<Birthday>


宴はまだ、続いていた。

アルタミラのホテルの最上階で行われたプレセアの誕生日パーティー。

プレセアは遠慮したらしいが、なかなか集まる機会のない仲間たちが集まる良い機会だ……
とリーガルに説得されパーティーをすることになったらしい。リーガルの説得の甲斐ありそれぞ
れ多忙な仲間たちが集まることが出来た。


ゼロスは窓を開けた。

冷たい風が流れて来る――――。




<Birthday>






主役はプレセアだけにかなり健全なパーティーだった。

来ていたのも仲間たちばかりだし、気を遣うこともない―――けれど、夜風にどうしても当たり
たくなってゼロスはベランダに出た。


ベランダには、先客がいた。紫色のドレスのリボンがひらひら夜風に舞っている。

「……なんだ。しいな、こんなとこにいたのかよ?」

「………あぁ…。……ゼロスか…」

しいなはゼロスを認めると、またアルタミラの夜景に目を戻した。

「なんだよ〜?パーティーの花のゼロス様が来たってーのにつれねーなぁ」

「…自分で花って言ってりゃ世話ないね」

「でひゃひゃ…違いねぇ」

「………ところで、ジーニアスの贈った髪飾りなんだけど…」

ジーニアスはプレセアに髪飾りをプレゼントした。プレセアのピンクの髪に映える華奢な細工の
髪飾りだ。プレセアもかなり気にいったようで彼女にとっての最大級の笑顔を見せていた。

「……あれってさぁ…」

しいなは何かを言いたげにゼロスを見上げた。

「…ん〜?…あの実にプレセアちゃんに似合う趣味の良い髪飾りかぁ〜?」

ゼロスの言葉にしいなは肩をすくめた。

「……やっぱりね。あんたが選んだわけだ」

―――いくらジーニアスがませていてもあんな髪飾りを12やそこらの少年が選ぶとは思えない。

………となると、それを選ぶ人間は彼の周りでは限られてくる。

―――プレゼント慣れした人間と言えば一人しかいない。



「おぉ〜…。珍しくしいな、鋭ーい!……と言いてぇところだけど…俺さまは候補を選んだだけ。最
終的に決めたのはがきんちょだよ」

「…ふーん。そうなんだ」

「内緒だぜ?がきんちょには口止めされてんだ」

「ジーニアスにしては気が利き過ぎてるからリフィルとリーガルは気付いてると思うけどねー。まぁ、
ロイドとコレットは気付いてないと思うけど」

「……だよなぁ…。なんせ……」

「去年のプレゼント…」

「砥石だもんな〜」

あはは…と二人で声を出して笑い合った。ジーニアスは昨年の旅の途中、プレセアに贈り物をす
る機会があった。

自称『愛の伝導師』ゼロスにプレゼントの選び方を学び、周囲の人間に入念なリサーチを行い選び
出したプレゼントが砥石………だったらしい。

「……あれじゃあ俺さまの教えは全く役に立ってねーよなぁ…」

「でも、プレセア愛用してたよ?今でも愛用してるみたいだし、あれはあれでいーんじゃないかい?」

「…まぁインパクトは大事かもな〜」

「ところで、あんた自身は何をプレセアにあげたんだい?」


「俺さま?…俺さまは花束。花が嫌いな女の子はいねーからな」


――そう。花が嫌いな女性はいない。そして、後には何も残らない。

―――だからこそ、花はゼロスの常套手段だった。

「……花かぁ…。そうだね。花はうれしいね。ただ……いつか枯れちゃうから……少し寂しい気もする」

―――本質をさりげなく、突かれてひやりとする。しいなはもちろん自覚などないようだ。

「……しいなは何あげたのよ?」

「あたし?……あたしは苻だよ」

「苻〜?!…なんだそりゃ?お前それじゃあジーニアスと変わらねーじゃねーか?…しかもプレセア
ちゃんは苻なんか使わねーぞ」

「……苻って言うのはね、書く文字や模様で意味が全く違ってくるんだ」

しいなは人差し指を上げて言った。

「…あたしが普段使ってるのは闘いの為の苻だから、闘いの為の呪が込めてある。あたしがプレセア
に贈ったのとは全くの別物さ」

「…ふーん。じゃあプレセアちゃんにあげたのはどーゆー苻なんだ??」

「……禍いを遠ざけて、幸せを招く……そーゆー願いをかけた苻さ。……大変な人生だったからね、こ
れからが幸せでいっぱいになるといい……そう思ってさ……」

――淡々と語るしいな。自身も楽な人生では無かった筈なのに―――そう言うしいなの不器用な強さ
は、抱きしめたいほどにいじらしい…と思う。だが、しいなは見つめて来るゼロスと目が合うと、眦をぎゅっ
と上げた。

