<Anniversary>
「ねぇねぇ。バッツって誕生日、いつ?」
年頃(?)の女の子と来たら質問の脈絡のなさと来たらない。
だが、そんな3人に囲まれて旅をしている俺―――流石に少しは慣れて来た。
その質問、何処から出て来た?――――なんて疑問は意味を持たない。
だから俺は自分の誕生日を伝えた。
「――えーっ?!ついこの間じゃない!」
「……あー……まーそうだな」
―――まぁ、別に誕生日なんて365日あるうちの1日で―――日々を過ごしていれば嫌でもやってくる。
それは俺にとって大きな意味なんかない。クルルみたいな女の子は違うんだろうけど……。
「じゃクルルは?」
「私はねー―――………
<Anniversary>
ぎしり―――。
ベッドのスプリングが軋んだ。俺はそれで半覚醒する………。
『………バッツ』
目を開けるとファリスがいた。
『………朝だぞ。起きろよ?』
少しはにかんだ笑顔―――――かわいいなー……。
『飯、出来てるからさ』
幸せだー。
―――って待て!!あのファリスがこんなかわいい起こし方するわけがない!
殴る。蹴る―――そんなん普通でひどい時はシーツを剥ぎ取られ床に叩きつけられたことがある。
『なにすんだよ!?』と言ったら『あれー?失敗したー。あのテーブルクロスだけ引っ張ってグラスだけテーブルに残る奴に挑戦
したんだけど?』と言われたこともある。
つい先日は顔に落書きをされたばかりだ……。
これは夢だ!!夢に違いない!!
その証拠に俺の耳に不吉な音が響いた。
きゅぽ。(※ペンのキャップを外す音※)
やっぱりーーーー!!!
俺は身体を起こし無我夢中で手を伸ばした。
―――果たしてそこには油性ペンを構えたファリスがいた。
あ……あぶねぇーー!!!
「何しようとしたー!?」
「嫌だな。……起こしてやろうとした俺の親切が解らないのか?」
しれっと言い切るファリス。な……なんて奴だ…!
「親切に起こすのになんで油性ペンがいるー?!」
「………………」
問い質せばファリスはふいっと顔を反らす。今度はだんまりか……!?
「前落ちなくて大変だったんだぞ!?こうしてやるー!」
俺はファリスから強奪した油性ペンをファリスの顔に向けた。流石にファリスは目を見開く。
「わっ!??バカ!!なにするんだ!!やだーーー!!」
無駄だーー!!
「ぐぇ」
後頭部に走った衝撃に俺の意識は遠退いて行った。
「あははー。たんこぶでけーなー」
けらけら明るい笑い声を出すファリス。
―――ファリスを襲っている(んな恐ろしいこと出来るか!)と勘違いされた俺は。
背後から思い切りクルルに殴られたらしい……。なおも笑い続けるファリスを俺は睨んだ。
「笑い事かー!」
「笑い事だ。クルルに一撃でやられるなんて恥を知れ」
「………」
確かに………強いって言っても相手は14歳の女の子……。ちょっと情けない………いや、かなり??
少し凹む俺にファリスはにっこりと笑った。
「飯、喰いにいこーぜー」
「……外?」
「外が良かった?」
「……別に……」
「今日は皆で作ったんだ」
「皆??」
「俺とーレナとクルル」
―――え゛。。。
俺は顔が引き攣ったのを自覚した。レナとクルルが料理……??
「お前なー……二人の前でそんな顔したら許さねーぞ?」
「しないしないしない」
「………二人共お前の為に頑張ったんだ。お前には是が非でも喰ってもらう」
「……いったい何を作った??」
ファリスの発言に少し恐怖を覚えつつ、俺は訊ねた。
「それは見てのお楽しみだ」
神妙な声で言う、ファリス――――背筋を冷たい物が這う。今までの経験から不吉な
予感がひしひしとする。
「こら。何処へ行く?」
「何か嫌な予感が……」
「バカ言うな。行くぞ」
「い……いやだーーー」
ぱんぱんぱん!!
「え!?」
弾けるクラッカーの音に俺は目を見開いた。
笑うレナとクルル。
「おめでとう!」「おめでとー」
「??」
意味が分からず、俺はファリスを見遣った。
「誕生日、だろ。少し遅れちまったけど……」
ぽん、とファリスは俺の肩を叩いた。
「………」
俺はクルルを見た。確か、少し前に誕生日を訊かれ答えた覚えがある。つまり――――――。
「ファリスに言ったらね、祝ってあげようって」
少し俺に顔を寄せて悪戯っぽく笑う。
「二人きりにさせてあげようと思ったんだけどねー」
「もう、変な気遣うなよ……」
俺は、クルルの頭を軽く小突いた。
「バッツが先走ったかと思ってめちゃめちゃ焦ったよー」
「んなわけあるか」
「さっ。バッツ早く早くー」
「………」
――――誕生日を祝ってもらう、なんて何時以来だろう?
