<愛>



ねぇ……何故なの………?




私たちは互いへの、憎しみを糧に生きて来た――――そうではないの………?





<愛>





形だけの『お兄様』。
貴方は時々ふらりと来ては帰って行く。

………私が貴方のクルシスの輝石を壊すとでも思っていた?

………そんなことするわけがないじゃない。
私の望みは、私のこの手で貴方を消し去ることだったのですもの。

―――叶えられなかった母の望み。

大体、貴方と私、何が違うと言うの?

母が違う―――貴方の母は神託を受けた聖母で、私の母は賎しいハーフエルフ。

―――ねぇでも考えたことはあります?

お父様が愛したのは、私の母なのよ?―――それならば真実、神子に望まれた『子供』は私の方ではなくて?
貴方は生まれ落ちるその時に、この石を持っていた――――それだけで。

貴方は神子で。私は修道院に幽閉されて―――――。



貴方には負けたくなかった。どうしても負けたくなかった………。



―――僅かな間、メルトキオに滞在を許された時、あの人を見た。


すぐに解ったわ。貴方のあの人を見る目は他の女と違い過ぎた。


『神子様、あの黒い髪の方はどなた?』

『あ〜?しいなのことか〜?あいつは俺さまのスウィートハニーよ』

『………』

奪ってやろう……そう思った。

私の母が貴方の母を奪い、貴方が私の母と私の自由を奪ったように、貴方の愛する者をこの手で―――――そう
すれば流石の貴方も、このくだらない兄妹ゴッコをやめる気になるでしょう…………?

あっさり返り討ちにあってしまったけれど……



――――私があの人にまた会ったのは、そのことを告げるためだった―――。

『……落ち着いて聞いて欲しい…』




――――ゼロスハシンダ。



何を言っているの………?

『ゼロスは死んだ』




アンタノタメダヨ。




『あたしがとどめを刺した。クルシスの輝石を壊したのもあたし……だ』

あの人は虚な目で私の前に、貴方の剣を差し出した。




『あたしを殺してくれ』





いや。ダメ。違う。
そうじゃ、ない―――――――。






狡いわ……。貴方のクルシスの輝石を壊すのは私の筈だったのに――――――――。







狡い。私の気持ちも、この人の気持ちも置いて逝ってしまうなんて許せない……………。





――――私は貴方を愛していたんだわ。それは歪んだ愛だとしても―――。





『お願いだから、あたしを殺して……』



彷徨うようなあの人に首を振った。


私は生きていくわ。


貴方の愛した人と同じ傷を負って―――生き抜いていくのが、私の不器用な貴方への、精一杯の愛―――――。






end


2006.9.23up