<光>
<caution!!>
バツレナ前提で、レナデッドエンド後という設定です。非常に暗く救いのない内容ですので、閲覧はご注意ください。
戦いは終わった。
世界には光が戻った――――俺たちの‘光’を引き換えに。
<光>
レナを失った痛みは、静かに――――けれどたしかに俺たちを蝕んで行った。
「………大丈夫か?」
訊かれた質問に微かに俺は笑った。
「………お前こそ、大丈夫かよ?」
俺の言葉にくしゃっとバッツは顔を歪める―――泣きそうな、それでいて笑いそうな。
「……なんて顔してんだよ……?」
「………お前だって……」
「……………」
どうしよう?
俺はどうすればいい?
「……どう……すれば、いいんだろうな……」
バッツがぽつねんと呟いた。
「…………」
「……レナに、会いたい……」
俺はバッツの言葉に顔を上げた――――その蒼い眼はゆらゆらと暗い狂気をともしていることにさえ気が付かず俺
は―――その様を見つめていた。
「………レナ……」
―――その言葉はまるで、譫言のようだ。
いや――――魔法、かもしれない。
俺はそっと、その背中に腕を回した。
与えられる刺激に、ぴく、と躯が跳ねる。
「……っ…」
零れそうになる声を、喉の奥で殺した。
「――……レナ……レナ……」
譫言のようなバッツの言葉に俺は目を閉じる。
零すことの出来ない声の代償に、涙が零れ落ちた。
薄暗い部屋に、静かな寝息が響いていた。
俺は、絡まっていたバッツの腕をそっと外した――――何も纏わない素肌に意外な位に辺りは寒くて、バッツの温
もりを思い知る。
それは俺のものじゃない―――知っていても。
「………――レナ……」
本当はこの温もりはお前のものなんだ。
レナがいなくなって、世界と引き換えに全てを失ったバッツと俺は―――ただその寂しさややる瀬なさを紛らわすよ
うに寄り添っていた。二人ならなんとかこの孤独に耐えられるような気がしていた。
全く似てないって皆、言ってたけど、同じ瞳の色の俺の中にお前がレナを見たのは自然なことなのかもしれない。
お前は優しくキスをして、俺を抱いた――――レナの名前を呼びながら。
「……好きなんだ……」
最初はごく自然だった。刹那の幻でも互いが全てを忘れられるならいいような気がしていた。
―――でも。
最近は、ひどく俺は辛い。
「………バッツ……」
近くになんて、いなければ良かった。そうすれば気が付くこともなかった―――――バッツが好きだ、なんてことは。
気が付かなかった―――?
俺は自分に嘘を付いている。本当はずっと好きだった………。だけどレナが―――レナとバッツが幸せなら俺も幸せ
だって思ってたから………俺は、一生自分を騙して生きて行くつもりだったのに…………。
抱きしめられても、優しくキスをされていても、辛い。だって、愛されてるのはレナだから。
暖かいバッツの腕の中にいながら俺とバッツは遠く離れている。
1番近くにいるのに、誰より遠いんだ………。
もしも、お前が俺を傷付けようと思うなら、俺は怒るとか泣くとか、出来たのかもしれないな。そんなの違うこと、俺はよ
く知ってる。
だから………痛い。
痛くて痛くてしかたないのに、それでもいいから一緒にいたい―――まるでジャンキーだ。
俺は乱れたバッツの髪に手を伸ばした。
――――レナじゃなくって、俺が消えちゃえば良かった。
「………ファリス……?」
寝ぼけ眼でバッツが俺を見る。
――――レナと呼ばれなかったことに俺はひどく安堵した。
「……どうした?」
紡がれたバッツの優しい声に不覚にも涙が出そうになる。
「……なんでも……ない……」
「……今さ」
バッツは寂しげに笑った。
「……レナが夢に出て来た」
「………」
ずき……と胸が鈍い痛みを感じる。
懐かしそうに、愛おしそうに、笑う。
どこまで行っても俺とバッツの絆は‘レナ’と言う光に結ばれたものでしかないから。
その痛みを享受するのは当然のこと。
「……笑ってたんだ」
レナはいつも笑っていた。どんな苦境にあってもキラキラと全てを魅了する笑顔――――生まれながらに全てから愛さ
れていて、愛されて育ったお姫様。俺たちにとっての唯一無二の光。エセ物の俺とはえらい違いだ。
「……ごめんな……」
「……何謝ってんだよ…」
「俺……全然違うからさ…」
俺がもっとレナに似てたら――――俺がレナだったら……。お前は俺を愛してくれただろうか……。
違う。それは違う。
近付いても、近付いても光にはなれはしない。
「……バカ」
きゅっと、後ろから抱きしめられて涙が出た。
バッツは俺の背中に顔を付けてるから気が付いてない。
―――それで、いい。
歪でも、間違っていても―――俺はお前の傍にいるから。
夜明けは遥かに遠い――――。
end
2007.10.28up
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