少なくとも父さんが死んでからはずっとボコと旅をしていた。
だから、誰も誕生日なんて知らない――――自分でも忘れてしまう位だった。
「ありがとう………」
嫌な予感を感じた自分が少し恥ずかしい……。
レナとクルルは可愛らしい笑顔を浮かべ、俺を食卓へと招いた。
そこに広がる、料理。
「うわーーーー……頑張ったな」
「………俺がな」
ぼそりと呟くファリスは知らないことにして、早速食べることにした。
「………………」
とりあえず、無難そうなトマトソースの煮込みを食べてみる。
――――――ぶっ!??!
当然口にはできないので、俺は心の中で叫んだ。
なんだこれーーーー!?
「美味しい??」
可愛く首を傾げて、訊ねてくるレナ―――――あぁ、レナが霞んで見える。(※※涙で※※)
えらく辛い。これは……タバスコか??俺は涙と一緒に口の中の何かを嚥下した。
「あ……レナ……でもっ?!」
『少し辛いよ』という台詞はファリスの足が俺の足を踏み付けたことにより霧散する。
――――何すんだよ?!
という俺の目の抗議を涼しく見過ごしてファリスは、レナに笑いかける。
「美味いそうだ」
「……はい。美味いです」
「バッツー。次はこれー」
と言って、クルルが魚のムニエルをだす。見た目はいいんだけど……???
戦々恐々としながら、魚を口にした。
――――生臭――!!!!
さすがにファリスを睨んだ。これは誕生日を祝うように見せかけた嫌がらせか?!
しかし、俺を睨みつけるファリスの眼力はそんな俺の声を容易に掻き消す位の威力を持っていた。
「う……うまいよ……」
俺の声は消えてしまいそうに小さかったに違いない―――。
「………死ぬ」
ぐったりと俺はベッドに倒れた。辛さと生臭さとその他諸々の困難を乗り越え、全量を食べた俺――――胃の中で
戦争が起きている……!
「バカ。行くぞ」
だと言うのに。
結構容赦のないファリスのビンタが頬に落ちる。
「何すんだよーー!大体何処に行くんだよー。それにあれちゃんと監督してたのかよーー」
「一応な……。二人とも同時進行で勝手なことしてたからな……あれで済んでありがたいと思え」
「……」
「クルルは魚こわーいとかほざきだすし、レナはトマトの臭いがやだとかいーだすし………二人とも包丁持たせりゃす
げーあぶねーし火は弱火って言ってんのにファイガ使うし。氷水にさらせって言ったらブリザガだし……監督する俺が
どれだけ大変だったか………」
「………ほっといたら、死人、出たかな……」
「………かもな……」
「「…………」」
………妙にしんみりしてしまった……。ファリスは静かに俺を見て、続けた。
「でも二人とも本当にお前のことを考えた結果なんだ。礼を言ってやってくれ」
「それは……嬉しいしもちろん言うけどさ。……それより、ファリスは??」
「ん?」
「ファリスは俺に何かくれないの?」
『てめーふざけんなー!』とか言われそうだなーと思ったが、ファリスはあっさりと言った。
「だから、今からのみに連れてってやる。口直しを兼ねてな」
――――ちゅうとかでいーのになー。安上がりだし。(←余計なお世話)
なんて言う度胸は無論、ない。
俺は立ち上がった。
「では」
バーの淡い明かりに照らされたファリスは、どきりとする程綺麗だった。
長い睫毛が彼女の頬に暗い影を落としている。
「かけがえのないお前の」
―――え……。
「お前の誕生日を祝して、乾杯」
ちん、とグラスが鳴る。
ちょ……ちょっといい雰囲気だ……。
が。
さっさとグラスを空け、ファリスは恍惚とした表情を浮かべた。
「………っかー!!旨い!この1杯の為に生きてるね。俺は!!」
「親父かよ!?大体カクテルなんだから味わって――「すんませーん。焼酎くださーい。梅干しいれてね」……」
「んールゴル酒、焼酎、ビールだね」
「変な順位を付けるな!」
「……いいじゃねーか。いいじゃねーか。今日は無礼構だー!」
ファリス……それは俺の台詞だ……。
「あ。おねーさーん!あたりめもー!」
にこにこと上機嫌のファリス――――まぁ。いいか。
ファリスが笑ってくれると、俺もとても嬉しいから。
*************
「すぅすぅすぅすぅ……」
「…………奢りって言ったくせに……」
俺は泥酔した揚句、爆睡するファリスを背に帰り道を歩いていた。
金は俺が出したのは言うまでもない……。
「……う……っんー……」
「……」
起きたか?――――そっと背を見遣ると、目をこしこしと擦るファリス―――子供みたいな仕草に俺は苦笑した。
「――起きた?」
「んー……もうちょっとー」
ファリスがぎゅーとしがみついて来る。
「わ?!」
「……来年も」
「……え?」
「来年もやろーなー……来年も……俺がー祝ってやるからぁー………」
あふぅ……と欠伸をして、また健やかな寝息を立てるファリス。
「………はいはい」
来年も、再来年も――、一緒にいれたら、いいな。
俺の誕生日も。
君の誕生日も。
ずっと。
HAPPY BIRTHDAY!
2007.8.16up
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