<深遠>
暗いです。
暗い話が嫌いな方はもちろん、しいなが弱くて卑怯になっていますので許せない方は閲覧をご遠慮下さい。
精神年齢R18な感じでお願いします。
<深遠>
「……しいな……」
熱い息と共に呼ばれた名前―――――あたしの名前。
目を閉じる。
光の入らない、そこには漆黒の闇が広がってあたしはそこに身を委ねる。
深い深い闇の底で。
『……しいな……』
蘇る低い声にあたしは躯を震わせた。
『しいな……』
『……愛してる……』
低くて、優しい声。
嘘と知っていても―――それを確認する術がもうなくても、ただ聞きたかった。
優しい、手。
あたしのことをあたしより遥かに知り尽くしている、悪戯な手。
でも―――……。
違うよ……。生じた違和感に泣きたくなる。
違う。そうじゃ………ない。
「………しいな?」
呼ばれた声にどうしようもない違和感を感じて、あたしは首を振った。
違う……。
違うの……。
遠い。どうしようもないくらい遠い―――……。
「……しいな…?」
躯を軽く揺すられる――――だけど。
怖くて目は開けられなかった。ほんの僅か近付いた距離が離れてしまう恐怖に、あたしはただ、怯えた。
「……何処か痛むのか……?」
優しい声の質問にあたしはただ、首を横に振った。躯は痛くなんてない――――ただ、ただ胸が、この心が痛むだけ。
「……しいな……頼むから……泣かないでくれ……」
「…………」
あたしは目を開けた―――――心配そうな顔をしたおろち―――――。
――――あぁ………。
解り切ったことを目の前で確認してあたしは愕然とする。
もう――――抱きしめてはくれない。囁いてはくれない。傍にいてはくれないんだ―――――ゼロスは……。
綺麗な羽根を広げて、独り手の届かないところへ行ってしまった。たくさんの言葉の真偽さえ、教えてくれないままに………。
嘘でもいいからあの温もりにもう一度触れたかった。その温もりを他の誰かに求めた――――おろちはあたしを抱きしめてくれる。
あたしはおろちに抱かれながら、ゼロスを想う―――――おろちの温もりを利用して。おろちはきっとそれを知っている。
最低。
最低。
あたしは本当に最低な人間だ。
「………ごめん……あたし……」
何を謝っているのか、あたしは解らずに呟いた。
親を奪ったあたしを受け入れてくれた。こんなあたしを愛してくれた――――そんなおろちに、あたしは………。
あたしはおろちの傍にいる資格もないのに。一人ぼっちの寂しさに耐えられず、離れることも出来ない。
「……ごめんね……」
何も言わず、おろちはあたしを抱きしめる――――視界が暗く、遮られて温もりだけが伝わって来る。
どうして?
どうして、こんな最低なあたしをあんたは抱きしめるの―――?
くちなわのように憎んでくれてもいい――――それなのに。
それはどうしようもなく温かくて、痛くてあたしは泣いた。
暗闇はただ、静かにあたしたちを包んでいた。
end
2007.10.28up
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