななな……?!」

「―――それって、殺し文句……だぜ?」

―――さっきの……どこが殺し文句なんだ…??

そんな思考はゼロスの熱い接吻で虚しく霧散する―――――どこかでぱさり……と何かが落ちる音
がした気がした。





「……あああ……くしゃくしゃ……」

―――二人の間で潰れて落ちた履歴書は、くしゃくしゃになり、更に靴跡まで付いていた。

「ま。しゃ〜ねーな〜。もう1枚書けばいいし」

「……まぁそれしかないよね……で、長所はどうするんだい?」

履歴書を拾いながらしいなは首を傾げた。

「……しいなに愛されてること☆とか〜?」

「アホ!!」

―――軽いげんこつを落として、しいなはまた首を傾げた。

「……あのさ、長所書かなくていい履歴書、あるからそれにしたら?」

今度はゼロスがきょとんとした。

「……そんなのあるの?」

「うん。普通にあるよ」

「……そんな便利な物があるとは……!」

「……いや別に便利じゃないから…」

「じゃっ」

ゼロスはしいなの手を握った。

「一緒に買いに行こうぜ〜」

「………」

しいなは軽い溜息をつき、ゼロスの手を握り返した。―――振り返るゼロスの蒼い瞳にどきりとする。

その些細な仕草に、胸が波立つ――――惹かれていく。魅せられている。

「どーしたのよ?しいな。ぼーっとして??」

「……え??……あ?!……なんでもない!!」

―――途端に顔が熱い熱を持つのが分かった。

「ん〜?さては俺さまに見とれてたとか〜??」

からからと笑うゼロス――――まさかその通りだ。なんて死んでも言えない。

「バカ!!さっさと行くよ!!」

しいなは歩き始めた。



end



2007.1.28up