<愛のことば>
好きなんだ。
大好きなんだ。
だから言わせたい。
<愛のことば>
「………好きだよ」
「……ん…」
ファリスは目を閉じる。そのままその瞼に、その頬に、その口唇に口付ける。
「……ファリス……」
「ん…………」
*************
ちゅんちゅんと喧しく鳥が鳴いていた。
朝日に照らされるファリスの綺麗な顔。俺はうっとりとその頬にキスをする。
「……んー…」
「………」
俺はふとしたことに気付いた。
ファリス………昨夜から殆ど「ん」しか言ってない!!
俺はファリスの世にも美しい寝顔を見ながら考えていた。
『好きだ』とか『愛してる』とか『可愛い』とか……愛の言葉を囁くのは俺ばかりでファリスから聞いたことがない……!
愛されてないのか?
いや。そんなことは――――大体こんな頑ななファリスが好きじゃない奴にこんな隙だらけなわけがない!
―――いや。待てよ?
会って間もなく、部屋に鍵もかけずぐーぐー寝てたのは何処のどいつだ……?
いやいやいやいや!
単に照れてるんだ!
そうに違いない!
自分で自分をそれなりに納得させて俺はファリスの長い髪を指に絡めた。
でも…………言って欲しい。
『好き』って。
この綺麗な口唇に言わせてみたい――………。
俺は考えた。
俺がファリスを戦闘中守ってみたらどうだろう?
ただ普通にファリスは強いので、そのままじゃ無理だ。
と言う訳で。
「……ファリス。今日から白魔導士にジョブチェンジ。でレナがモンク」
「えー?!俺が!?」
「白魔のアビリティーあったら便利だろ?」
「………」
「わー。レナ、チャイナドレス似合うー!」
そこにはさっさとジョブチェンジを済ませたレナがいた。赤いチャイナドレスにお団子―――確かに可愛いか
も………。そっか……レナのモンクはチャイナドレスかー……ファリスもチャイナドレスだったらいーのになー……。
だ……ダメだ!
蹴りを入れる度にファリスの綺麗な足が見えたら戦闘に集中出来ない!
……他の奴に見せるのも腹立たしいし。
ばきっ。
「……人の妹の足見て鼻の下伸ばしてんじゃねぇ!」
「…………」
……ファリス。せめて蹴りを入れるのはモンクから白魔導士にジョブチェンジしてからにしてくれ……。
ててててててて♪
ててててててて♪
(※※FFお馴染みの戦闘のテーマ※※)
と言うわけで前衛は俺とレナの二人。ファリスは白魔導士でクルルは時魔導士だ。
レナの攻撃!
モンスターAに850のダメージ!
「……ゲームが違う」
「クルル!ぶつぶつ言ってないでヘイスガかけてくれ!!」
クルルはヘイスガを唱えた!
バッツの素早さが上がった!
レナの素早さが上がった!
クルルの素早さが上がった!
ファリスの素早さが上がった!
モンスターBの攻撃!
バッツに480のダメージ!
ファリスはケアルを唱えた!
バッツの体力が400回復した!
モンスターAの攻撃!
標的はファリスだ!!
ナイトの俺は反射的にファリスの前に飛び出す。ナイトの‘庇う’だ!!
だが、俺を襲ったのはモンスターの攻撃だけではなかった。後方から容赦のない杖の一撃。
こーーーんっ!
といい音が響いた。
「何すんだよー!?」
「お前こそいきなり人前に出てくるなっ!!アビリティーにカウンターつけてたんだよ!!」
…………なるほど。
…納得してる場合かー?!
そこに決まるレナの華麗な蹴りにモンスターは全滅した。
「…………」
ファリスの場合逆に支えてやった方が反応いいかも……。
よし。
「今度は引き続きレナがモンク、ファリスが魔法剣士、クルルはまた時魔な」
「はぁー!?俺またジョブチェンジかよ?!」
「いーじゃん。魔法より前衛がいいんだろ?」
「………まぁそーだけど。でもあんまりジョブをころころ変えてっとアビリティーがイマイチ……」
「まーまー。とりあえずこれでいってみようぜ?」
******
ててててててて♪
ててててててて♪
(※※FFお馴染みの……以下略※※)
モンスターの攻撃!
痛恨の一撃!!
ファリスは1000のダメージを受けた!
身体をよろめかせるファリス―――早速チャンスだ!
さぁ!俺の愛のポーションを受け取ってくれ!!(※バッツは今薬師です※)
レナはケアルラを唱えた!
ファリスのHPが回復した!
なにーーー!?
「……ってかレナ白魔マスターだから。アビリティーに白魔付けてるんだよ。モンクだからバッツより素早いしね……」
クルル……冷静に解説しないでくれ……。
ファリスの攻撃!
モンスターを倒した!
………ファリス……。相変わらずなんて見事な剣捌き……。
「バッツ。バッツ。うっとりしてていーの??」
「……え?」
そこには肩を寄せ合って互いの無事を確認するファリスとレナ。
「姉さん、大丈夫?!」
「あぁ。レナのお陰で大丈夫だ。レナこそ怪我はないか?」
「うん。大丈夫」
「レナ……ありがとう……」
「ううん……」
今にも抱き合ってちゅうでも始めそうな二人……。
「…………クルル。リターンかけて」
「………」
「戦闘中にいいかっこしようとするのが無理あるんだよ」
「ってか、俺……戦闘以外でカッコつくとこあるかなぁ……」
「……確かに」
「……同意しないでくれ……」
「他の作戦にしよーよぉ」
「他って何……?案はあるのか?」
「嫉妬させてみるとか?」
「し……嫉妬??」
嫉妬なんかファリスがするだろーか……。
「それをさせてみるのがミソなんじゃん!」
と言う訳で――――。
「な、なぁ?ファリス?」
「ん?」
「う……う……腕相撲しないかっ?!」
がたっ(※※影で見守っていたクルルがこける音※※)
ん?なんか変な音したな??ま、いっか。
ファリスはきょとんとしていたが、にやりと笑った。
「言っとくが、俺強いぜ?」
「あぁ」
望むところだ!!
