<Endless>
へくしゅっ!!!
「………あ゛〜…」
ちーん……………。
「…………ι」
<Endless>
ここは導き温泉。寒くなって来たから皆で温泉でも行こうか?……そんな話になりやって来
たわけだが……風邪に罹った人間が約、一名。
「……ここは暖かいのに風邪ひくなんて〜…」
「……あー…。鼻水出てる。しいな。鼻水出てる。ほらティッシュ」
「………あ゛〜…」
ちーん……………。
「…………ι」
だるそうにしいなはベットに横たわった。
「……サイアク………」
「ま、良かったんじゃない〜?風邪ひくってことは〜バカじゃないって証明されたってことだ
し〜」
「帰れ!アホ!!」
殴ろうと出された腕は空中で力を失った。
「………」
くたり……と腕はベットカバーの上に落ちた。
「はいはい。さっさと寝ろ。寝ろ」
ゼロスはしいなにタオルケットを被せるとカーテンを閉めた。
「んじゃ俺さま、ロイド君とコレットちゃんを送ってくっから」
「ん〜…」
ベットの中から見上げてくる瞳にどきり、とした。
―――妙に不安げで。潤んでいて―――風邪のせいか、カーテンで光りを遮ったせいな
のか………。
「……あんたもそのまま帰ったら?仕事忙しいんだろ?」
―――しいなはなんだかんだでゼロスに気を遣う。
(…もーちょい甘えてくれてもいーんだけどな〜)
二人はもう『特別』な関係になって半年は経つと言うのに――……。
「……あ〜。ま〜様子見に来れたらくっからよ」
「大丈夫だよ。子供じゃないんだから!」
「はいはい。じゃ〜大人しくしてろよ〜」
戻ってきたのは深夜。
―――寝てるよな……。
息を殺し、気配を殺してしいなの寝室に入った。
いつ開けたのかカーテンは開いていて月明かりが窓から差し込んでいた。
しいなは眠っている―――――。
月明かりのみだからなのか、しいなの顔色は白く寝息すら聞こえない―――――――死
んでいるのでは………と思える程に。
思わず頬に手を伸ばした。
「……あつ……」
――――すごい熱だ。
頬に触れたからかしいなは苦しげに眉を寄せた。
そして目を開く。
「――………ゼロス…?」
「大丈夫か?今医者を……」
思わぬ強い力で、しいなは手を伸ばして来た。
しっかりとゼロスにしがみつく。
「……やだ…っ!!どこも行かないで…!」
「………え……」
思わず背中に腕を回した。
寝間着越しに伝わる彼女の熱―――熱に浮かされて誰かの幻を見ているのか―――――?
―――例えばロイド、とか。
そんな歪んだ妄想を抱く自分に呆れ返る。
「……何処にも行かないでよ……ゼロス……」
「!」
―――はっきりと呼ばれた自らの名前。
見下ろせばしいなはぽろぽろと涙を零している。
「……一人にしないで……」
――――脳内の理性の糸が妖しく軋む音を確かに聞いた。
――これは……。
(……まてまてまてまて)
――相手は病人だ。しかも熱にうなされている。
―――けれど、こんな素直なしいなはこの先拝めないかも知れない――――。
「待て。しいな?? 俺さまはしいなを一人にしよーとしてるわけじゃねーぞ??」
涙に濡れた目を見ながらゼロスは言った。
「ただ…熱が高いだろ?だから医者を呼ぼうと……」
「だったらフラノールの先生呼んでくれるかい?」
「……いや〜そりゃ無理だろ。いくらなんでも」
「……じゃあ医者なんてやだ。……ゼロスが傍にいる方がいい!」
「……………」
―――こんな素直なしいなはもう二度と拝めまい。
(ありがとう!風邪菌!!)
奇妙な感謝をしつつ、ゼロスは恐る恐るしいなを抱きしめた。
伝わってくる体温は依然、高いまま――――。
(……本当に大丈夫なのかよ…)
不安になり、ゼロスは腕の力を緩めた。
しいなが微かに身じろぎする。
苦しかったのだろうか…としいなの顔を覗けば、潤んだ褐色の瞳――。
「……ぎゅって、してて」
「…………ι」
(……拷問……かもι)
しいなの望む通りぎゅっと抱きしめると、安心したようにしいなは頬をゼロスの胸に預けた。
「……なんか話して??」
「……なんかって……」
「…ゼロスの声…なんか安心するから聞きたい…」
「………」
――そこまで言われれば何か言わねば男が廃る。
「………え〜と〜………」
普段はおしゃべりとか、口から先に生まれた――とか言われているが、いざとなると何を言えば
良いものか――……。
「俺さまは〜…もう何処にも行かねーし…しいなを一人にしたりしねーから………」
―――シンプルなことだからなのか、それが真実だからなのか―――それは、猛烈な恥ずかしさ
を伴った。女に浮いた台詞など星の数程言った筈なのに――。
「……しいなのこと……好きだから………」
「…………………」
「………………やっぱりな〜…」
案の定、しいなはすやすやと寝息をたてていた。
まだ身体は熱いけれど、呼吸は静かで寝顔も苦しそうではなさそうだ。
「……バーカ………」
ゼロスは呟いた。
へくしゅっ!!!
「………あ゛〜…」
ちーん……………。
「…………ι」
ゼロスは溜息をついた。
「……悪いことしたね…」
―――1晩眠りすっかり熱も下がり、回復したしいな――対してゼロスが風邪をひいてしまったの
だった。
しいなは流石に自分の風邪をうつしてしまったことに責任を感じているらしく、細々と世話を焼いて
くれる。
――しいなは昨晩のことを覚えているのだろうか――――かなり高熱だったから最悪何も覚えて
いないかもしれない。
「……なぁしいな〜」
「なんだい?」
「昨日俺さまが夜言ったこと覚えてる??」
「夜??なんか言ってた?覚えてないかも…」
「……あそ…」
安心するような、残念なような…………………。
「んじゃ、俺さまに言ったことは〜?」
――しいなの顔が見る見る赤く染まった。
「……ごめん……なんか……不安になっちまって……」
(へぇ…)
――意外にも覚えているとは…………。
「……迷惑、だったよね?」
だるかったけれど首を振った。
「薬と水、とってくるね??」
顔を赤くしたまま部屋を出ようとするしいなの手首を捕まえた。
「……俺さまも……一人にしないで?」
昨夜と同じように、しいなを抱きしめる。
「……薬と水……っ///」
「薬よりしいなの方がいい…」
――――この風邪は、きっとEndless―――。
end
2006.10.26up
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