<beauty & beast...?>
「んじゃね〜♪今度行った時また顔だすよv」
「絶対ですわよ!ゼロス様っ!!」
「……」
ふぅ……と軽い溜息をつき酒を口に運ぶゼロス―――を見上げてジーニアスは首を傾げた。
<beauty &beast...?>
「……んだぁ?どーした?がきんちょ」
「いい加減がきんちょはやめろってば!」
「でひゃひゃ……事実は事実じゃねーか。で何俺さまに張り付いてんだよ?
プレセアちゃん
ならあっちいたぜ?」
――――此処はパーティー会場。テセアラとシルヴァラント国交回復2周年のパーティー……
そこにかつての仲間たちは集まっているのだった。
ゼロスはまとわりつく貴族の娘たちを適当にあしらっていた。
「……あのさぁゼロス…」
「ん?なんだよ?」
「貴族のお姉さんって皆綺麗だよね?」
「……は?」
ジーニアスらしからぬ発言にゼロスは目を見開いた。
「………まぁそりゃ皆さん、時間も金も手間もかけてらっしゃるし?」
「……ふーん……」
「なによなによ?興味持っちゃった〜?紹介してやろーか〜?」
「い……いいよっ///……たださぁ。こんな綺麗な人たちに囲まれてて……」
同じく人に囲まれているコレット――――ゼロス程ではないがやはりシルヴァラントの神子であ
るコレットも大量の人間に囲まれていた。
精霊研究所のスタッフとなにやら議論を戦わせているらしいリフィル―――遺跡モードだ。
「―――例えばさ、コレットと姉さんなんかは解るんだ。……レベル高いじゃない?」
「まぁなぁ。あの二人なら貴族の娘たちにもはっきり言って余裕な程美人だもんな」
とてとてと歩くプレセア。相変わらず無愛想だが、ドレス姿は愛らしい。
「……プレセアもさ。あまり見れないけど笑顔を見たら皆好きになっちゃうと思うんだ」
「……まぁプレセアちゃんは可愛いよな。好きになるかは別問題だけど……」
「……でもさぁ……」
―――会場中の多くの者が息を飲んだ。会場のドアからゆっくりと一人の女性が入って来る。
どきり……とする程に露出度の高いドレス。露出が厭味にならないのは彼女のスタイルが抜群
だからに他ならない――――わざとらしい位ゆっくりと歩むその様は毛並みのよい猫を思わせ
て――――。
「……わ〜。しいな綺麗だね〜」
コレットが声をかけた途端――――しいなはこけた。
「「……………」」
「いったぁ……あ゛〜!!!やっぱりハイヒールは嫌いだよっ!!」
ヒールに逆切れするしいな――。
助けようと手を差し出したコレットがまたもこけ、ワインを倒し―――凄いことになっている。
「……あ〜あ〜あ〜…」
「………これだから田舎者は……」
「………それだ!」
「………は?」
「……しいなって綺麗だけど垢抜けない……ってゆーか……田舎者っぽくない?」
「は?だから?」
「どーしてしいななわけ?? 綺麗な貴族のお姉さんが周りにいて……どーしてしいななの??」
「「………………………………………………………………………………」」
二人は見つめ合った。
「………難しいこと聞くなぁ。ジーニアス…」
「あ!? がきんちょから卒業した!」
「……」
ゼロスは黙ってしいなを見た―――。
「シルヴァラントに野良猫っているか??」
「は?野良猫??」
「野良犬はたくさんいたよな…」
「野良猫もいるけど……なんで??」
「野良猫って警戒心が異常に強くて懐かないのが多くない??」
「……あぁ…。そうかもね」
「しいなを手懐けるのは野良猫を手懐けるのに近い」
「………」
「あんだけ気の強い女を自分の方になびかせる……これこそ男のロマンってーのー?」
「…………………」
半眼になってジーニアスは苦笑いした。
「…ん?俺さまのロマンわからねーか〜?」
「ん〜ん。似た者同士だな…って」
「……は?」
「しいなが前言ってたよ。ゼロスはロクデナシの荒馬だって!」
「………」
―――それは、それは。
苦笑した。
「誰がロクデナシだっつの…」
ゼロスは呟いて歩き出した。とんでもない惨状を繰り広げているしいなに近付く。
「……おーい。そこの野良猫〜。何やってんだ〜?」
「……は?」
しいなはキョトンとゼロスを見上げた。
「ほれ」
ゼロスはしいなに手を差し出した。黙ってその手につかまるしいな―――。
人前で手を繋ぐことすら嫌がると言うのに―――。
「ありゃ?」
ゼロスはしいなを立たせながら首を傾げた。
―――更にしなだれかかってくるしいな――――。
「……野良猫が野性を失ったか??」
「さっきから何訳わかんないこと言ってんだい!……大体猫って……兄妹揃ってあたしを猫呼ばわ
りすんじゃないよ。ホントに似た者兄妹なんだから!」
「え〜?俺さまってセレスにも似てるわけ〜?」
「逆だろ!大体セレスに『も』ってなんだい?あんたに似てる人間なんてセレス位なもんだよ!ほんっ
とに捻くれた兄妹なんだから!」
「ん〜さっきジーニアスに俺さまとしいなは似てるって言われた」
しいなは目を見開いた。
「あ……あんたとあたしの何処が似てるって!?冗談じゃないよ!!」
「ん〜俺さまも釈然としねーんだけどさぁ……猛獣使い的なとこ?」
「猛獣はあんただけだよっ!!」
「ん〜……まるで毛を逆立てて怒る猫のよーだ…」
「ふざけんなっ!!」
どつきが来るか―――と思いきやしいなは殴っては来なかった。むしろ先程からしっかりとゼロスに
つかまっている。
――――人前で手さえ繋がせないしいながこれは………?