「Ready Go!!」
……う。本当にファリス強いっ……!!
だがここで負けたら男が廃る!!
俺は右腕に渾身の力を込めた!
「勝ったぁ!!」
「くそっ!!も一回!!」
結局、勝負は10戦10勝。俺の全勝だった。
「悔しい!!」
涙さえ浮かべて悔しがるファリス――――嫉妬してる!
「くっそー!!絶対負かしてやるー!!」
言いつつファリスは腕立て伏せを始めた……。
あれ???
「嫉妬はさせたけどダメみたいだ……」
「嫉妬の方向性が違うよっ!!」
え?そうなの?
「もう!!バッツ!!こっち来て!!」
呆れ顔のクルルは俺に計画を説明した。
レナをつかまえて、ファリスの前でいちゃつけ――って。
「えっ!?無理!」
「無理って……言わせたいんでしょ??『好き』って」
言わせたい――――言わせたいけど………。
「もう!じれったいなぁ。とりあえずレナのとこに行ってみようよ。レナには私が説明してあげるよ」
……そ………そんな……。
向かった先にいたレナは一人じゃなかった。
ぷんすか怒っているファリスが身振り手振りつきで俺の愚行を語っている。
「「……」」
肩を落とす俺にクルルは人差し指を口唇の前に立てた。
「もうっ!!本当にありえねーバカだよ!」
レナはくすくすと笑っている。
「本当にどーしよーもねーっ!!」
レナはだからと言って頷くわけでもなく、にこにこ笑っている。
「………でも姉さん、そんなバッツが好きなんでしょ?」
さらっと凄いことを訊くレナ。
「えっ……?!?」
真っ赤になるファリス―――。
言うか?!言うのか!?
「ば……バカッ!!んな……んなわけねーよ……」
がっくり……。
くすくす笑うレナ。
「姉さん可愛い」
レナーーっ!?
やっぱりライバルはレナだったのかー!?
動揺する俺に優しいレナの声が響いた。
「姉さん。想いはね、時々言葉や態度にしないと、伝わらないよ?」
「え……っ!おおおお俺は別にっ!!」
「そんなこと言ってると、バッツがよそ見するかもしれないわよ?それは嫌でしょう?」
「……………………………………………………………………………………………………………うん」
「「……」」
くすり……とレナは笑った。
「……あ……あのさ、クルルには内緒にしてくれよな」
「………はいはい。姉さんも、ね?」
「………うん」
「………」
さっきのファリスとレナの内容は嬉しくもあり、悔しくもあった。
俺ってダメだな……結局、ファリスのこと1番理解してるのはレナなのかも……。
『好き』って言わせたいだけで―――それは簡単な自己満足で、ファリスのことを考えてたわけじゃなかった……。
「……おい」
落ち込む俺の背後からファリスが声をかけてくる。
「……あのさ」
聞きたくない!!――――咄嗟に思った。
レナに言われて聞く愛の言葉なんて嫌だ。
ファリスの言葉で。ファリスの意思で言って欲しい……!
耳を塞いだ。
「!?」
『なにしてんだ?お前』と言いたげな顔で俺を見るファリス―――。
ファリスはちょこん、と俺の横に腰掛けた。
「………」
俺が聞いてないのを分かっていながらファリスは何かを言っている。強い意思を物語る形の良い口唇が動いている。
……愛の言葉?
聞きたい……聞きたくない。
でも―――でも……。
俺は誘惑に負けて耳を塞いでいた手を外した。
「……ってわけで俺は負けたわけじゃねぇ。絶対負かしてやるからな!!」
「………あ。腕相撲の話か……」
「……他に何がある」
ぶっきらぼうに言うファリス――――ほんとーに可愛くなくて、世界一可愛いひとだって思う。
「……っかしーな……」
今までの恋愛は絶対惚れられる方だったのに。こんなに惚れる予定はなかったのに。
「おかしいのはてめーの頭だ」
「………」
確かにおかしいのかもしれない。こんな毒舌すら、愛おしいんだから。
「………あのさ、バッツ」
「ん?」
緊張した面持ちのファリスが可笑しくて、顎を捕えてキスをした。
「……好きだよ」
「……!」
おそらく先を越されたファリスは目を見開いた。不機嫌そうに眉間に皺をよせ――――それでいて真っ赤になって、口をへの字にする。
「……ちっ」
レナがいたら窘めそうな舌打ちをしてそっぽを向く。
俺はくくっと笑った。
「ファリス真っ赤だよ」
「うるせーうるせーうるせー!!」
ぶんぶん首を振って溜まった熱を分散させようとしているらしいファリス――――ぎゅっと抱きしめた。
いつか、言って欲しい。
聞かせて欲しい。
言わせてみたい。
でも今は……俺だけの『愛のことば』でいい。
「……まぁ、いつか……」
「??」
不思議そうな顔をするファリスの耳元に囁いた。
「……好きだよ……」
end
2007.8.26up
<おまけ>
「ファリスーファリスー」
「ん?」
「これって何て読むんだ?」
「ん?バカ。こんなん知らねーのかよ。鱚。‘きす’だよ」
「それを逆に読むと?!」
「……は??」
「ちっ。ダメか!じゃこれは?!」
(※※『鍬』‘すき’の漢字を示すバッツ※※)
「………読めるかっ!!」
end
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