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闇の中、ぱちぱちと焚火が爆ぜる音が響いていた。




「……コレットちゃん、寝てていーんだぞ」

焚火をじっと見つめているコレットに今日の寝ずの番をしているゼロスは声をかけた。



「……うん」





「………眠れねーのか?」



ゼロスの質問にコレットはぴくっと肩を震わせた。


……図星、か。


コレットがここ暫く、何か思い悩んでいるらしいことはゼロスは気付いていた。

体調が思わしくないことも。

「……なんか悩み事?俺さまで良ければ聞くよ?」

一瞬の躊躇。コレットはくすり…と笑った。

「……もし…ね?ゼロスがシルヴァラントの神子で、私がテセアラの神子だったら、今、どうなってたかな?」



「…………」



質問で、彼女はゼロスの問い掛けをはぐらかした。

だが………その質問は。

同じ神子として、生まれたコレットと、ゼロス。

考えたことがない筈はない。ゼロスは目を伏せた。




「…俺は…コレットみたいにはなれねーよ」



自分の身体も、与えられる筈の幸せも………人々のために失う――――ゼロスは首を振った。


ゆっくりと、コレットは首を振った。



「……きっとゼロスは、私と同じこと、したと思うよ………ううん。ゼロスは強いから、きっと、私みたいな失敗はしない
かも」

「…………」

俺のことなんか、何一つ知らないくせに。


微かな憤り。

俺がどれだけ、暗い人間か、冷たい人間か、非情な人間なんか知りもしないくせに―――――。



苛立ちからの感情で、コレットを抱き寄せていた。

華奢なコレットは抱きしめたら折れてしまいそうだ。

…………なのに。

その強い光を宿す青い目は―――ゼロスを射抜く。決して堕ちない天使のように―――。


「……どうして……?」


そんなに強いんだよ?

――――その強さに焦がれた。

その強さがあれば、迷わないのか?

その強さがあれば、恐ろしくないのか?

その強さがあれば、失うことを恐れずに済むのか?

「……その強さを……分けてくれよ……」


縋るように抱きしめた。

「…………私、強くなんかないよ………」


消え入るようなコレットの呟き。

「―――………恐くてしょうがないの……」

コレットは自ら、衣服を脱いだ。露になる白い素肌と―――緑色の―――それは―――――。

色は異なるが、すぐに分かった。ゼロス自身も持って生まれたというクルシスの輝石――――。


「―――寄生……天使疾患……?」


詳しくはないが、ゼロスにも知識は在った。

コレットはこくりと頷いた。

「……どんどん広がっていくの……」

神子特有の疾患だと言う。治療方法などありはしない。何故なら神子は世界に一人しかいないのだから―――たった
一人のために医療の進歩など有り得ない……。


「キモチ悪い……よね?……お願い……ロイドには言わないで…」

その言葉に胸が痛んだ。

―――愚かな俺たちは、無理だと解っていても期待せずにはいられない。

愛する者に愛されることを夢見てしまう…………。


――――同じ、なんだな。

彼女を癒すように、優しくキスした。癒す力などないと分かってはいたけれど――――そう願わずにはいられなかった。

「……気持ち悪くなんてない」

コレットの目から涙が零れた…………。



「―――どうして―……私たちは………」


コレットのそれは、言葉にはならなかったが、その言葉の意味は知っていた。

幾度同じ言葉を呟いただろう。

それはまるで呪詛のように。


―――『神子』なんだろう?

なぜ、自分なのか?



それに共感するのは、やはり『神子』でしかないのだ。

ゼロスは碧い、コレットの肌に口付けた。














「ゼロス!!いつまで寝てんだい!」

呆れたようなしいなの声にゼロスは目を開けた。



―――夢……?



あの儚いまでに細い肢体を抱きしめたのは幻――?

髪をかきあげて辺りを見渡す。そこに昨夜の残滓などある筈もない。



だが。




コレットはそこに立っていた。


「おはよ!ゼロス!」

「――おはよ……コレットちゃん……きの……」

コレットの小さな手で口唇を塞がれた。コレットはニコニコ笑いながら首を振る。

「幻……だよ?」

「………幻……?」

「私たち。お互いやらなきゃいけないことがあるもんね?」

その横顔はやはり気高く美しくて――――その強さは俺をひきつけて止まないのだろう。

まるで決して堕ちない天使のように―――――。



end


2006.9.18up