「おい。お前どーかしたのか……?」
耳元でたずねた。
「……足」
「足?」
「……さっきのでくじいちゃったんだよっ!!」
―――見ればしいなの左足は浮いた状態だ。
「なんだ……そーゆーことか…」
「もうハイヒールなんて大嫌いだよ!」
「そんなこともないぜぇ?こんなことも出来ちゃうしぃv」
「……は?……ってきゃあぁぁ!!!」
――――しいなを突然‘お姫様抱っこ’したゼロス―――――当然どよめきに包まれるパーティー会場
――――そのほとんどが女性のブーイングの声だが。
「んじゃ。あとよろしく〜」
―――呆気にとられる周囲を置いてゼロス――――としいなは去って行った。
「も〜!!!バカバカバカバカバカぁっ!!!」
「うわっ!!いてっ!!ひっかくな!バカ!!うわっ…!」
どさり……とベットの上に二人で倒れ込んだ。
―――しまった…!はめられた…!!
……と気付いても既に遅い。
「……も〜!俺さまの美し〜顔に傷が付いたらどーしてくれんだよ〜!世の女性が泣くっつーの!」
ゼロスはぶつぶつ言いながらも、周到にしいなの身体を捕える。
「……あんたのさっきの行いの方がよっぽど女が泣くよ?」
「………ま。ぶっちゃけお前以外が泣こうが喚こうが正直知ったこっちゃないんだけどな」
「……ふん。よくゆーよ。この嘘つき」
――――そう思いつつも、間近な灰蒼の瞳に―――その耳触りの良い言葉についつい許してしまうのだ。
―――ったく……。
いつもいつも――――この荒馬には振り落とされそうだ。今まで骨折していないのがそうまるで奇跡のよう。
そう思いながら瞳を閉じた―――――……。
「………やっぱり猛獣を扱うには飴と鞭だな…」
「……はぁ?どの辺が飴でどの辺が鞭なんだい?」
「決まってんだろ〜。俺さまが飴で〜しいなが鞭〜」
「それじゃ意味ないだろ!……ったく………あ」
「あ?」
「あたしさ、思ったんだけどさ…」
「??」
「あんたは荒馬ってよりライオンかも!」
「お?お前もよーやく俺さまのミリキが理解出来たか??」
「バ〜カ。ライオンの雄ってなーんにもしないんだって」
「はぁ?」
「ハーレムって群れを作って、雄はごろ寝してるんだって。狩りはほとんど雌がして雄はごろごろ……ね?」
「ね?…じゃねぇ!…にしてもそんな羨ましい生活してんのか。ライオンは!」
「なに言ってんだい。今のあんたと大して変わらないだろ!」
「え〜じゃあしいな。俺さまのこと養って〜」
「無理無理。あんたみたいな金のかかる男、養えるわけないだろ」
ひらひら手を振りながらしいなは身体を起こした。身体にはしっかりとシーツを巻き付けている。
「……あ。しいな」
「え?」
再び身体を引き寄せて、強引に抱きしめる。
「な……な……なんなんだい!!あんたはっ////」
―――今更『なんなんだい』はねーだろ…―――思いつつしいなの首筋にキスをした。
「あ〜!!バカ!!跡になっちゃったじゃないか!!」
「バ〜カ。跡に『なった』んじゃなくて跡に『した』の!」
「なにすんだ!バカ!!」
「俺さまの猫が誰かにさらわれないように、首輪v」
しいなは見る見る内に紅くなって、怒鳴りつけてくる。
「バカ〜!!!」
さっさと起き上がって立ち去ろうとするしいなだが、ぴたりと動きを止めた。
「ん?どした?どーした〜?」
「やっぱり足が痛くて立てないんだよっ!!」
「……あ。そーか〜」
にやりと笑うゼロス―――あ……と思う瞬間にはその瞳に、その腕の中に、捕われている。
「んじゃ、もー少しこーしてよーぜぇv」
「……はぁ…」
―――つくづくこいつの思う壷………溜息をつきつつ、しいなはゼロスの背中に腕を回した。
「……お?珍しく素直じゃねーか??」
「知らないのかい? 野性の動物はなかなか懐かないけど懐いたら長いんだよ」
「…………」
ゼロスは目を見開いた――。
しいなは顔を上げないので表情は判らないが、耳先まで紅くなっていて照れていることは明らかだ。
「………へへ……じゃ……俺さまだけにだけ聞かせろよ―――?」
「???」
「しいなの甘〜い鳴き声v」
―――――『調子に乗るな!』――――その言葉はゼロスの口唇によって塞がれた。
――――ったく……これじゃどっちが猛獣だかわかりゃしないよ……―――白く飛びそうになる意識の片
隅でちらりとそんなことを思う。
――――なるほど……
「………やっぱりジーニアスって天才かも……」
掠れがちな息の合間にそっと呟くとゼロスは不思議そうな顔をした。
「……なんで??」
「……あんたとあたしは所詮似た者同士かも……ってこと」
「かもねぇ…」
あっさりと認めるゼロス――――目が合った途端二人共笑い出した。
「も〜!!お前はムードねーな〜!!」
「あんただって人のこと言えないだろー!!」
くすくす笑いながら軽いキスを交わした。
二人の夜は長い―――――多分。
end
2006.12.29up |
|