「…なにさ。似合わないとか思ってんだろ?……安っぽいし!」

「…おいおい!そんなこたねーよ。………それってもうすぐな俺さまのバースデーにもくれるわけ??」

「はっ!迷惑だろーからあんたには、違うもんを考えとくよ。……ミズホに伝わる髪が毎日少ーしずつ伸
びる人形とか、どうだい?」

「…マジ勘弁してくれ!どーせ金かけねーならちゅうとか〜」

ガンッ!

「……もう殴りません…って言う証文の方が俺さまうれしい……」

「……考えとくよ」

ゼロスを殴った手を腰に戻しながらしいなは言った。

「……あんたの誕生日って……」

「ん〜。あと2ヶ月位先だな。メルトキオに雪が降るちょい前…だ」

―――雪が降る前には南に長期滞在する神子は、旅立つ前にはバースデーパーティーをいつも派手
にしていた。

「今年もまた派手にやるのかい?」

「さぁな〜。もう俺さま、神子じゃねーし、ハニーたちもそんなに集まらないかも」

―――神子でなくとも、ゼロスは今でも圧倒的な人気を誇っている。彼が呼べば集まる女など掃いて
捨てる程だろう。

―――それ位、しいなだって知っている。

……けれど。しいなは笑った。

「…そしたら今日みたいに皆でパーティーしようよ。それ位の理由がなきゃ皆集まれないしね」

「……それもいーかもな」

「ハニーいないよ?」

「いるじゃねーか!!」

「あ。ロイドか」

「おいおい!しいな〜」

二人でくすくす笑い合った。



「……ところで、しいなって誕生日いつ?」

「……え…」

しいなの表情が僅かに強張った。

「プレセアちゃんは今日だろ〜?コレットちゃんは4月、リフィル様は2月……俺さま、しいなのだけ知ら
ねーぞ?」

「女だけかいっ!」

「…どーして俺さまがヤローの誕生日をチェックしなきゃなんねーんだ!?俺さまがチェックするのは女
の子だけだっつの!……で、いつ???」

「………さぁ……ね…」

「なんだよ?けちけちしねーで言えってば。俺さま、奮発しちゃう…「分からないんだ」………」

少ししいなは眉を下げた。けれど、笑ってみせる。

「あたし、誕生日がわからないんだ」



―――あ……そうか……。

自らの発言の不用意さに舌打ちしたくなった。

生まれた直後に、ガオラキアの森に捨てられたというしいなは、正確な誕生日など分かる筈もない。

「……初冬に拾われて、首が座ってたっていうから秋なんだろうけどね……。ミズホではあまり誕生日を
祝う習慣もないから不便はなかったのさ」

しいなは、さばさばと言って、笑う。

「…まぁ、今も困ることもないし、歳が分かればいいかなって」

しいなは歩き出した。

「さ。この話しはもうおしまいにして、戻ろう?」






「―――それ、困る」






「……え?」

「それ、俺困る」

「……な……何言ってるんだい?」

「………俺、しいなの誕生日祝いたいのに…困るじゃねーか!!」

「…困るって言われても……分からないもんは……」

ゼロスの剣幕にたじろぎ、しいなは後ずさった。

後ずさる身体を強引に抱き寄せた。



「……俺が決める」

「は??」

「今日」

しいなは溜息をついた。

「あんたねぇ…プレセアと一緒じゃないか。テキトー過ぎるよ」

ゼロスはにやりと口角を上げた。


「一緒じゃねーよ。ほれ」

ゼロスが指を上げると、アルタミラのホテルの大きな時計が12時を告げる鐘を鳴らした。
日付の変化を告げるためかアルタミラの遊園地のアトラクションが一斉にライティングの光の色を変え
た――――。




「…おめでとう。しいな」

しいなは諦めたように微笑んだ。少し俯いて頬をゼロスの胸につけた。

「……ありがと。ゼロス」















「……ところで今日があたしの誕生日なら花は??」

「…え。あー。…花はねーけどよ、花より美しい俺さまを…」

「いるかっ!!」



end


2006.10.8up
すーころん様リク Special thanks!!